ヨガスタジオというリアルプレイスのこれから
OYM:Juriさんは唯一ご自身のスタジオを持っていらっしゃいますが、オンラインだからできること、実際の場所で同じ空間だからできることについてはどう感じていますか。
Juri:「さっき賢吾さんがおっしゃったように、アシュタンガやシヴァナンダヨガといった伝統的なものに比べるとイグナイトヨガはモダンスタイルです。ヨガ人口を増やすこと、ヨガの入り口を広げることを目的に、音楽も流しますし、フィットネス寄りにもしています。そこでいくとオンラインは、ヨガ人口の分母を増やすツールだと思います。
インスタライブやオンラインレッスンを行ってみて、ヨガスタジオに来ることがどれだけハードルの高いことだったのかに気づかされました。お子さんのいる方はなかなか行けなかったり、スタジオに行くのって大変なんだって。オンラインはそのハードルを下げてくれて、多い時には朝でも1,700人が受けてくれています。これはヨガスタジオではできないことだと思います。
ただ、ヨガスタジオでしかできないこともあって。私はヨガってエネルギーワークだと思っています。そこにいる人たちと一緒に作り上げるエネルギーは、オンラインでも無いわけではないですが、やっぱりスタジオにいると全然違うものを感じます。なので分母をオンラインで増やしつつ、もっと深く学びたい、実際に体験したいという人たちが先生に会いに行ける流れを作れるといいですね。さっき有哉さんも言っていましたけど、オンラインだと難しいポーズやアームバランスを見きれないという問題もあります。ちょっとヒジを中に入れるだけでできるのに、オンラインではそれが見えなくなる、といったような。
OYM:オンラインとリアルな場とをつなぐ試みをされていますか?
Juri:「実際に生徒さんのいるクラスをオンラインでライブで流すという試みを先週から始めました。生徒さんを映すのではなく、先生を映すんです。先々週にスタジオを再オープンして、正直なところまだリアルなクラスへの戻りは少なくて。オンラインに残っている方が多いと感じたので、一緒にやってみるのもいいかもね、と始めてみました。
これはこれで、受けてくれている生徒さんは『クラスのビハインドザシーンズ(裏側)が見れてすごく楽しいです』みたいな感想をもらったり。オンラインの取り組みと実際のスタジオを合わせて運営することで、クリエイティブにいろんなことに挑戦する、というしなやかさを学んでいると思います。
増え続けるヨガ人口に、どう本質を伝えるか
OYM:賢吾さんはヨガスタジオ支援のプロジェクトも立ち上げられました。今後のヨガスタジオはどうなり、どういった役割を果たしていくでしょうか。
賢吾:「これはヨガ業界に限らずですが、実スペースを持っているところはスリム化を避けられないと思います。ビジネスモデルが変わってくるということですね。そのスリム化で空いた部分を埋めるものがオンラインであるのも共通でしょう。
これもヨガに限らずですが、オンラインになったことで情報伝達のスピードは上がってきた。昔は「ヨガの練習は見るものじゃない」ので鏡を置いていないスタジオもありましたけど、今は誰でもスマホで動画を撮って、SNSに映えるポーズを気にする時代。昔に比べてアーサナの広がりは早いですね。難しいポーズをできる人が昔より増えていると思います。情報のスピード感が増すのに応じて合理化や簡素化も進んで、どんどん広まっていく。しかし、広まっているのと同時に薄まっているとも感じます。
オンラインが主流になっていく中で、情報を伝える。でも、それを体験として伝えられているのかという葛藤も出てきました。アジャストもそう。こういう風にやるんだよ、とは伝えますが実際に見られないので、薄まってしまっている部分もあるかな、と。この状況でどうやって本質を伝えていくか。
例えば仏教だったら釈尊が亡くなって100年後には、生の声を聞いた人はもういないわけですよね。その後は口承や書物によってその思想が伝わっていく。ヨガの場合も、インドではパタビジョイスさんが亡くなっています。有哉くんが現地で本人から直々に教えを受け、情熱大陸の取材が入って映像に残っていますが、これはすごく貴重なものです。そういう経験をしている人たちが伝統のスタイルを守りつつ、Juriのように現代的な解釈で拡散させながら、ヨガのカルチャーの熱い部分や本質をわかっている人たちがインタラクティブにつながってやっていくのが大事だと思います。
薄まりながら広がっていくけど、掘り下げる人はより深く入っていくことができる環境づくり。今までのようなビッグクラスとかワークショップの数は減ると思いますが、限定的にでもできることはある。例えば10人限定で、でも本質的な体験をした人がしっかりと伝える場になれば、それは価値が上がると思います。ヨガ業界の僕らの世代には、伝統的な部分と、テクノロジーをうまく使いこなすバランス感を持っている先生が多い。業界は柔軟な対応をしながら、この方向性を掘り下げていくことになるでしょうね。
OYM:変化や柔軟さという流れにあって、更科さんはアシュタンガの型がある良さを感じていますか?
更科:「シンプルですよね。いつも一緒なんです。明日もそう、明後日もそう。同じことをやっているから深まっていく。同じことをやっているから自分のことが見えてくる。それは今回の自粛期間を経て改めて、いいものをチョイスしたなと感じることになりました。変わらない本質があるというか。
今日、アシュタンガを選ぶ人はなかなか少ないのが実情です。毎日早朝からアシュタンガをやるというのは……ということでしょう。でもやっている人たちは、いつもちゃんと来る。これまでもアシュタンガを選ぶ人たちは、だいたいホットヨガをやって、そのうちにアシュタンガの存在を知って興味を持つという感じです。Juriちゃんがやってる規模の大きい取り組みからヨガを始めて、そこから次第に降りてくるという流れは今後増えてくるかなと思っています」。
ヨガの社会的な役割が明確になってきた
更科:「僕がやっているアシュタンガヨガは、初心者でまだ憶えきれてない方には先生が必要不可欠ですが、実践者はすでに一人で練習できる方がほとんどなので、オンラインでもオフラインでもあまり違いはないと感じているんです。
前よりも難しい期間がこれから続くと思いますし、まずは小さいコミュニティを作ってしっかりとヨガに向き合ってみたいと考えています。暮らしを豊かにする、というところに労力を使っていこうと。前はもっとお金を稼がなきゃ、とかもっと表に出なければ、と思っていたけど今はそうでもありません。もう一度言いますが、暮らしを豊かにしたいんです」。
賢吾:「ほんとそうですよね。この数ヶ月クラスが無かったので、実働することもなくて、家にこもって本を読んだり、曲を作ったりして過ごしていました。こういうことをこんな時間までやっていていいのかな? って思うこともありましたけど(笑)、すごい楽しかった。そんな中で、Juriや有哉くんといろいろ電話したりして、今までの視点が切り替わっていって、お互いにこれからのことを改めて腹を割って話せるようになったのはいい経験でした。ヨガのコミュニティは基本的にはポジティブで前向きで、誰かをサポートしたいという助け合いの精神があるなぁと。
日本はこれから超高齢化社会になってGDPも減っていく中で、こんなときだからこそ家でヨガしよう、って風向きになる。みんなでスローガンを掲げて、スタジオが無いからダメだと悲観するのではなく、みんながオンラインに活路を見出して、仕事を生み出していくというのがこの最近のことでした。
この前読んだ本には、これからはAIの進化で仕事がどんどん機械に奪われ、社会的に役割のない不労者層が増加し、うつ病の人が増えるとありました。そういうところにも、ヨガの業界は“Be positive”な価値観をもってフィジカルとマインドの両方でアプローチしていける良さがあると思います。その哲学は日本のこれからの社会の中で役割が大きくなるとも思います。
Juriなんて『私やります!』感がもう溢れんばかりにあるじゃないですか(笑) 毎日動いて、みたいな。現代的ですよ。僕のこれからはJuriや有哉くんのような第一線の人にへつらってうまく仕事を得ていくことですね(笑)。 ところでJuriはクラウドファンディングでどれだけ集めたの?」