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スノーアクティビティをする人にとって近年の雪不足は顕著で、気候変動は切り離せない問題だ。長野県白馬村・小谷村を拠点に活動するプロスキーヤー、大池拓磨さんに気候変動についての考えをうかがった。

プロスキーヤーとして感じる、雪山の変化

雪山での活動を生業とする大池さんにとって雪不足は生活に密着する問題だ。やはり、近年は確実に雪が減っていると感じているという。

「今年の1、2月は雪が多く、コロナ禍で来日する人が少ないこともあり、こんなシーズンは後にも先にもないと皆喜んでいました。ですが3月に入ると気温が高く雪が降らず、例年なら雪がまだ残っている時期でも今年はどんどん溶けてなくなってしまって。年によって降雪量に変動はありますが、15年、20年の長いスパンで見ると、明らかに雪が減っている実感があります」

©Hiroya Nakata

バックカントリースキーを始め、自然に触れた感じがした

小さい頃からスキーを楽しんでいたものの、自然の素晴らしさに気付いたのは、フリースタイルモーグルの競技を引退してバックカントリースキーを始めたタイミングだった。

「自分の足で山に登り景色を見たときに、こんなにも美しいものがあるんだと思いました。山の中で自然と触れ合い、調和している感覚。雪山を滑る意味や価値を感じました。そこから、環境問題を意識するようになりました」

プロスキーヤーとして世界中の山を滑り、自然を身体で感じたいという気持ちが芽生えた。海外の旅では自然の良い面だけでなく怖さも知り、自然に対する身の置き方を学んだ。しかし、自然の素晴らしさを伝えたり環境活動をする一方で、雪山に行くことでCO2を排出してしまうことに矛盾を感じるようになる。

「リフトや車、飛行機での移動でCO2を排出してしまうなど、雪山に入ることで環境に負荷をかけてしまう事実があります。環境活動をしているけど、地球を大事にしよう! と思い切り言うことができず、自分の中にモヤモヤしたものがありました。そのモヤモヤを晴らすためにニュージーランドに行き、サステナブルな旅をすることにしました」

©Go Ito

ニュージーランドでサステナブルな旅

大池さんとカメラマン、もう一人のプロスキーヤーの3人で、キャンプ場を周りながら各地のスキー場に向かう生活を1ヶ月半続けた。肉を食べず豆中心の食生活に変えたり、電力はソーラーパネルを使用したり、環境負荷が少ない生活を実践した。実際にやってみたからこそ分かったことがあった。

「肉を食べない生活を僕は苦に感じませんでしたが、お肉やチーズが大好きなカメラマンが肉を絶ってから山で集中できなかったり、体力が持たなくなってしまって。肉が必要な人もいるんだ、環境に良いという理由で誰でもなんでもやった方が良いというわけではないと、そのときに身に染みて感じました。ソーラー発電は電気を必要とするものが撮影機材だけだったり、キャンプ生活をしていたのもあり、無理なく実践できました。その時のソーラーパネルは帰国後も使っています」

ニュージーランドは再生可能エネルギーの普及が進んでいる。ラジオやテレビでも環境問題が頻繁に取り上げられたり、子供同士や家族で環境の話をしたり、日常の中に環境問題への意識が根付いているという。また、プロスキーヤーで環境活動家の人も多い。スキーをすることでCO2を排出してしまうことと、環境活動をしていることの矛盾にモヤモヤを抱いていた大池さんは、旅の中で環境活動をするプロスキーヤーにインタビューを行った。

「氷河の研究者でもあるプロスキーヤーは生活の中で完全なサステナブルを目指し、ソーラーパネルや5ドルの中古洗濯機を改造して作った小水力発電で生活していました。洗濯機に何本ものホースがダクトテープで繋がれ、見た目は雑に見えましたが、そのダクトテープがかっこよく見えました。自分にできることをライフスタイルに取り入れている人を目の当たりにし、自分のライフスタイルが気になり始めました」

©Go Ito

環境活動家からの言葉に後押しされた

環境を良くしようと考えるとき、完璧を目指す自分がいた。しかしストイックに考えると辛くなることもあった。

「ニュージーランドの環境活動家から、『もちろん、CO2排出ゼロを目指して自分一人でサステナブルな生活ができることは素晴らしいけど、それをしたから環境問題を解決できるわけでもなくて。少しずつでもみんなでやった方が世界が変わっていくから』というメッセージをもらいました。『難しく考えずにハッピーに考え、もっと雪遊びをしよう。そんな発信することで仲間を増やし、みんなで環境を良くした方がいいんだ』と言われて、心がスッキリとした状態で環境活動ができるようになりました」

©Go Ito

日本での発信とコミュニティ活動

スノーコミュニティ発の脱炭素社会の実現を目指し様々な取り組みを行う団体、Protect Our Winter(POW)のアンバサダーとしても活動する大池さん。

「白馬エリアのスキー場に向けて再生可能エネルギーでリフトを動かすための署名活動や、環境問題に関する勉強会をしています。最近ではHot Planet Cool Athletesという、中高生を対象とした環境教育プログラムを積極的に行っています。プロスノーボーダーとプロスキーヤーが学生に向けて雪の大切さや地球温暖化の仕組みなどを教えています。

POWアンバサダーとして登壇する大池さん

プロスキーヤーとしての活動以外に、夏場はキャンプ場を営んでいます。訪れたお客さんにトークショーを開いて自然や地域の良さや環境問題について発信しています。紹介したアクションを実践してみたという話を聞いたり、冬にスキーをしに戻ってきてくれることもあります。夏も冬も自然での遊びができるサイクルが出来上がってきていますね」

環境活動を続ける今、仲間やコミュニティの大切さを実感

忙しさから環境のことを考える余裕がなくなり、モチベーションが下がってしまったり、負担に感じてしまう瞬間は誰にでもあること。それでも、一緒に環境の話を楽しめる仲間が増えると、自然と環境問題がワクワクできる要因になるという。

「同じ思いを持つ仲間が増えることで、環境問題が身近で当たり前になってきています。僕の活動拠点の白馬村や小谷村は雪不足が問題となっていることから気候変動への意識が高い人が多く、コミュニティの中で気候変動の話題が頻繁に出るようになりました。最近では雪のイベントする際に、売り上げの一部を環境団体に寄付するようしています。僕が関わるイベントだけでなく、周りの仲間が関わるイベントでも同じような動きが見られるようになってきました」

好きなことを楽しみながら、環境活動を続けていく

環境活動をしていてもCO2の排出は避けられない。そんな矛盾から生まれたモヤモヤは、今はもう解消しているという。

「そもそも、モヤモヤしていること自体が良い発想を生まないし、ポジティブじゃないと思うんです。好きなことをやることでCO2を排出してしまうかもしれないけれど、人生の中で自分が本当に好きなことをやらないのも違うと思うんです。モヤモヤしてるだけでは仕方がないので、得意分野を活かして自分にできることから積極的に環境活動をしていきたいですね」

©Go Ito

環境問題に意識が向き始めても、行動することを負担に感じたりネガティブにとらえてしまう人も多いのではないだろうか。興味、得意分野など、ポジティブに無理なくできることを少しずつ探していけたら、大きな変化をもたらすことができるだろう。地球を守るためにも、アクティビティをこの先ずっと続けるためにも、楽しみながらアクションを起こす方法をこれからも模索していきたい。

大池拓磨
北海道函館市出身。スキーヤーの父を持ち、幼少期からスキーをはじめる。
モーグル競技を経て、現在は山岳フリースタイルスキーヤーとして活躍。白馬、小谷を拠点に活動する傍ら、小谷村のスキー場のゲレンデサイドでロッヂを経営しグリーンシーズンはアクティビティーガイドとキャンプ場の運営にも取り組みながら環境活動をしている。
パタゴニアスキーアンバサダー
Protect Our Winter Japanアンバサダー
Instagram:@takuma84.ooike

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