fbpx
製品を作り、販売するだけでなく、サーキュラー・エコノミーを実践するロールモデルとして製造業を牽引するパタゴニア。パタゴニアはいかにして声を上げるようになったのか、改めてその背景を振り返ってみよう。

patagonia

「責任あるビジネス」の有り様をいち早く社会に問いかけ、アウトドアブランドという範疇を超えて独自の存在感を発揮する企業がパタゴニアだ。

1957年、先鋭的なクライマーとして頭角を表していたイヴォン・シュイナードは独学で鍛冶を学び、廃品集積場から集めた材料で自分たちが使うクライミングギアを作り始める。パタゴニアの前身となる、この〈シュイナード・イクイップメント〉は、北米で使われるクライミングギアのほぼすべてを作り替えるほどに成長したが、70年代初頭に転機を迎える。当時販売していたピトンが、自分たちが愛する岩肌にダメージを与えていることがわかったのだ。

これを受けてピトンの事業から撤退すると同時に、岩を傷つけないギアの開発をスタート、アウトドア史上初めて「クリーン・クライミング」を提唱した。これが、環境保護に関する取り組みの最初のステップとなったのである。

草の根活動の支援から社員教育まで

73年にパタゴニアを創業した後も、環境問題に対してアクションを起こし続けた。86年には利益の1%を、草の根活動を行う環境保護グループに寄付することを誓約。この運動は現在、2,000社以上が参加する組織「1% for the Planet」に発展し、パタゴニアのこれまでの寄付総額は1億ドルを超す。

環境保護への取り組みは資金提供だけに止まらず、環境負荷の低い素材の開発から社員向けの環境インターンシッププログラムの整備まで実に多岐にわたる。ビジネスと環境保護という、相反する要素の両立を見据え、「環境ファースト」というビジネスモデルを世界に指し示すパタゴニア。その先進的な取り組みをご紹介しよう。

patagonia
インドで行われているリジェネラティブ・オーガニックのパイロット農場
patagonia
2014年秋にはフェアトレードUSAとのパートナーシップのもと、フェアトレード・サーティファイドのプログラムをスタート

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」

パタゴニアは90年代初頭から一貫して、環境に対する責任をビジネスにおける最優先事項の一つに掲げて取り組んできた。ここではその象徴的なアクションを振り返ってみよう。

90年代のエポックメイキングな取り組みがオーガニックコットンへの切り替えだ。従来型の綿花栽培が農薬使用による土壌や水質汚染といった深刻なダメージを環境にもたらすことが判明すると、パタゴニアは全製品をオーガニックコットンに切り替えた。96年のことである。

現在はさらにハードルを押し上げ、土壌により多くの炭素を封じ込める、気候変動の阻止に役立つなど、さまざまな可能性を秘める「リジェネラティブ・オーガニック農業」を推進。これに取り組む農家から調達したリジェネラティブ・オーガニック製品の製造を進めている。

製品の環境負荷を少なくするために

労働者の就労環境を向上させ、児童労働を防ぐフェアトレード認証プログラムにも取り組む一方で、2025年までにカーボン・ニュートラルを実現することも掲げており、二酸化炭素排出量低減のための取り組みも進めている。その一つがリサイクル素材の活用だ。昨シーズンには高い機能性が求められる防水シェルの全製品にリサイクル素材を使用することに成功している。

また、製品の寿命が延びるほどにその製品が環境に与える影響は少なくなることから、13年にはモノを長持ちさせる「Worn Wear」プログラムをスタート。製品に“修理”というストーリーを加えることで消費者のモノへの責任を喚起する試みが話題となった。

patagonia
「新品よりも、ずっといい」という意識改革に挑んだ「Worn Wear」
patagonia
2019年、すべての防水シェルにリサイクル素材を使用

草の根運動をサポート 身近なところで環境を考える

カーボンニュートラルという目標への第一段階として、パタゴニアでは店舗やオフィス、倉庫で使う電力のすべてを再生可能エネルギーで調達することを計画しており、これにまつわる日本独自の試みが進んでいる。「ソーラー・シェアリング(営農型太陽光発電)」がそれだ。

耕作地の上にソーラーパネルを設置、太陽光で作物を育てながら発電も賄うというもので、パタゴニア日本支社は千葉県で2カ所のソーラー・シェアリングに投資を行っている。これにより、農家は農地で生産した再生可能エネルギーを販売して収入を得ることができる。

パタゴニアでは、ここで発電された電気を渋谷ストアで使用する他、別の施設にも利用することを計画している。匝瑳市の耕作地では、ソーラー・シェアリングに隣接する畑で大豆のリジェネラティブ・オーガニック栽培を実験的にスタート、他にはない取り組みに注目が集まる。

patagonia
パタゴニア日本支社が推し進めるソーラー・シェアリング
patagonia
「1% for the Planet」では加盟企業は年間売り上げの1%を草の根活動団体に寄付する

私たちにもできるアクション

このように、パタゴニア日本支社は独自の活動にも積極的に取り組んでおり、過去に長崎県石木ダムの建設阻止活動や熊本県球磨川荒瀬ダムの撤去をサポートしたように年間30~40の環境保護団体に対して助成金による支援を行っている。昨年9月にはグローバル気候マーチにいち早く賛同を表明し、全社を上げてこれを支えたが、現在は気候変動に取り組む団体への支援を強化している。

日本は先進国で唯一、深刻な気候変動リスクを生じさせる石炭火力発電所の新設を進めようとしているが、これへの反対活動を行う住民グループをサポート。いくつかの建設計画差し止めにも成功しているほか、長野県白馬村では地元住民と協同して自治体に働きかけることで「気候非常事態宣言」表明をもたらした。

より身近なものでは、横浜ストアのスタッフが主導した「ゼロ・ウェイスト」の取り組みがある。「使い捨てプラスチック製品の使用をやめよう」と同店で始まり、日本支社のオフィスでもすすめられているこの取り組みのように、身の回りから始められるアクションなら私たちも取り入れられそうだ。

patagonia
昨年のG20(主要20 ヶ国・地域首脳会議)では、議長国である日本の石炭火力発電に厳しい目が向けられた。写真は、パタゴニアが支援する「横須賀火力発電所建設を考える会」が、横須賀の石炭火力発電所建設予定地の前で計画反対を訴えた際の一コマ
patagonia
1994年に発足した「草の根活動家のためのツール会議」

※2020/4/15発売「mark13号 “FACING THE CLIMATE CHANGE 生きるためのアウトドア”」転載記事

パタゴニア日本公式サイト patagonia.jp