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実際に災害などで避難を余儀なくされる状況になったとき、いったい何が手元にあればいいのだろう。備えあれば憂いなし。ヒントになるのが、アウトドアに慣れ親しんでいるかどうか。山は都市部と違って常に不便への対応を強いられている。つまりテント泊やアドベンチャーレースなどのギアとノウハウが役に立つのだ。そこで、災害危機のプロによる金言に耳を傾けつつ、編集部で「究極のサバイバルツールパック」を考えてみた。

災害対策

災害時に生存率を上げるのは自然への知識と経験。
そして頼りになるサバイバルツールだ。

サバイバル用のツールパックといえば、いわゆる「非常時持ち出しセット」の類がまず一般的だろう。でも、それをクローゼットにしまい込んでいるだけでは安心はできない。前提としてそこにあるモノを使いこなせないと意味がないし、そもそも災害時に必要になるモノが何なのか、本当に分かっているのだろうか。大多数が災害時の経験に乏しいだけに。そこで、プロの災害危機管理アドバイザーとして政府や公的機関へのアドバイスも行う和田隆昌さんに話を伺った。

アドベンチャーレーサーの装備はサバイバルツールの参考になる

究極のサバイバルツールパックということですが、まず何をもって究極かというのが難しいですけれども、ひとつは生死を分かつシチュエーションでしょうか。

話が少し飛びますが、僕自身2,000m級の山によく登りますし、過去にサーフィン専門誌に携わっていたこともあって、周りにはアウトドア好きの知人が多いんです。だから分かるんですが、アドベンチャーレースや、トレイルランで100km以上も走るウルトラをやってる人の装備は実用的ですよね。山や森のなかで長時間サバイブするためのギアを背負っていて、その使い方や必要性もよく分かっている。使えないと死んでしまいますから。そして彼らは何より体力があります。生き延びるために必要なモノって体力によっても違いますからね。

地図を読む力と言いますか、地形を読む力も重要なんですよ。荒天時に自然がどう変わるか。川が氾濫する場合はどこから流れてきそうだとか、崩れそうな斜面はどこかとか、雪崩そうな場所はどこかとか。その見方ができれば危ない場所が分かります。危険を避けるということですね。マリンスポーツは風や潮の流れが読めないと一流にはなれませんし。もっとも今は報道やアプリなどが発達してきているので、日常生活で接する自然災害においてはそれらを上手に活用するとよいでしょう。

避難所に依存しない装備を

世の中には誤解している人が多いかもしれませんが、避難所って緊急時に滞在する場所として必ずしも最適だとは言えないんですよね。多くの人が窮屈な状態で集められ、衛生環境もよくない可能性がある。そもそも全員が避難所に入れるわけではないですし、ちゃんとしたツールが手元にあるならライフラインが止まっても自宅でしのぐ。自宅が無理でも、緊急開放された駐車場で車中泊をしたり、テント泊をする。そのほうが自分でコントロールできることが多くなり、安全かつ快適です。ただ避難所には情報が集まるというメリットがあるので、常に顔を出せる距離でつかず離れずが一番いいです。

まず大事なのは水。水の有無が生存可能性を大きく左右します。僕は基本的に生水は飲みません。単純に家にストックしておけばいいですし、浄水機能のあるボトルを持っておくと便利でしょう。エナジーバーやジェルのようなハイカロリーで嵩張らない食糧類も、とてもいいと思います。調理しなくてもすぐ食べられますし。

それと虫よけ。実は避難が必要な自然災害が起きると虫が大量にわくんですよ。しかも丸々と肥えたデカいやつが。だから防虫グッズがあると役立ちます。虫刺されに備えてポイズンリムーバーも。余談ですが、ニオイが気になるからと香水をつけてしまうと、そのいい香りが虫を惹きつけてしまうんですよね。でも、一般の人ってそういうこと知らないでしょう? ギアを持っていて、使いこなせる、使った経験があるというのはそういうことです。ハッカ、ミントなど忌避成分の含まれているものが効果的です。

自分なりのサバイバルツールパックを作ろう

こうして挙げてみると分かると思いますが、災害時に必要なモノって山のプロなら基本的にもう全部持っているモノばかりです。ただ、それを防災に結び付けるという発想があるかどうか。例えば防水のレインウェアなんかも防災時の服としては非常に役立ちます。3レイヤーの概念を知っているのといないのとでは、ツールパックの組み方も変わってくるはずです。サバイバルの知識・経験さえあれば不必要なギアを持つ必要もありません。

日本人って「もしものとき」のことを考えたがらない傾向がありますよね。その意味でも、防災のためだけでなく、サバイバル=アウトドアで使えるギアという視点でなら前向きに選べるのではないでしょうか。サバイバルツールとして必要なモノは人によって違ってきます。それを考えるのもよい経験ですから、ぜひ自分なりのツールパックを作ってみてください。

※2020/4/15発売「mark13号 “FACING THE CLIMATE CHANGE 生きるためのアウトドア”」転載記事

監修:和田隆昌

災害危機管理アドバイザー。その道のプロとしてTVなどでも活躍する。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取り、災害や危機管理問題に積極的に取り組む。海や山のアウトドア専門誌の編集長を歴任し、長年のアウトドア活動からサバイバル術も得意とする。主な著書は『大地震 死ぬ場所・生きる場所』(ゴマブックス)ほか。