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「ニューノーマル」「新しい日常」において、生活に自転車を利用する機運が世界的に高まっている。NPO法人バイシクルエコロジー ジャパンが開催した、自転車通勤を応援する試み「Bike to Work 2020」に、日本の自転車利用の明るい兆しを見た。

平日午前の渋谷、キャットストリート。ひと時よりは歩く人の姿も少ないが、「FREITAG STORE TOKYO SHIBUYA」には1台、また1台と自転車が吸い込まれていく。ここはNPO法人バイシクルエコロジー ジャパン(B.E.J.)が朝の2時間だけ開いた「Bike to Work 2020」の会場だ。

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「Bike to Work」は、2006年に発足したB.E.J.がかつて毎月開催していた、自転車通勤を応援・促進する試み。新型コロナウイルスが流行し全国的に自粛が要請された時点で、B.E.J.は自転車利用の需要増加を確信。「新しい日常」をみなが模索するこのタイミングで啓蒙活動を行った。

文化はBike “to” の先にある

B.E.J.代表で発起人の杉浦邦俊さんは、自転車利用を文化として日本に醸成したいと考えている。競技としての自転車文化こそあるが、自転車を使って何をするかに焦点を当て、もっと文化的な文脈に置くことを目指す。「少し良い言い方をすれば、バイシクルストリートカルチャー、でしょうか。自転車そのもの、自転車に乗ることがカッコいいと思えるようになれば。東京はそういった意識に向かいつつあると感じています。2007年に比べると、バイクレーンが増え、自転車をお洒落の一貫として乗る人が増えたと思います」。

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バイシクルエコロジー ジャパン代表の杉浦邦俊さん。2006年から自転車利用の啓蒙活動を行っている

今回は通勤にフォーカスしているが、伝えたいメッセージはBike toの“to”に込められているのだという。かつて自転車店で働いていた杉浦さんは、自転車がモノ優位なアクティビティであることを痛感した。

「自転車に乗ることより、自転車というモノにこだわる傾向に違和感があって。今日も現役のメッセンジャーや、元メッセンジャーたちも来てくれていますが、彼らとの出会いが自転車の移動手段としての可能性に気づかせてくれたんです。何かを運ぶ、どこかへ行く、通勤する。大事なのは自転車で何をするか、Bike toの“to”であって、そこにこそカルチャーが生まれると。toの先にあるものはライフスタイルなんだと考えているんです」。

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多岐にわたる自転車企業が集結 渋谷区議も

この日、杉浦さんの呼びかけには多種多様な自転車関係企業やブランドが集まった。このラインナップを見るだけでも、自転車の楽しみ方、使い方は多岐にわたることがわかる。自ら焙煎したコーヒーを自転車で配送するオークランド発の「バイシクルコーヒー」、会場を提供するのはシティサイクリストに使用者も多いラゲッジメーカーのフライターグ#choosecyclingを呼びかけ世界中のサイクリストの意識を喚起させるサイクリングブランドRapha、会場の斜向かいにあるBMXのキーショップWBASE、BMXアパレルの430、フィンランド発のアーバンバイクブランドPelagoなどなど。

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(左)レジェンドBMXライダーの田中光太郎さんも顔を出した。現在は自転車に楽しく安全に乗れるようキッズスクールを精力的に開催している。(右)T-Serve所属の現役メッセンジャーKTさん。コロナにより配送仕事の量は減ったという

通勤でも、買い物でも、運動でも、自転車が走るのは道路であって、人の暮らしがある街だ。自転車利用が増えている現在、行政もこれまで以上に自転車に視線を注ぎ始めている。会場を訪れていた渋谷区の橋本ゆき区議会議員も、「世代を超えて取り組める」自転車利用を前向きに捉えている。

「自転車で安全に、怖い思いをせずに乗ることのできる環境づくりにおいては、公共のデザインで解決できる余地があると感じています」。

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(左)渋谷区議会議員の橋本ゆきさん (右)本イベントの世話人である鈴木はるみさん

自転車通勤を取り入れたい企業、いませんか?

出展していたRaphaのメトロマーケッター合田光宏さんは、今回のイベントをこう振り返る。

「いろんな自転車関係者が集まって、通勤利用のメッセージを発せたことは意義があると思います。今後重要なのは、こうした協賛企業に自転車関係以外の一般企業に参加してもらうことです。自転車企業の内輪だけの動きで終わらせてはいけません。それに、自転車業界以外に目を向けることで得られるヒントは多いと考えています。

自転車通勤を取り入れたいけれど何をどうやればいいかわからない、という企業も多いと聞きます。そんな企業の担当者の方も、気軽に相談してもらえればと思います。これだけの自転車関係者が集まって通勤ライドのノウハウを持ち寄っていますので、お手伝いできることはたくさんあります」。

個々人への働きかけと同時に、企業への働きかけの重要さ。自分の会社が大手を振って促進してくれたら、ぜひ自転車通勤を取り入れたい人も多いはずだ。運動にもなり満員電車を避けられ、環境にも優しい通勤方法は、多くの人にメリットがある。めぐりめぐって、企業にもウェルネスをもたらすだろう。

ロンドンでは五輪を機に街の自転車利用が増えた。通勤時間帯のバイクレーンには目を見張るほどに自転車の往来がある。「Bike to Work 2020」の取り組みを見て、東京の通勤時間帯がそうなることを期待しないではいられなくなったのだった。

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