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環境に負荷がかからないウェアづくりを行いつつ、リサイクルウェアに取り組むTHE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)が掲げたのは、ブランドの核である“冒険”を循環させるという新しい呼びかけだった。

気候変動という名称が一般化するその前から、アウトドアマンは自然環境に敏感な人たちだった。そんな彼らのためのギアを作るアウトドアブランドが、その創業から高い環境意識を備えているのは道理だ。

THE NORTH FACEの創業者であるダグラス・トンプキンス氏が熱心な環境活動家であったことは広く知られている。彼の遺志は21世紀のTHE NORTH FACEにも脈々と引き継がれ、テクノロジーを活かしたサステナブルな製品開発を推し進めている。

2019年には人工タンパク質生地からなる『ムーン・パーカ』を発表。化学繊維を用いない、低環境負荷の衣料生産の扉を開いてみせた。そしてこの2020年にTHE NORTH FACEが注力する環境への取り組みは、同社がスローガンに掲げる“冒険”を前面に押し出したものだ。

冒険を循環させる

〈EXPLORE SOURCE〉と名付けられたそのプロジェクトは、ありていに言えばウェアのリサイクルだ。しかしTHE NORTH FACEはそこに“あなたの冒険を支えた服が、生まれ変わって新しく誰かの冒険を支える”というストーリーを生み出す。

THE NORTH FACEプロダクトマネージャーの大坪岳人氏はこう語る。「製造業の中でもアパレル産業が排出する温室効果ガスの割合は少なくありません。生産工程におけるCO2 排出を抑える取り組みを継続的に行っていても、物質的に私たちが減らせる量は、全体でみるとほんのわずかです。ならば何を変えることができるか、と考えた時にそれはお客様の意識じゃないかと思い至ったんです」。

〈EXPLORE SOURCE〉を提唱して人々のリサイクルに対するエンゲージメントを向上させる一方で、THE NORTH FACEのリサイクル技術も進化を遂げている。リサイクルポリエステルの糸から作り出されるニット生地〈ENGINEERED KNIT〉はその好例だ。

通常は糸から生地を作り、その生地を染色した上でウェアのパターンを切り出すが、その工程では不使用部分に無駄な生地が生じてしまう。対してあらかじめ染色されたリサイクル糸からパターンを直接編み込んで成形する〈ENGINEERED KNIT〉は無駄が生じず、環境負荷を抑えることができる(下図参照)。

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス EXPLORE SOURCE

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス EXPLORE SOURCE
〈EXPLORE SOURCE〉によってリサイクルされたポリエステル糸で作られる〈ENGINEERED KNIT〉の生地表面。リサイクル技術の進歩により上質な生地を生み出すことが可能になった。
THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス EXPLORE SOURCE
〈ENGINEERED KNIT〉を用いた「Engineered Track Jacket」。

不要になったウェアはTHE NORTH FACEショップに設置されたボックスで回収を受け付けている。集められたウェアは洗浄され、ポリエステル素材に関しては提携企業である日本環境設計株式会社でペレット(原料)まで溶解され、次のウェアの材料となる。

「アウトドアウェアには、細くて強い純度の高い糸が必要です。日本環境設計は再資源化の能力が高く、不純物をきれいに取り除いたペレットが作れるんです。また、日本企業ということでそのまま糸が国内で作れるというサプライチェーン上のメリットもあります」。

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス EXPLORE SOURCE
店舗に設置されている回収ボックス。どんなブランドのウェアでも受け付ける。

サステナブルな風向きを感じて

実情として、リサイクルウェアを製造するのにはコストがかさむ。それを飲み込んででも、率先して取り組むのは、こうした高い技術と工夫で応えてくれる提携先と、取り組みに共感してくれるユーザーの反応があるからだという。

特に、若い世代は先入観なく環境への取り組みを理解してくれると大坪さんは手応えを感じている。『Never Stop Exploring 』(冒険を決して止めるな)はTHE NORTH FACEの根幹にあるスローガンであり、数々の冒険とストーリーがそれを体現してきた。

THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス EXPLORE SOURCE
ザ・ノース・フェイス アスリートのトレイルランナー宮﨑喜美乃。中東オマーンで開催されたOMAN BY UTMBで3位入賞を果たした彼女が着るのは〈EXPLORE SOURCE〉によってリサイクルされたTシャツだ。誰かの冒険が、次の冒険へと循環する。#05 私が100マイルを走る訳 ゲスト:宮﨑喜美乃

かつて未開の地を切り開いた挑戦の精神は、いまサステナビリティという新たな冒険に挑んでいる。アウトドアを愛する人たちの意識を変えようというチャレンジだ。

「自分の着たウェアがエベレストに行く、あるいはエベレストに行ったウェアが自分のウェアの一部になる。ウェアを通じて気持ちや心のつながりが結ばれることで、新しい空気が生み出せるのではないかと期待しています」。

※2020/4/15発売「mark13号 “FACING THE CLIMATE CHANGE 生きるためのアウトドア”」転載記事

THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)
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