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寒暖差が激しく体温調節が難しいこともあり、何かと体調を崩しやすいこの季節。良いコンディションを保つのも一苦労です。暖かくなる春を自分のベストコンディションで迎えたいところですが、そもそも良いコンディションとはどういった状態のことを指すのでしょうか? 言葉ではよく聞く「コンディショニング」の真意とは?

コンディショニングは食事や睡眠のようなリカバリー、ストレッチやヨガのような柔軟運動を指すこともあれば、筋力トレーニングをストレングス&コンディショニングと呼ぶことも。その範囲には広がりがあります。

そこで今回は身体を根本からリセットする方法を研究しているゼロイニシャライズの北村英志さんに、幅広い解釈で使われる「コンディショニング」について伺いました。コンディショニングの基礎と、自宅で簡単にできる身体のチェック方法を教えていただきます。

北村英志
コンディショニングトレーナー、鍼灸師。スポーツに特化した整骨院グループで約10年間の経験を積んだ後、「身体と心に耳を傾け、自分の身体は自分で整える」の考えに共感し、株式会社ゼロイニシャライズへ。トレーナー、鍼灸師として活躍する傍ら、stand.fmにて「北村英志の動くラジオ」を配信するなど様々な形で健康増進に注力する。

本記事を補完する内容として、ポッドキャストonyourmark Radioでも北村さんにご出演いただきました。こちらもぜひお聞きください!

コンディショニングとは「良い状態をキープすること」

onyourmark(OYM):食事や睡眠、筋トレやヨガなど、「コンディショニング」には幅広い解釈があると思うのですが、コンディショニングと聞いて、北村さんはまず何をイメージしますか?

北村英志:大会へ向けてトレーニングを積むアスリートには馴染み深いワードですが、一般の人がコンディショニングと聞いても漠然としたイメージですよね。私にとってコンディショニングは「良い状態をキープすること」です。日々体調を整えること、そして確かめることですね。

アスリートはピリオダイゼーション*が身体に染み付いています。追い込む時期か、身体を休めるべきかを期分けして、試合の時に向けてコンディションを高めていきます。

*ピリオダイゼーション = 長期間にわたって同じプログラムを継続するのではなく、1年を3・4パートに区切るなど、いくつかの期間に区切ってそれぞれの目的達成のためにプログラムを組むこと。オーバートレーニングとトレーニングのマンネリ化を防止し、達成目標を最大化するのが狙い。

細分化してみると、週間、月間で、身体に高強度の負荷をかけるタイミングを設け、その後には必ずリカバリーの時間を取ります。負荷をかけてマイナスになった状態をゼロに戻すというイメージですね。下がったコンディションを元に戻すことを繰り返しながら、少しずつパフォ―マンスアップのために状態を高めていくのがアスリートのコンディショニングと言えます。

OYM:運動をあまりしない一般の人の場合はまた違うのでしょうか?

北村:普段は意識していないと思いますが、人間は生まれた時から重力とともに生活しています。よく考えれば常に重力という負荷に抗って生活しているわけです。普段ただ生活しているだけでも、コンディションはマイナスに陥りやすいと言えます。

ですから、一般の方もアスリートと同じで「マイナスをゼロにする」という考え方が土台です。アスリートはゼロから1への積み上げを重ねて強くなっていきますが、一般の方は積み上げる前に再びマイナスに陥りやすい傾向にあります。なるべくマイナスにならないように気をつけることが重要なんです。

後で日常的にできるコンディションチェック法をお伝えするので、ぜひ自宅でやってみてください。自分のゼロベースを理解しておくことが大切です。

「動物」とは字の通り、本来動くようにデザインされた生き物です。しかし、肉体労働より知的労働の占める割合が増えた現代社会では、身体を動かす機会が減少しています。現代人は明らかに日常の運動量が足りないし、動きの偏りがあります。

コンディショニングの視点で見ると、生活が便利になった現代は、昔の生活様式に比べマイナス要素だらけです。日常的に運動量を計りながら、運動ができている時とそうでない時との体調の違いを把握する必要があるでしょう。

OYM:北村さんはNEUTRALWORKS.(REBOOTstretch)でトレーナーをされていました。これまで様々な人を見てきたと思うのですが、コンディションが悪くなりやすい人と、コンディションを良い状態にキープできる人の違いを教えてください。

北村:ケアに来られる方の多くは、自分自身の問題の根本的な原因が分からなくなっています。その自己認識のギャップが少ない人の方が、自分でコンディションを管理できているという印象です。

コンディションが悪化してから訪れる人は、ゼロベースに戻すまでに時間がかかりますし、ある程度コンディションがゼロに近づくと、それ以降来なくなる人もいます。また一度ゼロベースに戻しても、身体の変化を無視して再度悪化するまで放置してしまい、慢性化してしまうケースも少なくありません。

最初に話した通り、コンディショニングとは日々体調を整えることがベースですから、1日に1度は自分のコンディションを確認する時間を設けて、自分の身体の変化に耳を傾けていただければと思います。

見た目が綺麗な姿勢=良い姿勢とは限らない

OYM:整体院やマッサージ院のような施設へ行かずに、セルフでコンディションをチェックするなら、どういったところを注目すべきでしょうか?

北村:自分のニュートラルな状態を理解することが大切です。自分が楽に感じる状態ですね。ニュートラルというと、見た目が綺麗な立ち姿、姿勢になることと思われがちですが、現代社会では「見た目が綺麗な姿勢=良い姿勢」のイメージが先行しすぎているように思います。

ランニングの「見た目が綺麗なフォーム」が呼吸しやすいフォームとは限りません。トップランナーのようにトレーニングを積んで手にしたフォームであれば別ですが、一般ランナーにとってトップランナーを真似した「綺麗なフォーム」は、見た目よりも実際には無理に作った姿勢で、動くと窮屈に感じるケースも多いのではないでしょうか。

立ち姿にも同じことが言えます。大事なのは楽かどうか。見た目のフォルムにこだわらず、自分が楽に感じる姿勢を見つけると、呼吸もしやすくなり、日々のコンディションを整えやすくなります。

「今」のコンディションは立ち方でわかる

OYM:楽な姿勢とはどういった姿勢を指すのでしょうか?

北村:楽な姿勢とは無駄な力みがなく呼吸がしやすい姿勢のことです。基準は立った状態を横から見た時に頭が足裏の真上にある状態。その際、いくつか注意すべきポイントがあります。

1つは足の裏の広い範囲が床に接していること。そして踵が浮かずに接している状態です。指までつけようとすると力が入ってしまいます。指、土踏まずは床から離れていて構いません。

2つ目は首が長く見えるように腕をリラックスさせること。肩甲骨を下げるイメージです。胸を張って肩が上がったり、背中を寄せてはいけません。

そして3つ目が腰を反らせないこと。骨盤が前方、後方どちらかに傾いた状態では脊柱が固まりやすく、上半身がリラックスできないのです。風船を膨らませるようにお腹いっぱいに空気を溜め込むと、骨盤が傾いているか正常な向きをしているのか確認できます。骨盤の上にイメージした風船を乗せて落ちないと感じる角度が、骨盤の正しい向きです。

この3点を理解できると立っていて、驚くほど疲れません。先ほど「綺麗な姿勢」の話をしましたが、姿勢を正してくださいと伝えると、胸を張って、腰を反らせて立つ人がいますが、それでは体幹が過度に緊張し、呼吸がしづらいのです。

その理由は背中に緊張を作って立っているからなんですね。実際には頭が足裏の真上にあれば、自然とインナーマッスルが働くのでアウターマッスルまで無理に緊張させる必要はないんです。現代人は普段から猫背、スマホ首の人が多く、アウターマッスルで支える癖がついていて、良い姿勢を意識して動作をするときに、過度に身体を反らせるケースが多いんです。

リラックスして「真っ直ぐ立つ」ことができる人は間違いなくコンディションが良い人です。この感覚を覚えてほしいですね。

鼻呼吸はコンディショニングの基本

北村:付け加えると、呼吸は基本鼻でするものです。鼻で呼吸ができているときは楽な姿勢にあると言えます。立っている時でも座っている時でも寝ている時も同じ。目安にしてみてください。

呼吸は目に見えませんが、例えば良い呼吸ができている人とそうではない人とでは、同じ運動能力があっても免疫力に差が出るだけでなく、パフォーマンスにも違いが生まれます。

口呼吸では二酸化炭素がすぐに排出されるので、体内に溜まりません。呼吸で取り込んだ酸素とヘモグロビンが結合し、必要とされる組織や臓器で酸素を放出するのですが、その際に二酸化炭素がないとヘモグロビンは結合した酸素を放出できないのです。

それはつまり酸素は取り込めているけど、栄養化できていないということになります。リカバリー時こそ鼻呼吸をして、必要な二酸化炭素を身体に取り込むことも大切です。姿勢が崩れ、口呼吸が多くなると回復が遅れやすくなりますから。

体幹部を緩めると目覚める能力

OYM:姿勢と呼吸はセットで考えるべきことなのですね。話は先ほど現代社会はコンディションがマイナスに陥りやすいというお話がありました。日常生活に潜むコンディション悪化の要因として、北村さんがもっとも気にかけていることを教えてください。

北村:身体を使わなくなっていること、使い方が偏っていることです。

ここ数年体幹トレーニングが注目されるようになりましたが、現代は便利な社会になり、動力源である体幹部を使わず手先足先だけでできることが増えています。根本が逆転し、体幹部が置き去りにされていることが気になります。

OYM:その問題解決はコンディションを整える意味でも鍵となりそうですね。どうすれば体幹部を使う身体に戻せるのでしょうか?

北村:やはり無駄な力みのない、楽な姿勢を見つけること、そして頑張らずに気持ちよく身体を使うことです。体幹トレーニングのメジャー化によりおきている誤解や弊害は、「体幹を鍛える=筋力で固める」という機能の一部が伝わっている可能性があることです。強さを求めるあまり、体幹部の柔軟性を失っては元も子もありません。

イメージは体幹の表面はリラックスしている状態。例えるなら免震のビルです。リラックスして揺れることで、インナーマッスルの先回り機能が活性化され、無駄な力みを起こしにくくなります。

立った状態でいうと、二足歩行する人間は片足立ちで、身体が揺れるのが普通です。揺れを小さく、安定しているのが本来あるべき立ち姿。固定してキープしたり、大きく揺れるのを抑え込んだりするのではなく、ブレる身体に対して、脳のセンサーが先読みし安定させようとするのです。立った状態で身体の力を抜く癖をつけることが大切な理由がこれです。

現代人は特に目からの情報に頼りがちです。リラックスして、目を瞑って立ってみてください。右へ左へ身体が揺れセンサーが働く感覚が分かってきます。身体を固めずにあえて崩して、素早く補正する感覚を養いましょう。

OYM:身体を鍛える以前に柔軟性を回復させるのがコンディショニングのポイントですね。他に日常的に身体を緩める良い方法はありますか?

北村:日本はもともと座敷文化です。骨盤の使い方が上手で、股関節を深く畳んだ状態から立ち上がるのが得意です。剣道や相撲の蹲踞(そんきょ)の姿勢は股関節と足裏の柔軟性を高めるのに有効です。

スクワットではなく、踵と踵をつけてしゃがむ動作を繰り返してみて下さい。股関節の柔軟性を確認できますし、中心軸で動くことで、腹圧を高めるくせがつきます。結果下半身が安定してきます。

武道をされている人たちは姿勢を作る意識はありません。野生動物と同じで、緊張のない、次の動作がしやすい姿勢を素早く取ることを身体に染み込ませて習慣化していきます。スポーツをする人は一度武道に触れてみると良いかもしれませんね。

OYM:コンディショニングは奥が深いですね。ひとつのスポーツばかりしていると身体の柔軟性は失われていそうですし、武道しかり、違ったスポーツを取り入れて、使われていない機能を回復させることも必要と思いました。

北村:コンディションが良い状態とは、パフォーマンスを最大化できる状態のことです。時には普段しないスポーツ、動きに触れてリフレッシュするのも大切です。身体が新しい発見をしてくれるはずですから。

人間はどんなに疲労が溜まっていても呼吸はできますし、身体を動かすことができてしまうので見落としがちですが、柔軟性が高いに越したことはありません。心地良い姿勢が見つけやすくなります。身体を鍛えることは大切ですが、身体を柔らかくすること、力みを取ることは同じくらい大切なことと考えてください。

自宅で出来る身体をゼロベースへ戻す5つのティップス

最後に「誰でも、自宅で、簡単に」をポイントに、身体をニュートラルにキープするための5つのティップスを北村さんに教えてもらいました。仕事の合間や一日の終わりのルーティンに取り入れてみてください。

肩の緊張を知る前ならえの姿勢

「身体が緊張しているか見分けるもっとも簡単な方法が前ならえの姿勢です。体幹が緊張している人ほど、肩、腕が上に上がり、首が詰まった状態になります。また肩が上がってしまうと必然的に頭が前に出やすくなってしまいます。

デスクワークが多く肩、首に常に緊張がある人に特に多いのですが、リラックスした状態で肩甲骨からグルグルと回してみると肩甲骨周り緊張が和らぎ、肩の位置が下がり、頭の位置も胴体の真上に乗るようになるはずです」

「正しい前ならえの姿勢は肩甲骨は下がっていて、腕は鎖骨より低い位置にあること。そのラインまで横からではなく、下から腕をもち上げるのがポイントです」
「悪い前ならえの姿勢は、肩が上がり頭が前に出て首が緊張している状態。頭が前に出ると、平衡感覚が鈍りやすく、腕のラインが上下してしまう人もいます」

肩甲骨のポジションをリセット 肘を曲げずに壁に腕を押し付ける

「これも肩甲骨周りの緊張をほぐすのに有効な動きです。手の指を下に向け、壁に掌をつけたら、肩甲骨を支点に身体を右へ左へ揺さぶります。ポイントは、

・脇を閉める
・肘を曲げない
・腕に力を込めない 

の3点。身体を固めずリラックスしておこなってください。そのうちに肩周りの筋肉がじわっと溶けるように動き出します。終わった後は肩が下がっていることに驚くはず」

「掌を当てる位置はみぞおちくらいの高さに。手のひらに対しての体の向きは開きすぎないように。肩甲骨を下げると脇に物を挟んでも落ちないポジションがあるはずです。そこで脇を閉めたまま肩甲骨を支点に動かします」
「壁に掌を当てている体側に身体を預け、5〜10秒キープ。戻してポジションを移動してキープを5回繰り返します。コツが掴めたら壁に当てている掌の高さをより下げたりして、より脇が閉まりやすいポジションを探してみてください」

手首を合わせる四つん這いの姿勢で肩甲骨リセット

「このポーズも肩甲骨、広背筋の可動域を広げ、リラックスした状態を作りやすくするためのものです。こちらも肩甲骨を下げて、脇を閉めます。腕を限りなくリラックスさせて、肩甲骨を背中から剥がすイメージ。胴体が肩よりも低い位置に“沈む”ように。(右と左の)肩甲骨の間が寄るのではなく、窪みができれば合格です」

「手首と手首を合わせるように。この姿勢の時に上半身を前、後ろに動かすだけでも肩周りから脇まで伸ばすことができます」

体幹を緩めて柔軟性を高める動き

「続いては上半身、下半身両方に効果がある動作です。まず、あぐらをかくようにして座り、足裏を合わせます。その状態から左右それぞれのお尻に体重が乗り、逆側のお尻が浮くように左右に揺れます。数回行い、大きく揺らせるようになったら、殿部に乗った方の腕を真上に伸ばします。腕を伸ばすタイミングでお腹を膨らますように息を吐くと良いでしょう」

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「足裏を合わせて座っている間、深呼吸のほかに、お尻のマッサージの要領で身体を前後左右に揺さぶると上半身がほぐれてきます。ポイントは固めず揺れに任せること」
「腕を伸ばす動きは腕ではなく脇腹〜へそあたりから伸ばすイメージで。慣れてきたら手を伸ばす方向をアレンジして脇から背中にかけての肋骨から動くイメージで」

立位から真っ直ぐしゃがみ込む

「最後は下半身。股関節周りの柔軟性を高める動きです。足を肩幅くらいに開き相撲の四股を踏むイメージでしゃがみます。お尻を後ろに突き出さずに行うのがポイント。頭を真っ直ぐ下に落とすイメージで行いましょう。お尻周り、股関節の柔軟性を高めることで、軸が整い下半身が安定します」

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「まずリラックスして立位し肩幅くらいに足を開きます。この時指先をなるべく外側へ向けるのもポイント。おへそから真下に落とすイメージを持ちます」
「しゃがむ時は上半身がリラックスしている事が重要。その為にも背中を反らないようにすること。左右対称に足裏に荷重がかかるように」
「横から見た時に身体が起きていること、またお尻を後ろに突き出さないこともポイントです」
「上半身が前に傾いていたり、お尻が後ろへ突き出ていたりする場合は足裏への荷重のバランスが悪く身体が安定しません。爪先立ちになったり、踵が浮かないように」

取材協力
ゼロイニシャライズ 本社兼ショールーム
今回コンディショニングについて教えていただいた北村さんの勤務先。アスリートだけでなくモデルやアーティストなど、あらゆる身体パフォーマンスに関わる人たちがコンディショニングに訪れる。

住所:東京都港区芝浦 4-12-44 石川ビル 2F
TEL:03-6435-2625
営業時間: 10:00〜18:00
休日:土・日

ゼロイニシャライズ:zero-i.jp