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前回は、トレーニングの原理と原則というものをご紹介しました。限られた時間でトレーニングを行う市民アスリートにとって、効率良くトレーニング効果を引き出すということは、より小さい強度、少ない時間で、多くの効果を得ること、そして身体に感じる負荷が同じならば、より高いパフォーマンスを発揮出来るようになることです。今回のテーマはトレーニングの頻度、つまりタイミングによって効率的にトレーニング効果を引き出すことが出来る、超回復のメカニズムを紹介します。

トレーニング座学01で、運動量を決める三つの要素とは「時間(量)」、「強度(負荷)」、「頻度」であるという話を紹介しました。運動のパフォーマンスを向上させるためには、過負荷の原理と漸進性の原則に基づいて、少しずつ負荷や量を高めながらトレーニングを行っていく必要があります。筋力トレーニングやスピードトレーニングなどといった高負荷トレーニングを行う場合は、回復のための「休養」と「栄養」とのセットで考えることが重要になります。そして「超回復」を意識しながら次のトレーニングを行うタイミングを決めていきます。

超回復って何だ?

超回復とは、筋力トレーニングをしている人にはお馴染みの言葉だと思いますが、持久系スポーツをしている人にはあまり馴染みのない言葉かも知れません。

筋肥大や筋持久力の向上を目的とした筋力トレーニングでは、過負荷の原理、漸進性の原則に従い、適切なウエイトと回数で行うことによって、筋線維が損傷し一時的に機能が低下します。しかし十分な休養と栄養を摂ることにより、回復の過程で筋線維の太さや強さが一時的に初期レベルを上回ることがあります。これを「超回復」と呼びます。

超回復の状態の時に次のトレーニングを行えば、トレーニング効果が次第に上がっていくというものです。超回復は、筋力トレーニングによる筋肥大や筋持久力向上だけでなく、例えばランニングのインターバル走や距離走などでも、酸素摂取能力向上などの生理的な適応や、筋収縮に関わる運動神経の増加などといった効果を得ることが出来ます。

高負荷トレーニングによって損傷した筋繊維や、疲労して弱まった身体機能が超回復するのに要する時間は、一般的に48時間〜72時間と考えられています。しかし超回復の期間には、運動経験などによって大きな個人差があり、行ったトレーニングの強度によっても、種目や主動筋の種類によっても大きく異なることが分かっています。またトレーニングの強度が低すぎると超回復も小さなものになり、反対に高すぎると超回復が起こらない場合もあります。

次のトレーニングはいつ行ったら良いの?

初めて筋力トレーニングや高負荷トレーニングを行うと、翌日などに遅発性筋痛、いわゆる筋肉痛を感じるようになります。一つはこの筋肉痛が無くなってから次のトレーニングを行います。トレーニングした筋肉の真ん中を触って、まだこの鈍い痛みが感じるうちはまだ回復期間中なので、まだ十分な休養と栄養が必要ということになります。

慣れてきたら中2日や、中1日という間隔で行うのが一般的です。超回復は一時的なものなので、中4日や中5日などというようにトレーニングの間隔が空きすぎてしまうと、超回復が消失してしまいトレーニングの効果はあまり高まりません。

オーバートレーニングに気を付けよう

一方で、回復期間中にまた負荷の高いトレーニングを行ってしまうと、筋線維や身体の機能は初期レベルよりも低下してしまいます。それを何度も繰り返すことで機能がどんどん低下してしまい、トレーニングは逆効果になっていきます。この状態をオーバートレーニングと呼びます。

「毎日こんなに一生懸命トレーニングしているのにどうして成果が現れないのか?」と思っている人は、オーバートレーニングの兆候がないか疑ってみる必要があります。オーバートレーニングの状態が長く続き、根強い疲労が蓄積してしまうと、状況によっては半年以上にわたって体調が戻らないというケースもあります。ですから、トレーニングはやり過ぎるよりやり過ぎない方がよいのです。

オーバートレーニングを防止するためにも、効率良くトレーニングを行えているか確認するためにもオススメなのが、トレーニング日誌を付けることです。トレーニングの内容、強度、時間、その日の体調、タイムなどを細かく記録しておくことで、どのタイミングで調子が良くなったのか、また悪くなったのか、悪くなったとしたら何が原因になのか?などを後から振り返ることが出来るのです。それによって自分の超回復のタイミングと最適なトレーニング頻度を自分なりに見つけられるはずです。

トレーニング+栄養+休養=トレーニング効果

トレーニングの効果は、休養と栄養とのバランスが良ければ良いほど高まります。ですから、頑張って高負荷のトレーニングを行った後は、糖質(炭水化物)とタンパク質、それにビタミン、ミネラルをしっかり含んだバランスの良い食事を摂って、十分に休養し、心も体もリフレッシュしてから、また次のトレーニングを頑張るようにしましょう!

また休養にも、全く身体を動かさずにじっと休む方法のほかに、積極的休養(アクティブレスト)と呼ばれる、軽い有酸素運動やストレッチなど強度の低い運動を行うことによって、血液の循環を良くし全身に早く栄養素を届けたり、疲労物質を除去したりすることで疲労回復を早める方法もあるので、タイミングや疲労の度合いによって使い分けられるのがベストです。

【トレーニング座学 アーカイヴ】
#01 運動強度と主観的なきつさ
#02 エネルギー代謝(1)エネルギーの正体
#03 エネルギー代謝(2)糖と脂肪
#04 エネルギー代謝(3)筋肉のタイプ
#05 乳酸とスポーツの関係、LT
#06 LTとOBLA
#07 マラソンとLT
#08 トレーニングの原理と原則

監修者:肥後徳浩

元自転車競技選手。自転車選手時代にコーチから学んだトレーニング理論をベースに、方法よりも目的を生理学的、力学的に「理解する」ことと、体の反応を「感じる」ことを大切に、日々トレーニングに取り組んでいる。音楽レーベル「Mary Joy Recordings」主宰。
www.maryjoy.net