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イギリス発のブランドでありながら「日本人の体型に合ったリュックサック」が人気を博すkarrimor(カリマー)。特に登山用中型リュックサックであるridge(リッジ)は20年以上の歴史があり、現行で10代目となるロングセラーモデルです。日本で長く愛されているのは、ridgeが日本人開発者により日本向けに企画設計されているから。開発のきっかけや背景を「日本版ridgeの生みの親」と言われている松澤篤雄さん(karrimor international開発アドバイザー)に伺いました。
松澤篤雄さん karrimor internationalの前身であるエスビーエイ元社員。登山用品店向けの営業を担当した後、製品の企画や開発に携わる。本国イギリスからブランド哲学とモノづくりのノウハウを学び、日本向けridgeの開発を担当したことから「日本版ridgeの生みの親」と言われる。現在はkarrimor international開発アドバイザーとしてリュックサックの企画や開発に携わる。自身の工房ではリュックサックの修理も行っている。

時代とともに変化したリュックサックへのニーズ

OYM:日本向けridgeを開発することになった経緯を教えてください。

松澤さん:大きなきっかけは1980年代年後半からの中高年世代の登山ブームです。ユーザーの主流がトレッキング主体の中高年層になることで、見た目が勇ましいクライミングザックから実質的に楽で使いやすいトレッキングザックにユーザー指向が変化していきました。

そんな中、karrimorの生産拠点が本国のイギリスからアジア圏に本格的にシフトしました。近くの国で作っているので、一度イギリスの倉庫へ移したものを日本に輸入するのではなく、工場から直接送る方がいいですよね。直接送るのであれば日本向けに手を加えたものにしましょう、と協力をリクエストしました。

OYM:なぜ日本モデルを作ろうと思ったのですか?

松澤さん:イギリス人の体型に合わせて作られたリュックサックは日本人の体型に合わなかったんです。平均身長が7センチくらい違うので、ヒップベルトを締めて背負うと肩が浮いてしまいます。当時、すでにしっかりしたヒップベルトでリュックサックをちゃんと支え、肩の負担を減らすという流れになっていました。しかし、背中の長さや肩幅が合っていないと、せっかくの良いリュックサックが宝の持ち腐れになってしまいます。それがきちんと合う製品が欲しく、日本人向けの開発を提案しました。

ridge以前にも日本の要望に沿った製品はありましたが、当時メインのヨーロッパ市場と比べアジア市場は小さく十分な開発ができませんでした。例えば、背面の長さはちょうど良いのですが肩幅が広いといった問題が残っていました。このような問題をクリアにしたく、日本主導で企画することになりました。

OYM:日本モデルの開発に対してイギリス本社の反応はどうでしたか?

松澤さん:幸い当時の経営者とは1970年代前半にkarrimorが日本に上陸してから信頼関係を維持できていました。日本から製品のフィードバックや改善提案を行っていたこともあり、特に大きな支障もなく製品開発が認められました。私自身、開発を担当する以前は営業で登山用品店を回っていたので、当時のニーズはわかっていました。何をどう作ればいいかという道が見えていたのも、スムーズに進んだ理由かもしれませんね。

ridge30にはsmall、medium、largeの背面長の異なる3サイズがある。ひとりひとりの身体にフィットするという考え方が継承されたラインナップだ。

重量がかかる部位を細かく分析することで生み出されたフィット感

OYM:1999年の春に発売された日本向けのridgeですが、どのような点を意識して開発しましたか。

松澤さん:初代ridgeはベースになるモデルを本国のラインナップから選定し、日本人の体型を考慮した寸法、日本人の好みに合った仕様とカラーに変更しました。

登山用リュックサックは道具なので使う人のことを考えて開発します。肩幅の狭い日本人に肩幅の広いリュックサックはフィットしません。また、当時は中高年向けの製品は地味なカラーが多かったのですが、あえて明るいカラーを中心に展開しました。赤を「トマトレッド」、青を「ブルーウォーター」と当時の本国でのカラー名称をそのまま使用したのも印象的だったかもしれません。

OYM:背面長とショルダーベルト以外にも日本人向けに工夫したポイントがあったら教えてください。

松澤さん:端的に言うと「フィットする」ように工夫しました。ただ、楽に背負うための「フィット」は単に「密着する」ということではありません。特に女性の体型はイギリスと日本では大きく違います。測定値だけでは決まらない微妙な修正が必要になるので、標準的な体型の女性に実際に荷物を背負ってもらい、フィット感や姿勢の変化などを確認しました。また、年齢とともに背中が丸くなり、肩が前に出る巻き肩の方が増えることも考慮しています。

OYM:「フィット」についてもう少し詳しく教えてください。

松澤さん:大きさにもよりますが中型以上のリュックサックは骨盤を垂直に保った綺麗な姿勢の場合、7割程の重さが骨盤にかかるように作られています。

リュックサックの重さは主に腰と肩とに分散され、背中にもかかります。この重さはショルダーベルトやヒップベルト、背中のパッドなどの圧迫により身体に伝わります。ただ、人間の身体には骨や筋肉や神経などがあるので、圧迫を加えて良い部分と良くない部分があります。服のように全体的に覆うようなものではないのです。

例えば、鎖骨の下には太い血管があり腕に血液を送っているので、ここを強く圧迫すると腕が痺れてしまいます。背面では、肩から背中にかけての大きな筋肉と肋骨がリュックサックを支えます。肩甲骨は腕の動きに連動する骨なので、過度に圧迫を加えると動作に不都合が生じます。背中の下の方、肋骨のない部分は圧迫を加えても不快なだけです。腰部分はヒップベルトを締めることで、ランバーパッドと呼ばれるパッドが腰椎から仙骨付近に圧迫を加え、これにより重さが腰骨に伝えられます。さらに背骨にも圧迫が加わり、サポート機能も期待できます。

反対に、圧迫を加えない部分は積極的に隙間を作ることで換気ができる仕組みになっています。例えば背中には中枢神経が通っており、身体全体の体温調整に影響します。背骨が当たる部分に隙間を作っているのはそのためです。

このように、一律ではない身体の「どこに圧迫を加えるのか」、「どこに圧迫を加えないのか」という点がリュックサックのフィットのポイントになります。

背中の筋肉と肋骨が当たる部分はパッドが配置されているが、その下は肋骨がないため筋肉と内臓にプレッシャーをかけないようパッドが配置されていない。背骨が当たる真ん中にもパッドが配置されていないことがわかる。

OYM:このような基本的な設計はイギリスのridgeから引き継がれたのですか? それとも日本独自で開発したのですか?

松澤さん:イギリスのridgeというよりはkarrimorのリュックサックの考え方そのものです。背中のパッドだけではなく、形や構造について「なぜこうなっているの?」という問いに対し答えられるべきだと考えています。当時のイギリスの社長の言葉ですが「なんでここにパッドがこれだけ必要なのか。なんでここにはパッドがいらないのか」それをちゃんと考えた上で開発をしています。

このkarrimorの考え方は、本国でのレクチャーやカンファレンスなどの際にデザインチームのメンバーとの交流を通じて学びました。この考え方をベースに、日本人に合ったモデルを開発しました。特にモデルチェンジにあたっては本国のデザインチームだけではなく、長年お付き合いのある登山専門店のスタッフ、生産工場のスタッフ、職場のスタッフ、ユーザーさん、手伝ってくれた友人の協力なくしてはあり得ません。

“Nothing Without Purpose=目的のないものはない“という考えに基づくモノ作り

OYM:現行ridgeのコンセプトを教えてください。

松澤さん:「楽で使いやすい」をコンセプトとしたridgeですが、モデルチェンジごとにサブコンセプトをテーマに掲げて設計しています。現行モデルのサブコンセプトは「Versatility(多機能性)」です。

初代ridgeが発売されたころと比べ、現在はユーザーの年齢層、登山の指向、道具のバリエーションなどが幅広くなりました。道具や情報共有の進歩、登山道の整備も進み、シーズン問わず気軽に出掛けるユーザーも増えています。ridgeは一見シンプルな外観ですが、多彩な機能をもちオールシーズン、オールラウンドなリュックサックを目指して開発されています。特に現行モデルは大容量のフロントポケットを設けることでより多様な使い方ができるようになっているのが特徴です。

フロントポケットはマチがとられており大容量。ヘルメットを収納する想定で作られた。
サイドアクセスジッパー内側に付属レインカバーを収納する専用ポケットを配置。※30lの位置。40lはボトムアクセスの内側に配置。

OYM:実際に使用して印象的だったのが、サイドにあるワンドポケットへのアクセスの快適さです。

松澤さん:ridgeを作った当初は「水筒をリュックサックの外につけて歩くのはバランスが崩れてとんでもない!」という声もありました。しかし、ペットボトルが普及し、1リットルの水筒ではなく500mlのペットボトルで歩きながら水分補給するのが当たり前になりました。ペットボトルの高さに対して、浅ければポケットから落ちてしまいますし、深すぎると腕が回らなくて取り出せません。なので、ボトルが綺麗に収まるけど、なんとか取れるという深さになっています。

ボトルを入れて落ちる不安がある場合は、すぐ上にあるサイドコンプレッションウェビングにボトルの頭をひっかけられる。
入り口が斜めになっているワンドポケットはアクセスが快適。

OYM:特に注目されたい現行ridgeのポイントはどんなところですか?

松澤さん:特殊な型紙を採用した立体構造のヒップベルトです。平面のベルトだと腰骨の出っ張ったところが当たり、痛くなってしまう人が多いんです。

そのため縦方向に立体的にすることで腰骨の出っ張りが当たる部分を凹むよう設計しています。さらに中も肉抜きしてあるので、締めた時にフィットするんです。お店などでリュックサックを試すときはヒップベルトの縁と身体の隙間を確認してみてください。ヒップベルトの幅は広いにもかかわらず、腰に接しているのは2、3cmというリュックサックは要注意ですよ。

OYM:身体が3Dだから当たる部分も3Dでないとフィットしないということですね。

松澤さん:基本的にはその通りです。ヒップベルトがフィットすると背面にある腰部分のランバーパッドがフィットします。これにより、重量挙げの選手が巻いている腰ベルトと同じで要領で、背骨をきれいな形に保てるように背筋をサポートしてくれます。結果、体幹がいい状態になります。キュッと締まることで骨盤が垂直になり背中が立つことで、足上げも楽になるんですよね。

OYM:ヒップベルトの構造ひとつひとつに意味があるのですね。

松澤さん:ヒップベルト以外にも雨蓋の形やジップはどうやって作るかなどkarrimorには基本的なお約束ごとあります。ただの掟ではなく合理的な開発を目指しています。karrimorのコンセプトはブランドの名前の由来になった「carry more(もっと運べる)」ですが、それと並ぶスローガン「Nothing Without Purpose(目的のないものはない)」を製品を通して実現しているんです。


長年にわたり、ridgeが日本で愛されている理由は、日々変化するニーズに合理的な設計で応えるkarrimorの哲学にあることがわかりました。時流と共に進化していくridgeの変化に、今後も期待が高まります。

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ridge project 特設サイト
www.karrimor.jp/item/FEATURE_044.html

ridge 30 medium
www.karrimor.jp/category/ITEM_003_001_001/500789.html

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