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ランナーの足元が一躍注目度を増した2020年の箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)。今年はどのブランドの、どのシューズが話題をさらうのか? 本番を前にそのシューズ史をおさらいしよう。

第97回箱根駅伝の開催が迫ってきた。今大会は、新型コロナウイルスの感染防止対策として、予選会が無観客の周回コースで開催され、本大会でも沿道での応援自粛が求められている。沿道こそいつもとは異なるムードとなるかもしれないが、白熱したレースが繰り広げられるのは間違いないだろう。

優勝争いやシード権争いとともに、市民ランナーたちから熱視線を浴びているのが、出場選手たちが履いているシューズ。特に中・上級のランナーたちは、自分がレースで使用するシューズ選びの参考にしたりするのではないだろうか。

箱根駅伝がスタートしたのは1920年のこと。過去の報道写真を見ると、1950年代前半までは選手たちの足元には足袋型のシューズが目立つ。1950年代後半から1960年代にかけては当時トレーニングシューズと呼ばれていたようなシューズを履く選手が多くなり、1970年代にはいわゆるランニングシューズをほとんどの選手が履いている。選手の競技レベルの向上とともに、シューズも時間をかけて進化したのだ。

箱根駅伝創設当時に履かれていた金栗足袋(右)。時期に、こはぜ(足袋の留め具)を外し、甲をひもで結んだもの(右)へと改良。日本におけるランニングシューズの発展はここから始まった

それにしても、最近のシューズの進化は目覚しいものがある。近年、箱根駅伝で注目を浴びたモデルを振り返ってみたい。

2018年から一気に勢力図を変えたNIKE

2020年の第96回箱根駅伝は、青山学院大学が大会記録を更新する10時間45分23秒という驚異的なタイムで2年ぶり5度目の総合優勝を果たした。

10区間中7区間(2、3、4、5、6、7、10区)で区間新記録が誕生したハイレベルなスピードレース。出場選手たちが、こぞってとあるシューズを着用していたため、例年以上にシューズが注目を浴びることになった。そのモデルはNIKE ZOOM X VAPORFLY NEXT%(ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%)。なんと出場選手の84.7%がNIKE(ナイキ)の厚底シューズを選んでいた。まさに圧倒的だ。

MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)でも多くのランナーが着用したことで話題となったNIKE ZOOM X VAPORFLY NEXT%。こちらは「EKIDEN PACK」として発売されたカラー

2019年大会のNIKEの着用率は41.3%、2018年大会が27.6%。それ以前は10%台だったので、2017年のNIKE ZOOM VAPORFLY 4%(ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%)の登場を契機に、飛躍的に数字を伸ばし、他の追随を許さない独走状態を築いたということになる。今年11月に開催された全日本大学駅伝でのNIKEの着用率は、なんと93%に到達。驚異的な数字である。

従来の常識を覆し、トップランナーたちがレースで厚底を履くことを新常識にしたナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%

今年の全日本大学駅伝で区間賞に輝いた選手はNIKE ZOOM X VAPORFLY NEXT%か、NIKE AIR ZOOM ALPHAFLY NEXT%(ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%)のどちらかを着用していた。他社からもカーボンプレートを搭載したモデルが登場し、海外のレースでそれらを履いた選手が活躍してはいるものの、日本の大学駅伝シーンではNIKEの1強状態が続いている。

大迫傑選手が2020年の東京マラソンで自身が持っていたマラソンの日本記録を更新した際にも着用していたナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%

シューズのチョイスは個人の自由

2020年の箱根駅伝に出場した大学のウェアサポートをしていたブランドは、MIZUNO(ミズノ)7大学、NIKE 4大学、ASICS(アシックス)3大学、adidas(アディダス)2大学、DESCENTE(デサント)2大学、NEW BALANCE(ニューバランス)1大学、SVOLME(スボルメ)1大学。

シューズに関しては選手の自由に任されているものの、たとえば市民ランナーにはおなじみのBROOKS(ブルックス)SAUCONY(サッカニー)PUMA(プーマ)といったブランドをチョイスしている選手は近年に関してはいない。所属大学のウェアサポートを行なっているブランド以外のシューズを履くことがあったとしても、それは別の大学のサポートを行っているブランドから選ばれているということになる。

アシックスとミズノの時代、アディダスの躍進

1990年代から2000年代前半まで、箱根駅伝に出場する選手のシューズ着用率は、ASICSとMIZUNOが2大勢力だった。ASICSであればSORTIE(ソーティ)シリーズ、MIZUNOであればWAVE CRUISE(ウエーブクルーズ)シリーズが主軸となり、他を圧倒していた。その牙城をNIKE、adidas、NEW BALANCEが徐々に崩していったかたちだ。

駅伝やマラソン大会で勝利を目指すランナーのために開発されたASICSの名作、SORTIE。写真は同社スタッフ、岡田直寛さんが亜細亜大学時代2006年の箱根駅伝で優勝を飾った時に履いていたSORTIE MAGIC。
反発性と安定性、グリップ力の高さから多くのエリートランナーたちに支持されてきたMIZUNOのWAVE CRUISE シリーズ
現在日本陸上競技連盟の強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダーを務めるレジェンドランナー、瀬古利彦さんが早稲田大学時代に愛用していたのは、ASICSが1953年の発売からアップデートを繰り返したマラップ RS。SORTIEはこのマラップ RSの進化したスピード対応モデルとなる。

2012年に青山学院大学とサポート契約を結んだadidasは、青学の躍進とともにシェアを広げていく。箱根ランナーに履かれていたのはadizero takumi sen(アディゼロ タクミ セン)シリーズ。2015年に青学が箱根路を初制覇した際に駅伝メンバーたちが着用していたadizero takumi sen boost(アディゼロ タクミ セン ブースト)は、市民ランナーの間でも人気モデルとなった。

2012年に登場したadidasのadizero takumi senは、“日本人を速くする”をキーワードに開発されたモデル。現在でも根強いファンがいるシリーズだ。写真は100速限定で受注生産された特別モデル、adizero takumi sen celebration
前足部にboostフォームを搭載して反発性を高めたadizero takumi sen boost。青山学院大学の選手たちの活躍とともに支持率を高めた

それまでは、少数のランナーだけが選んでいたNEW BALANCEが大きく着用率を伸ばしたのが2018年の箱根駅伝。現代の名工・シューズ職人の三村仁司さんとパートナーシップを結んだことをきっかけに着用者を増やした。2019年はM.Lab(ミムラボ)とNEW BALANCEが共同開発したHANZO V2(ハンゾー V2)の着用者が目立ち、2020年大会でNEW BALANCEを選んだランナーの多くはカーボンプレートを搭載したFuelCell 5280(フューエルセル 5280)を履いていた。

NEW BALANCEが3Dスキャンを用いて計測したデータと、M.Labが持つ数多くのランナーの足型をもとに新しいラスト(木型)を製作して誕生したHANZO V2 S
今年、女子1500m、3000mの日本記録を更新した田中希実選手も愛用しているNEW BALANCEのFuelCell 5280

11月の全日本大学駅伝の状況から考えると、2021年の第97回箱根駅伝でも多くのランナーがNIKE ZOOM X VAPORFLY NEXT%かNIKE AIR ZOOM ALPHAFLY NEXT%を選ぶことになりそうだが、他ブランドの反撃にも期待したい。

2021年に選ばれるシューズは?

先日スペインで行われたバレンシアハーフマラソンでは、今年6月にadidasが満を持してリリースした「5本指カーボン」と呼ばれるカーボンバー搭載のadizero adios Pro(アディゼロ アディオス プロ) を履いたキビウォット・カンディが世界記録(57分32秒)を樹立。10月にポーランドのグディニャで行われた世界ハーフマラソン選手権でもペレス・ジェプチルチルが自身が約一月前に更新したばかりの女子の世界記録を更新(1時間5分16秒)している。NIKEの牙城を崩す一番手としてadizero adios Proがどれくらい選ばれるかは注目だ。

また前回大会ではプロトタイプだったMIZUNOのWAVE DUEL NEO(ウエーブ デュエル ネオ)やASICSのMETARACER(メタレーサー)を履く選手がどれくらい出てくるかも気になるところ。

キビウォット・カンディ、ペレス・ジェプチルチル両選手が世界記録を更新した際に着用していたadidasのadizero adios Pro。ハーフマラソン最速の記録を持つシューズゆえ、箱根の距離には適していそうだ
MIZUNOのWAVE DUEL NEOのミッドソールには軽量で反発性に優れた新素材、ミズノエナジーが採用されている
ASICS初のカーボンプレート内蔵シューズのMETARACER。スムーズな体重移動を助け足首周辺の負担を約20%軽減するガイドソールテクノロジーも搭載

2020年の第96回大会では区間賞を獲得した10人の選手のうち9人がNIKE ZOOM X VAPORFLY NEXT%を着用していたが、10区で区間新記録をマークした創価大学の嶋津雄大選手はMIZUNOのWAVE DUEL NEOのプロトタイプを履いていたことで話題となった。また8区を走った中央大学の矢野郁人選手は出場選手で唯一、DESCENTEのカーボンプレート搭載モデル、GENTEN-EL(ゲンテン エリート)を着用していた。少数派の活躍が逆にシューズを目立たせるということもある。

“日本人ランナーの足を創る”をコンセプトに開発されたデザントのGENTENシリーズ。GENTEN-ELはカーボンプレートを搭載。グリップ力の高さも魅力

2021年の箱根駅伝を制するのはどの大学か。選手たちが自分の走りを支えるシューズに何を選ぶのかもチェックしながら観戦したいと思う。

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