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自粛期間を経て、これからのスポーツライフスタイルのあり方のヒントを探る企画『In Quarantine』。第二回はフリーランスフォトグラファーとしてonyourmarkの撮影も協力いただいている松平伊織さん。仕事への向き合い方から、広くは自分の人生の進め方についても、この自粛生活は大きなターニングポイントとなったようです。

onyourmark(以下OYM):フリーランスという立場ですが、自粛生活期間中、仕事はできていましたか?

松平:全体のディレクションを任せてもらっている仕事だったり、この状況になる前に走り出していたプロジェクトがあったので、継続して進めているものはいくつかありました。ただ、それまでの仕事のボリュームと比べると半分くらいに減りましたし、緊急事態宣言が出てからは稼働率はぐんと下がっています。

ただ、ありがたいことに企画が中止になることなく「行動自粛が明けてから進めよう」と言ってくれるクライアントが多くて、一本一本の仕事をゆっくりと丁寧に進められたので、心理的なストレスや不安に苛まされるようなことはありませんでした。恵まれてるとつくづく思っています。

OYM:緊急事態宣言が解除されましたが、新型コロナウイルスによる影響を受けずに仕事ができそうですか?

松平:今はいいですが、少し先、2、3年先を考えると確実に仕事は減るだろうと思っています。スポーツ業界に限らず、広告を中心としたプロモーションはしばらくセーブされるでしょうし、回復傾向に向かうまで、どれだけ時間がかかるのかなと、不安は少なからずあります。

OYM:フリーランスで仕事をしていると自粛生活に入るタイミングを判断するのが難しかったと思うんですが、どのタイミングで生活スタイルを見直したのでしょうか?

松平:3月の2週目くらいからですね。世間的には割と早い方だと思うのですが、オフィスをシェアしている友人たちがその頃に在宅に切り替えたこともあって、僕も同じタイミングで自宅作業へ切り変えました。ちょうどmarkの撮影をさせていただいた後、少し体調を崩したんです。それがきっかけで新型コロナウイルスに対して危機管理の意識が高まりました。実家暮らしで親も割と高齢なので、むやみに仕事場へ行って感染して、親へうつすことを考えたら、そのリスクは取れないと思ったのがいちばんの理由です。同年代と比べてストイックだったとは思います。

OYM:世界の状況をどのように受け止めましたか?このようになるとは考えていましたか?

松平:当初はニュースを見ながら何か試されてるような感覚で過ごしていました。エボラ出血熱のような感染したら死に直結する病気ではないですが、不確定要素が多すぎる怖さがあったので、いかに感染しない、そのための行動を取れるかを考えて、基本家にいるのがベストと考えました。今はSTAY HOMEが当たり前ですけど、当時はまだ自粛生活が強く叫ばれていたわけではなかったので、選択肢として正しい行動が取れたと思っています。

OYM:今、走っていますか?自粛生活中、運動をする環境にストレスを感じたことはありませんか?

松平:ランニングは以前と変わらずできています。習慣となっていることなので、そこは変わらないですね。以前から使っているトラックが今は全面使用禁止になっているのですが、マラソンシーズンに入ってからはロードを走るのがメインになっていたので、特に影響は受けていません。

家の目の前が河川沿いで、走りに出やすいですし、近所にはちょうど良い坂もあるので、1時間程度ジョギングをして、最後に坂でダッシュを2、3本入れるのが今の生活の基本的なルーティンです。以前は仕事を終えた後夕方に走っていましたけど、河川沿いは特にランニングに限らずリフレッシュのために外へ出ているであろう人が日に日に増えたので、開始を夜の10時頃に切り替えました。これからの季節、夕方は走るのが本当に気持ちいい時間帯なので、もう少し状況が落ち着いたらまた夕方に戻すつもりでいます。

OYM:今話に上がったように気持ちをリフレッシュするためにランニングを始めた人が増えたと思うんですが、松平さんの場合、同じようにランニングはリフレッシュするためのものにシフトしたということですか?

松平:今は落ち着きましたが、自粛生活に入った当初は特に不安が大きくて、強制的に追い込んで頭の中を空っぽにするようなリフレッシュの仕方をしていました。でも、僕にとってのランニングはリフレッシュというよりはメディテーション的な意味合いが強いです。費やす時間は少ないですが、以前から生活していく上で欠かせない時間と捉えていました。

先日、高校野球の夏の甲子園大会の中止が発表とされましたけど、僕はインターハイの中止発表にかなりショックを受けて「目標を失った高校生って今どう走ってるんだろう?」と自分を投影して、落ち込んでばかりもいられないと思うようになったり。ランニングの時間がより深く物事を考える時間と考えをまとめる時間に変化していきました。ゆっくりと生活を送る中で、ポッドキャストやラジオを聴く機会が増えたんです。その影響か、ランニング中にセルフラジオみたいなことをするんですね。今自分が考えていることとか、進めている企画を言葉にして、頭の中で整理する。多くは見ているDVDとか、ネットで見て頭に残っている情報について。

走っている時って、息が上がるような余程追い込んだ形で走りさえしなければ、途中からすーっと考え事をする時間に切り替わるタイミングが訪れます。クリエイティブな発想が閃きますし、アイディアが拡張していくし、まとめきれずにしまっておいたもののあるべき形が見つかることがあります。走り終えて家に戻ったらそれを忘れないうちにメモにまとめる。一連の作業として、ランニングがクリエイティブの出発点になった部分があります。その考えにいきつけたという点で、僕にとっては今回の“STOP”はあって良かったとポジティブに受け止めています。忙しい時期では、多分そのような考えには行き着かなかったと思うので。

OYM:具体的どういったことを考えて走って、どういった答えを見つけたのか、何かエピソードがあれば教えてください。

松平:転職するなら何が良いか、写真は生活に必要なものかとか、割とシリアスなことを考えることが多かったですね(笑)。写真は二次的な表現だけど、それで届けられるものの限界があるとか、音楽や場所作りのような立体的な仕事がしたいと思ったり、でもやっぱり自分の表現の仕方として写真、映像で追求したいと思ったり。

フリーなので、やはりいただける仕事があって生活ができるわけですけど、これまで内省する時間を取ることってなかったので、フリーの人は誰でもそうだと思うんですが、今回のように強制的にでもSTOPをかけられなければ、怖さが勝って仕事ありきの生活になってしまうところがあると思うんです。

そもそも自分は何が撮りたかったのか。こういった事態になって、写真であれ映像であれ社会に還元できるものを作らないといけないという意識が強くなりました。これまでは求められるものを撮影する仕事が多かったですが、クライアントワークは変わらず大切に続けながら、自分の考えていることを発信して時間を常に作るよう心がけようと思っています。自分を主体に、社会と繋がっていきたいなと考えるようになりました。

OYM:話は変わりますが、自粛生活で何か新しく始めたことだったり、ランニング以外で取り組んでいるアクティビティはありますか?

松平:今、ダンスとピアノをやってるんですよ(笑)。まさに何か新しいことを始めたいなと思って。〈elevenplay〉さん(Perfumeの振り付けや星野源さんの恋ダンスで知られるMIKIKOさんが率いるダンスカンパニー)の撮影をさせていただいていたので、なんとなくですけど、こんな時期だしPerfumeの振りでも覚えてみようかなと思って始めたんですが、気分が上がるので楽しんで続けています。月イチで一つずつ覚えてますね。

ピアノは姉がやっていて、家にアップライトピアノがあるので、これもこの機会だしと思って始めました。新しい発見だったんですけど、ピアノって右手の指と左手の指で違う動きをするんですよね。今まで使ってなかった脳が働いている感覚があって面白いです。音楽全般に言えることですけど、侘び寂び的な感情にタッチしてくるものと感じて、自分もそういう作品を作りたいと思うようになりました。

ランクルーカルチャーを追いかける仕事もよくしていますが、ランニングに関わる仕事をしたいと思ったきっかけは、1人でやるスポーツというところに興味があったからです。自分自身も取り組んでいて感じる、不安や高揚感、目に見えない部分を表現したいと思ったことが大きな理由ですが、ピアノに触れて改めて、自分の中にあった感情に気づいたところかもしれません。

OYM:スポーツのあり方は今後どんな変化を見せると思いますか?これからのライフスタイルに何を希望しますか?

松平:“する”ことに関しては何か変化を加えることよりも、以前あった環境に戻していかなくてはいけないのかなと思います。いつになるかわからないですけど、大会は大きなモチベーションになりますし、準備したものを披露する場は人が集まってこそだと思うので。今の状況を踏まえて思うのは、大会のあり方や開催する意味が今まで以上にシビアに見られるというか、東京マラソンのように、その大会でしか味わえない感情や経験に対してクローズアップされるように思います。ひとつひとつの大会がコンセプチュアルでオリジナルな大会であることが要求されるようになっていくのかなと。

それから、市民ランナーのアスリート化が加速し、顕著になっていくと思っています。トップランナーのトレーニングメニューも今ではすぐ知ることができますし、自分を向上させるコツを理解した人はどんどん競技力を伸ばしていく環境が整ったと思うので。

反面、希望ですが、ランニングがタイムではない部分で評価されるようになってほしいと思っています。個人競技で、必然的にタイムでステータスを測られてしまう部分が生まれてしまいますが、アスリートも含めて、例えば健康だったりパーソナリティを軸にランニングの魅力が語られるようになると、より健全なものとして、多くの人の生活に馴染んでいくと思うんです。

今回の期間はある意味、右に倣えの考えが壊されて、自分の人生を自分で考えて行動するターニングポイントになったと思っています。周りを見ても、各々にとって仕事や暮らしがしやすい環境に目を向け始めたように感じています。リモートの良い部分は継続してほしいですし、多様性を持った社会がスタンダードになっていってほしいですね。

OYM:個人として何かアクションを起こしていく考えはありますか?

松平:先ほど話したことの続きになりますが、自分が思うままに行動していこうという意識が今は強いです。同年代の仲間で同じようなことを話す機会があって、僕らの世代だったりもっと若いこれから世の中を作っていかなくてはいけない世代は特に、無理のない生き方というか、フィジカルとメンタルが求めている素直な生き方ができる環境を自ら作っていかなくてはいけないなと。

今回の自粛生活でランニングであったり身体を動かすことがマインドフルネスにつながることを理解した人は多いと思いますし、アクションを起こすという感じではないですが、身の回りの人と、そうした生活の大切さを共有し続けていきたいなと思っています。僕の身の回りだけでなく、世界中でその輪が広がっていくと期待しています。

仕事への意欲が湧いているので、1年くらいは大会に出ないで、“走る目的”がなんだったかを考える時間にしていこうと考えています。タイムを目指すことだったのか、健康のためだったのか、その時その時で変わっていくものだと思うんですが、みんなでワイワイやることなのか、スピードを求めることなのかとか。

昔からの友人数人がこの期間にランニングを始めるようになって、オススメの靴は何か、アドバイスを求められる機会があったのですが、面白いのが興味を持っているブランドがまず〈On〉や〈HOKA ONE ONE〉なんですよね。それから〈NIKE〉という順なんです。今時だなと思いつつ、どちらもよく仕事をさせてもらっているブランドなので、嬉しいことでした。同時に、それぞれのブランドの世界観、ランニングシーンを表現する側として、響くものを作り続けなくてはいけないと、強く思いましたし、表現の仕方を探ることが、これからの自分が走る意味を浮き上がらせてくれると思っています。

mark vol.12、vol.13でそれぞれ月岡金男さん(上)、花谷泰広さん(下)を撮影。松平さんのポートレートは内面を強く浮き上がらせる。月岡さんの記事はonyourmarkで再編集、なぜ80歳を過ぎても100マイルを走るのか』として掲載しています。ぜひご一読を。

松平伊織

1992年、横浜生まれ。フリーランスの写真、映像作家。学生時代から中長距離を軸に陸上競技を続け、社会人になってからも800mで2分4秒で走るスピードを持つ。フルマラソンでは早々とサブ3を達成。撮影ではカメラを持ったままフルマラソンを走りきることも多々。スポーツ、ライフスタイル、ファッションと幅広く活躍する、期待の次世代アーティスト。

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