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前回の快適な睡眠のための寝袋の選び方の記事では冷気をいかに遮断するかを学んだが、寒さに次いで就寝時に大きな不快感を生むのが“濡れ”。急な雨や寒暖差による結露は避けられない自然現象だが、ダメージは最小限におさえられるよう、前もって防水対策をしておこう。今回もmont-bel(モンベル)の金森智さん監修のもと、アウトドアにおける対策方法を学びます。

防水と撥水の違い

防水と撥水の違い

ここからは「防水」というキーワードについて触れていきたい。身に纏うものが濡れると不快感が生まれるだけでなく、最悪の場合は体温を奪われ低体温症になる恐れもある。濡れない環境作りこそ、ぐっすり眠るための重要なファクターといえるだろう。

ウェアが濡れる主な原因は2つ。ひとつは、雨や雪解け水による浸水。もうひとつは、発汗による濡れだ。これらを防ぐためにも、まずは「防水性」と「撥水性」の違い、そして「透湿性」について理解しておこう。

「『防水』とは生地が外部から水を完全にシャットアウトして、生地の裏側まで通過させないことをいいます。一方、『撥水』とは、生地が水を弾く作用のこと。撥水加工が施された生地に水が付着すると、玉状になり、転がり落ちて生地を濡れにくくしてくれます。ウェアの場合は『透湿性』も重要なポイント。通常、アウターウェア内部の蒸れは水蒸気となって外へと放出されますが、生地を通過できずにウェア内に水蒸気が留まると、生地の裏面に結露が起こりインナーウェアを濡らしてしまいます。その蒸れた状態では、身体を冷やす原因に。アウターウェアを選ぶ際は衣服内の湿気を放出する透湿性と発汗を抑えるための細かなレイヤリングも意識しましょう」。

透湿性素材の性能を最大限に発揮するためには、生地表面の撥水性を保持することも忘れてはいけない。撥水性能が落ちると生地表面に水の膜ができ、生地の内側からの水蒸気の通過を妨げてしまうためだ。たとえば撥水性があるウェアに使える専用の洗剤を使用する、撥水処理ができるスプレーを利用する、破損箇所をリペアシートで補修するなどのメンテナンスをして、撥水性能を維持させよう。

耐水圧・透湿性の基準について知る

耐水圧・透湿性の基準について知る

防水素材を選ぶ基準となるのが、表地から水圧を加えて生地にしみこもうとする水の力を抑える力を数値化した「耐水圧(mm)」だ。耐水圧20,000mmの場合、生地の上に1cm四方の水が入る筒を立てて、筒の中に水を入れて20,000mm(20m)の高さの水圧に耐えられるということになる。

一般的な耐水圧の目安は、300mmは小雨、2,000mmは中雨、10,000mmは大雨、20,000mmは嵐に耐えられるとされており、レインウェアなど登山で使用するものは、最低でも耐水圧が20,000mm以上のものが理想とされる。

一方、透湿性は1日(24時間)に1㎡当たり、何gの水蒸気を外に出せるかをg/㎡・24hrsで表している。体質や季節によっても異なるが、大人の安静時で1時間当たり約50g、激しい運動で1時間当たり約1,000gの汗をかくといわれているため、睡眠時(安静時)は透湿性が1,200g/㎡・24hrsのもの、行動中は24,000 g/㎡・24hrsのものを着用すれば、蒸れにくい状態をキープできるということになる。

テントのダブルウォールとシングルウォールの違い

テントのダブルウォールとシングルウォールの違い

テントを選ぶ際に、シングルウォールテントにするかダブルウォールテントにするかで迷う人も多いだろう。結論からいうと、今回のテーマである「濡れ」の面ではダブルウォールを選択するのが正解。

そもそもテント内部が濡れる原因は、結露だ。就寝中の呼気や汗などが水蒸気となり、その暖かく湿った空気がテントの幕に触れると、冷たい外気に急激に冷やされ水滴になる。これが結露の正体。

シングルウォールもダブルウォールも結露が発生することには変わりないが、結露している壁と身体の距離に違いがある。

「1枚壁のシングルウォールは壁の内側に直接結露が発生するため、擦れた寝袋が濡れたり、テント内壁を伝って床が濡れることがあります。その点、2重構造のダブルウォールは、外側のフライシートは同じように結露するものの、内側のキャノピー(天蓋)部分は通気性が良く、濡れ
にくいというメリットがあります。また、フライシートとキャノピーの間に空気の層ができるため、わずかながらダブルウォールのほうが暖かく感じます。シングルもダブルも雨から身を守るという意味では機能に大差はありませんが、結露でいうとそのような違いがあります」。

ガスバーナーを使ってテント内で炊事をする冬は、テントの内と外の気温差がとくに大きくなり、結露がしやすい。湿気をこもらせないためにも、定期的に換気をして空気を循環させよう。

汗冷えを防ぐウェアリング

汗冷えを防ぐウェアリング

風呂上がりに濡れたままでいると身体が冷えるのは、身体についた水滴が蒸発をするときの気化熱が関係している。これと同様に山のなかで汗や雨で濡れると、衣服が体温を奪って乾こうとするため低体温症のリスクが高まるというわけだ。

低体温症は冬山などの寒い場面だけで起こるとは限らず、夏場でも濡れた衣服による気化熱によって発生するといわれている。眠っている間に体温を奪われないために、ウェアリングにも注意を払いたい。

前途のとおり、衣服内の濡れを防ぐためにもレインウェアは防水透湿素材のものを選ぶのが望ましい。しかしアウターだけ汗抜けの良いものを選べばいいかといえば、そうではない。睡眠時は肌着や中間着は吸汗速乾性が重要となる。

「水の熱伝導率は空気の20倍となるため、濡れたウェアを着ていると体温が急激に奪われます。眠る前に衣服が乾いていれば着替える必要はありませんが、もしも汗で濡れている場合は、スペアの服に着替える、あるいはテントで暖をとりながら『着乾かし』を。寝袋の中は自然の乾
燥機です。濡れた靴下やニット帽、ウェアを入れて眠れば体温で衣服が温まり、朝には乾いています。着ながら乾かす場合は、化学繊維やウールなど吸水速乾性のあるウェアを着用していることが大前提。特に肌に密着した部分が濡れると冷えるため、アンダーウェアは必ず乾きやすいものを着用しておきましょう」。

監修者:金森 智

モンベル広報部課長としてプロモーション、地域との連携、企業コラボレーションなどの業務を担当。大学山岳部で登山を学び、国内外で登山やクライミング、テレマークスキーを経験。30代からサーフィン、40代からロードバイクとアクティブなライフスタイルを送る。
www.montbell.jp