単独無寄港無補給世界一周の達成に、単独世界一周ヨットレースへの参戦。文字通り世界中の海を見てきた白石康次郎さんは、正しく海を見るためには、平常心であることが大切だと語る。
どんなに素晴らしいヨットでも風がなければ、ピクリとも動かない。一方で10ノットの風が吹けば、15ノットのスピードで進むことができる。しかし、嵐に巻き込まれればトップセーラーでも棄権せざるを得ない状況に追い込まれることもある。天候と海の状況を読むことは、スキッパーにとって重要なスキルである。
海洋冒険家の白石康次郎さんはヨットレースに挑む際、日々、5社程度の気象情報を取得して数日先の天候を見比べるのだという。
「3日以内の天気であれば8割は当たるし、各社のブレもほぼありません。それが4日先、1週間先になるとバラつきが出てきます。たとえば4日先の5社の予報が似通っていたら信用性が高いな、バラバラだった場合はプロでも読みにくい、すなわち何が起こるかわからない難しい状況だろうということがわかるんです」。
そこからさらに気象情報を独自のルールによって分析し、2社の情報をヨットのコンピュータに入れ、2つのルートを作る。最終的にどちらを選ぶかは“直感”。直感の精度を上げるのが、平常心でいることなのだそう。
「勘は当たるときもあれば、外れるときもあります。ただ、機嫌よく穏やかでいれば、危険察知がうまくいくんです。悩みや恐れがあると判断が鈍るのは間違いありません。だから僕は自分で自分の機嫌をとって、いつも機嫌よくしているんです。難しいことだけど、機嫌よくいるってサバイバルには結構大切なんですよ」。
自然の中で平常心を保つためには、知っていること、慣れていることが重要だ。
「不安になるのは、どうすればいいかがわからなかったり、自分のスキルに自信がないっていう場合が多いですよね。たとえばテントがしっかり立てられる、ロープの結び方を知っているっていうだけでも、自然の中での不安感って減ると思いますよ。あとは普段から、海、山、川へ行って遊んで、親しんで、慣れておく。自然が全く知らないものではなく、身近なものになっていれば、多少のことが起きても平常心でいられると思いますね」。
STUDY 01 さまざまなものを見る
ヨットで海を進むとき、1つの情報だけにとらわれないことが重要だと白石さんは説く。
「たとえば風を見る場合、何ノットの風が吹いているという計器の数字だけでなく、高層雲と低層雲の流れ方、近くに島があればその位置と高さ、海面の状態を見て、総合的に判断することが大切です。風は近くの島の影響を大きく受けるし、高層雲が近づいていると天候が悪くなる可能性が高い。今だけじゃなく、少し先のことも予測しながら進む必要もありますから」。
さまざまな情報を得ながら、現在の状況を冷静に、客観的に判断することが大切なのだ。
STUDY 02 星の位置で現在地を把握
当たり前のことながら、夜の海は暗い。ガスが出て見えないこともあるが、明るく、急に動くことがない星は方角を知るための目印になる。また、星の高さは現在地の緯度の目安にもなる。
「わかりやすいのは北極星、カシオペア座、北斗七星。これらは南に向かうと、どんどん低くなって、南半球に入ると北極星は見えなくなるんです。その代わりに見えてくるのが南十字星。南半球にやってくると、日本では見ることができない星が空に現れるし、オリオン座はいつもと天地が反対に見えるんです。南半球を航海して、北上し、北極星や見慣れた星座が空に現れると、戻ってきたぞって思うんですよ」。
もちろん、北半球から南半球に移動すれば、季節も変わる。また、海域ごとの特徴的な風景
というものも存在する。
「筋斗雲みたいな雲がポコポコ見えるのが赤道付近の特徴で、夕方から夜にかけてスコールが発生します。それから、南氷洋は、いつも曇っていて波が高い。南下していて大きな波がくると、南氷洋まで来たなって感じるんですよ。ほかにはカリブ海の景色も特徴的。真っ青な海にポツンポツンとサルガッソーという名前の黄色い海藻が浮かんでいるんです。海の景色ということで言えば、最近の伊豆周辺は、一昔前のグアムや沖縄のような感じがあるかもしれないですね。赤道が上がってきたというか、生態系が変わってきているような感じがあります」。
STUDY 03 流されてしまったら
海や川で遊んでいるということは(場合によっては近くにいるだけでも)、流されるリスクがあるということ。もしものときにどうすれば良いか、それを知っているか知らないかで、安全度は天と地ほどの差ができる。
「漂流物に捕まるなら、大きなものより小さなもの。大きいものに捕まりたくなるものですが、大きいものだとそれに翻弄されてしまうんです。ペットボトルだって浮力がありますから、それをお腹のあたりに抱えて、仰向けで水に浮かんでください。流される方向に足を向け、視線もそちらに。足はなるべく上げて、障害物の下に身体が入り込まないようにします。寄せてくる波や上流を見てしまいがちですが、自分が流される先を見ることが大切です。いずれ、流れの緩い場所にたどり着きますから、そこまで上手に流されるという意識でいましょう」。
慌ててもがけば、身体は沈んでしまう。流されてしまったら、逆らわないことが肝になる。
※2020/4/15発売「mark13号 “FACING THE CLIMATE CHANGE 生きるためのアウトドア”」転載記事