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2020年のUTMF(ウルトラトレイルマウントフジ)開催中止に伴い、後日開催すると発表されていた「ヴァーチャルUTMF」。いよいよ開催スケジュールが発表され、詳細が明らかになりました。100マイルを1週間で走りきる高めのハードルをどう攻略すべきか。鬼塚智則、宮崎喜美乃、2人のTNFアスリートにチャレンジスタイルを聞きました。

1週間で100マイルを走るレギュレーション

先日公開したトレイルランニングシーンで盛り上がるバーチャルレース。参加者による体験談とアメリカのレースエントリー方法を紹介の記事では、日本ではバーチャルレースはまだ目立った動きがないと紹介しましたが、いよいよ日本最大級のウルトラトレイルランニングレースであるUTMFがバーチャルレースの開催を決定しました。

UTMFの2020年大会の中止に伴い、兼ねてから開催することが発表されていた「バーチャルUTMF」。期間は2020年10月19日(月)〜25日(日)の1週間、オフシャルスポンサーであるSTRAVAのプラットフォームを使い実施されます。

参加方法はSTRAVAの会員(無料会員設定で参加可能)となり、チャレンジページからエントリー(中止となった2020年大会へエントリーしていた人に限らず誰でも全世界のアスリートが参加が可能)。期間中にGPSデバイスやスマートフォンアプリ、ランニングウォッチなどを使ってランニングを記録し、Stravaに投稿し、ランニングした距離が160kmに達したら完走となるシステムです。

バーチャルUTMF完走者にはオリジナルのデジタルバッジがSTRAVAのプロフィールに付与されるほか、国内在住の完走者は、同デザインの記念ワッペン購入権を得ることができます。また、スペシャルスポンサーであるTHE NORTH FACECitroënが提供する特別賞品の抽選に応募が可能に。商品に関する情報はまだ発表されていませんが、注目していきましょう。

160kmを1回で走り切るでも、複数回に分けて行うでも、挑戦の仕方は自由ですが、平均すると1日あたり約23km。なかなかの厳しい設定。戦略通りに進めることができるか、曜日を追うごとに設定を変更することになるか、自分なりにスケジュール調整しながら挑戦できるところが、バーチャルUTMFの面白さであり、難しさとなりそう。どんなプランがベストなのか。

バーチャルUTMFにはトップアスリートも参加するということなので、完走のヒントを探るべく、参加が決定しているTHE NORTH FACEアスリートの2人に話を聞きました。果たして2人はどんな戦略で望むのでしょうか。

鬼塚智徳選手のバーチャルUTMF攻略法

鬼塚智徳 1980年福岡県生まれ。1998年から2010年まで九電工にて実業団ランナーとして活動後、トレイルランニングの世界へ。フルマラソン2時間12分48秒のスピードを武器に、2015年のSPATRAIL優勝、2017年KOREA50K3位とミドルレンジで結果を残す。現在は100マイルレースを中心にチャレンジ。2019年のUTMFでは見事7位入賞を果たす。

onyourmark(以下OYM):1週間で100マイルを走ることになりますが、どのようなプランで考えていますか? 1週間で累計100mileを走り切るために考えている戦略を教えて下さい。

鬼塚:本心は1日で100mileを走り切りたいところなのですが、12月にITJ(IZU TRAIL JOURNEY)を控えているので、疲労等を考慮して7日間フルに使って100マイルを走る予定です。ただし、平日は仕事で毎日走ることが難しく、2日間は完全休養。3日間の帰宅ラン等でトータル50km〜60kmを走り、残りの100km〜110kmを週末の2日間で走るプランです。

普段も1週間の間に2,3日をレストにしているので、今回もその点は変わりません。全く走らない完全休養日は、精神的にも肉体的にも疲労回復に費やしたいと思っています。今回は1週間と短い期間で100マイルを走るということで、リカバリーであり、疲れを次の日に残さないことがポイントになると考えています。その日の疲れは出来るだけその日に処理することを心掛けて、New-HALEコールドシートGoldwinC3fitゲイター光電子ウエアを着用して疲労軽減に努めたいと思います。

OYM:ロードとトレイルの比率や想定しているコース、ロケーションなど、現在考えているプランを教えてください。

鬼塚:平日はロード、週末にトレイルの予定です。おおよそロード3割、トレイル7割程度になるでしょうか。平日のロードランは会社から自宅までの帰宅ランで、15km程度。週末のトレイルは、大分県中津市の大平山から日本三大修験道の山である福岡県の英彦山、宝満山、自宅までの110Km前後のコースで考えています。

英彦山から宝満山は、鎌倉時代から修験道として使われている入峰道で、それぞれ登ったことはありますが、縦走するのは今回が初めて。当時の山伏と同じ道を辿ることになりますが、想像しただけで楽しくなりますね。

OYM:週間100マイルをやりきるために特別に検討していることはありますか? また、完走に向けての個人的なルールやテーマは設けますか?

鬼塚:週末2日間で100kmを超える距離を走るのはレース以外では初めてのチャレンジとなります。単独走の予定ですが、止めたくても止めれないよう、ポイントポイントで妻にサポートしてもらうことにしました。それをモチベーションに、フィニッシュまで気持ちを繋いでいきたいと思っています。

個人的なルールとしては、バーチャルでもUTMFはUTMF、距離だけでなく累積標高(2019年大会は7,942m)もクリアしたいと思っています。ただしトレイルでは安全面を考慮して夜間の単独走は避け、基本的には明るい時間帯に行動することをマイルールにします。

OYM:今回用意するギア、装備、補給用のアイテムについて教えてください。

鬼塚:ロードでは帰宅ラン用のザックとしてTHE NORTH FACEのTR ROCKETTR10を、その日の荷物に合わせて使います。その日着用する仕事着、手帳、財布等をすべて詰め込める充分な容量のうえ、フィット性も高いのでストレスなく走ることができるところが良いですね。

トレイルで履くシューズはFlight Trinity。ミドルレンジからロングまで対応可能な万能シューズです。ここ数年、トレイルではこのシューズを履いていますし、今回も履き慣れたこのシューズで走る予定です。補給に関しては、できるだけリアルフード中心で身体に負担をかけないように考えています。

OYM:参加される方へアドバイスがあればお願いします。

鬼塚:多くの人がそうだったと思うのですが、リアルなレースが暫くなかったことで、僕もサボりたい誘惑に負けそうになることが多かったです。そんな時は、仲間やフォローしているアスリートのSTRAVAのアクティビティを眺めて、無理矢理モチベーション上げて走りに出かけていました。

今回のチャレンジでは簡単なものではありませんが、辛くなったら仲間のアクティビティを見てやる気をキープしたり、仲間を誘い出して一緒に走ったりしながら距離を延ばすなど、自分なりの楽しみを見つけながら、バーチャルでしか出来ない、自分だけの100マイルチャレンジにしましょう!今回のチャレンジが来年のUTMFであり今後のリアルな100マイルへと繋がるチャレンジになるはずです!

宮﨑喜美乃選手のバーチャルUTMF攻略法

宮﨑喜美乃静岡生まれ、山口育ち。普段はミウラ・ドルフィンズに所属する健康運動指導士、 低酸素シニアトレーナー。 2015年3月に行われたIZU TRAIL Journeyで女子2位となり頭角を表すと2同年9月のSTYで女子優勝を達成し一躍女子トレイルランニングアスリートとして有名に。2018年より100マイルレースに重きを置き、2019年に行われたOman by UTMBでは女子3位入賞を果たす(参考記事: フィルムレビュー OMAN by UTMBに挑んだ宮﨑喜美乃のドキュメンタリー〈COLOR〉)

OYM:少しずつリアルなレースは開催され始めていますが、今年はどのように走るモチベーションを維持してきましたか? また現在、走る上で目標としていることは何ですか?

宮﨑:レースが続いてある時期はレースを意識したトレーニングを組みますが、今年はそういった時間もなかったので、特に“トレーニング”を意識することなく、里山をはじめ、海や湖と行きたかった場所に足を運ぶことができました。ランニングに限らず、さまざまななアクティビティを通して身体を鍛えることができたので、リフレッシュする意味でも良い期間になったと思っています。

今の目標は長く遠くまで走り続けること。そのために新しいトレーニングにチャレンジしています。

OYM:日常生活とのバランスのとり方、走る日数と距離の配分など、1週間で100マイルを走り切るために考えている戦略を教えて下さい。

宮﨑:仕事の関係で週の後半を使って走る予定です。この時期に長い距離をいっぺんに走ると冬場にダメージがくると思うので、複数日を使って、UTMFをイメージしたトレーニングの配分にしたいと考えています。

OYM:ロードとトレイルの比率、想定しているコースはありますか?

宮﨑:詳細は詰めている段階ですが、今のところ逗子の海辺と山を合わせたコースを考えています。

OYM:週間100マイルをやりきるために特別に検討していることがあれば教えてください。

宮﨑:今回、逗子の子供たちと一緒に走ろうと相談しています。それぞれ走りたい距離の目標があるようなので、その子たちの目標も一緒に達成できるようにしたいと思います。

短い期間で100マイルを走るということで、身体のケア、リカバリーは入念に行いたいと思います。アイシングをしっかりした上で、温泉につかる。しっかり食べて、睡眠時間を削らないようにする。特別なことではないですが、小さなケアが大事になると思っています。
 
OYM:完走に向けての個人的なルールやテーマがあれば教えて下さい。

宮﨑:特になし(笑)!いつもと変わらずその日の目標に向けて1日1日を積み上げていければと思います。そのうえで100マイルをしっかり完走したいですね。

OYM:参加される方へアドバイスがあればお願いします。

宮﨑:この時期に長めの距離を走るということは、来年のUTMFを想定するとすごく良いタイミングだと思っています。身体を作るキッカケとして今回の企画を一緒にチャレンジできれば嬉しいです。無理ない範囲で、100マイル完走を目指して頑張りましょう!

2人の回答で共通しているのは疲労に対するケアについて。1週間の間に長い距離を複数回走ることになるので、疲労を溜め込んでいくうちに、予定よりも距離のボリュームを減らす日が出てくると、完走は難しくなると見ていることでしょう。バーチャルUTMFウィークは入念に身体のケアを行う一週間とも言えそうです。

執筆者:高橋知彦

執筆者:高橋知彦

宮城県生まれ。東北高校出身。2011年よりファッション誌でエディターとしてのキャリアをスタート。学生時代は陸上部。第二回東京マラソンに当選したのを機にランニングを再開。2012年に『激走モンブラン!』の最放送を見たことがきっかけでトレイルランニングの世界へ。趣味が高じ2019年に(株)アルティコに入社し、onyourmarkの編集者に。その経験を生かし主にランニングにまつわる記事の取材、執筆を行う。