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2021年、全日本パデル選手権で悲願の優勝を果たした日下部俊吾さんは、エンジニアとして働きながら競技を続け日本一に輝いた。仕事をしながら頂点を極めた日下部さんのワーク・スポーツ・ライフバランスとは? 日本ではまだ馴染みが薄いが、ヨーロッパではメジャーなスポーツであるパデルの魅力をうかがった。

パデルとは?
40年以上前にスペインで生まれた、テニスとスカッシュを掛け合わせたようなスポーツ。欧州や南米を中心に親しまれ、本場スペインではテニスを上回る競技人口を持つほどの人気がある。

ダブルス形式でプレーし、コートのサイズはテニスの半分。ラケットはテニスより短く、ガット状ではなく板状であるため、どこの面に当たっても真っ直ぐ飛んでくれる。初心者でもプレーしやすく、すぐにゲームを楽しむことができる。

ルールはテニスとほぼ一緒だが、コートが強化ガラスの壁と金網に囲まれている。コートにワンバウンドした後に側面や後ろの壁にボールがバウンドしても、プレーを続行できることがパデルの特徴。ラリーが長く続くことから、パワーやスピードだけではなく戦略を駆使することが重要となる。

朝9時前、スポル品川大井町にあるパデルコートに行くと、男女問わず幅広い年齢の人がパデルを楽しんでいた。平日の朝7時から9時まで週に数回、初心者も含め様々な人と一緒にパデルをする施設の公式イベント、“朝パデ”が開催されているという。今年3月に行われた全日本パデル選手権で優勝した、日下部・レオンペアもその中でプレーを楽しんでいた。

スポル品川大井町、パデルコート

テニス経験者の筆者もパデルを体験させてもらった。少しラリーを繰り返すと、なんとなくポイントが掴めてきた。テニスでは芯を捉えて打つのが難しいが、パデルの場合はラケットの特性から面に当たりさえすれば、真っ直ぐ打ち返すことができ、打感も良い。壁を使うパデル特有の動きは少し難しかったが、一度球を取り損ねても壁に当たってから返球するセカンドチャンスがあるところが面白い。10分程度の体験だったが、みるみる上達している(?)感覚があり、もっとやってみたい、ゲーム形式でもプレーしてみたい、という気持ちになった。

パデルとの出合い

パデルはテニスと共通点が多いため、テニス経験者が始めることが多いという。日下部さんもその1人。中学、高校は部活でテニスをし、大学ではサークルでテニスを続けた。大学院1年の夏、サークルを引退したタイミングでテニスの先輩がパデルをしていたのをきっかけにパデルを始めた。

“朝パデ”後、インタビューに応じる日下部さん

「テニスはある程度続けると、それ以上は強い球を打てるようになったりミスを減らしたり、練習を重ねて突き詰めるしかないと思うんです。パデルはラリーが長く続くことから高度な戦術が必要だったり壁を使った独特なプレーがあったり、テニスにはない新しい要素が多く、すぐにパデルの虜になりました。

始めはテニス仲間や友達とパデルをしていて、そこから徐々にパデルの繋がりが広がりました。また、パデルに誘ってくれた先輩が日本ランキング保持者だったので、大会にも出場するようになりました。日本ではまだパデルの市場が小さいこともありますが、自身のランキングも10位以内に入るようになり、次第に日本代表として戦いたい、強くなりたいという気持ちが増しました」

壁に向かって球を打つ日下部さん。他のラケットスポーツにはない相手に背中を向けてのプレー。

パデルと仕事との両立

パデルにのめり込むようになるとパデル発祥の地、スペインにてパデル留学をするようになった。学生の間は時間に融通が効くため3ヶ月単位の留学を年に数回行っていたが、一般企業に勤めるとなると仕事を競技を両立するのが難しいことは容易に想像できる。

「理系職への就職かパデルでもっと上を目指すのかすごく悩みましたね。当時インターンシップでエンジニアとして働いていたスタートアップ企業に相談したら、『リモートで仕事はできるから、スペインに行きながら仕事もできるよ』と言われ、その会社で働くことに決めました。最近はコロナ禍で行けていませんが、スペインでパデルをしながら仕事をすることもあります」

その会社では週4日勤務しアプリ開発を担当する傍ら、副業でパデルのランキングのシステムを作ったり、大手企業の試着アプリを作ったりしているという。エンジニアの仕事の特性から、パソコンとネット環境さえあれば場所を選ばずに仕事ができることに加えて、会社の理解もありパデルを続けることができている。日本一になれたのは、職種と会社の理解があったからこそだと実感しているという。

全日本パデル選手権、初優勝

今年の3月に行われた全日本パデル選手権は、初めて賞金が出たりライブ配信されるなど、例年よりも注目度が増した大会となった。その中でペアのレオンさんと二人三脚で日本一を勝ち取った。

「昨年の全日本選手権の直後から、レオンとダブルスを組み始めました。7つ歳が離れていますが学業やインターンシップ、トレーニングにも熱心でパデルはもちろんそれ以外のことにも熱心に取り組む姿勢を見て、将来性を感じていました。また、レオンは学生で僕の働き方はフレキシブルで、どちらも時間に融通が効き練習時間を上手く確保できることも、ペアを組むきっかけとなりました」

左・日下部さん、右・レオンさん
ペアのレオンさんもインタビューに加わった。和やかな雰囲気からチームワークの良さが滲み出る。

日下部さんが主にゲームメイクをして、レオンさんがチャンスボールを得点に繋げていく。ペア力を強みに数々の試合で勝利を重ねてきた。

レオン「コートの外でも仲が良いほどお互いに信頼しているので、ここぞというときに一体感を持ってプレーできています。ペア力は勝負どころで発揮されていると思います」

コートでの練習は週4回ほど、その半分はペアで練習をしている。また、コートでパデルの練習をする以外にトレーニングにも力を入れている。

「最近はバーベルやベンチプレスなどで、筋肉量を増やすトレーニングをしています。他にも細かい動きに対応するために、縄跳びやダッシュ系のトレーニングをして瞬発力も鍛えています」

レオン「攻める力も耐える力も必要で、色々なシーンで力を出せる選手が強いと思っています。フェンスから跳ね返ったボールを打つときにはバーティカルジャンプが必要だったり、もちろんテニスのようなフットワークも必要で、パデルでは総合性が重要なんです」

パデルの魅力は入り口が広く、奥が深いこと

競技としてのパデルの側面には戦術や総合性の面白さがある。加えて、あらゆる人が始めやすいスポーツであり国内でも普及の兆しがある。

「パデルは老若男女誰でも楽しめるスポーツです。日本のトップ選手は若い人が多いですが、海外だと30代後半のペアが主要な大会で優勝したり、10代と40代のペアがいたり。戦術や経験が重要なので、年齢が高くても勝てるチャンスが十分にあります。

“朝パデ”でも上は60代の人がいたりと、幅広い年代の人と楽しめます。テニスの場合、プロになるとサービスだけでポイントが決まってしまうことも多くありますが、パデルはサーブは下から打ちますし壁も使うので、ラリーが続きやすいんです。始めるハードルが低く、すぐにプレーを楽しめる入り口の広さが一番の魅力だと思っています。それが世界でパデルが広まっている理由だと思います」

レオン「掴めそうで掴めないのもパデルの魅力です。ちょっとやってみるとすぐにコツを掴めるので、もう一度やりたくなって。2回目のレッスンをするとさらに上達できるんです。小さい成功体験を簡単に積み上げることができるので、気づいたら何回もレッスンに参加している、なんてことがよくあります」

日本パデルの過渡期 パデルと共に成長していく

全日本選手権で賞金が出るようになったりライブ配信が導入されたり、日本のパデル界は著しく成長している。

「良い時期にパデルと出合ったと思っていて、パデルと一緒に成長している感覚があります。特に全日本選手権で優勝したときは決勝戦の試合内容も良く、多くの方にライブ配信を見てもらうことができました。ライブ配信をサポートして下さった企業を始め様々な人の協力がある中で、自分達も良いプレーをすることでパデルの普及に貢献できました。パデルを広めるど真ん中にいられることにすごく幸せを感じています」

日本でパデルを普及させるためには、結果でインパクトを残すことも大切となる。直近の目標は、11月にカタールで行われる国別対抗の世界大会で本戦に出場することだ。

「国内で勝つことも重要ですが、日本チームとして成績を残せば国内外でのインパクトも残せます。日本チームは3年前に予選敗退していて、ハードルは高いですが今はここを目標にしています。しばらくは、エンジニアとして働きながらパデルを続けていこうと思いますが、いずれは拠点を海外に移したり、パデルの普及に注力したり、自分自身と相談しながらさまざまな道を模索していきたいと思います」

日下部さんのローカルスポット:スポル品川大井町

練習拠点となっているパデルコートがある。特に朝7時から9時の練習は、練習を終えてそれぞれが出勤、通学することが習慣化し、生活の一部となっている。イベントも頻繁に開催されており、ゲストとして参加したり、試合会場として使用されることもある。レオンさんとペアを組んでからは負けなしの、縁起のいいコートでもある。

日下部俊吾
1994年生まれ。大阪府出身。中学入学とともにテニスを始め、大学院1年時にパデルに転向する。エンジニアとして働きながらパデル2021年全日本パデル選手権優勝。ジャパンパデルランキング1位。
Instagram:@shungo_padel
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daiwa