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セレクトショップ、BEAMSに勤めながら競技志向を持ってランニングに取り組む牧野英明さん。市民ランナーの枠を超えるランニングへのピュアなモチベーションはonyourmarkでもたびたび紹介している通り。コロナ禍における自身の状況、ランニングとの向き合い方の変化、アフターコロナに期待すること……。ランニングに情熱を傾ける者として、今感じていることを聞きました。

onyourmark(以下OYM):リモートワークに入ったのはいつからですか?

牧野:非常事態宣言がちょうど発動するタイミングなので4月8日からですね。そこでオフィスへの原則出社停止となりました。それまでも会社では3月中旬からテレワーク推奨ではあったんですが、会社で仕事するのは普通の感覚でしたし、3月後半でもまだ事態がこうなると実感していなかったところがあります。3月の最終週に入って、感染した人のブログや投稿を見て、それまでは自分には関係ないことと思っていたんですが、考えを改めるようになりました。

OYM:現在の状況をどのように受け止めていますか?

牧野:会社としては、うちは販売なので、実店舗を閉じなくてはいけなくなったことが大きく響いています。eコマース、物流は動いていて、今はeコマースが生命線です。アプローチの仕方、新たなアイディアを考えなくてはいけない状況ですね。
個人的にはこれから進めようとしていた企画や、考えていた提案がSTOPして、進行が滞っている部分もあります。一方で、これはみんな同じことを考えていると思っているんですけど、今回の強制的な制限によって、不安と焦りがある反面、これを機会に新たな発想と経験を見出そうという意識になりました。この生活に慣れてしまうと逆にこれまであった生活をイレギュラーに感じると思うんですが、実際リモートワークで事足りている感覚はあります。顔の見えるオンライン会議なら8割以上「会議をしている」実感が得られています。リモートの特徴として話す人と聞く人とに分かれている印象はありますけど、リモート会議を個々でブラッシュアップすることによって、よりクリエイティブになっていくような気がしています。アイディアが生まれやすい環境ができるのではないかなと。今はまだ試行錯誤の段階ですけど。

OYM:個人的な生活への影響は?

牧野:僕は新宿や渋谷のような人が集まる街がゴーストタウン化している景色を目の当たりにしていないんです。住んでいるところが田舎なこともあって(牧野さんは栃木県在住)、土日の風景が常に続いている感覚で生活しています。“世界が変わった”実感もないですし、リモートになったことを除けば、“日常”が特に変わった印象もありません。延々と家族サービスしなくてはいけない感じですけど(笑)、それはそれで家族に対しての新たな発見があるので、良かったかなと。

リモートワークも意外と慣れてしまえば、できないことはそれほど多くないと感じていますし、何があろうと出社するとか、対面でコミュニケーションを取るとか、良くも悪くも日本の文化として続いてきたことが壊されて、モダナイズされるタイミングにきたんだと思うんです。人に会うことの意味、価値が疎かにならずに、テクノロジーの便利な点、合理性を新たなスタンダードにしていけるといいですよね。この状況をポジティブに捉えるというより、ポジティブにしていく意識が大切な気がしています。

自粛生活をランニングで整える

OYM:ランニングをするうえで、何か心境の変化はありましたか?

牧野:ひとつの大きな変化としては、これまで競技意識を強く持ってランニングを続けてきたんですけど、大会に出場することが絶対的なモチベーションじゃないことに気づいたことですね。これまでは受験勉強のような感覚で「大会まであと2ヶ月だから今追い込まないと」とか考えて、仕方なく追い込んでいたところがありました。

大会が一様に中止になって、一緒にトレーニングする環境も奪われて、高強度トレーニングを全くと言っていいほどしなくなって、むしろ気楽になれました。レースにしろ練習にしろ誰とも競わなくていいと感じて走ることが今は新鮮。インターバルをやらなくていい安堵感を感じています(笑)。

今はただ走ることが楽しい。僕が住んでいるところは走っても人とすれ違うことがほとんどないような地域なので、走ることで周りからストレスを受けることはありませんし、長い距離を走ることが普通になりました。スピードを上げるにしても、今日は調子がいいと思った時に途中でペースをあげたり、インターバルっぽく変化をつけたり、流しを何本か加えたり、その程度。アレンジを加えながら気ままに走っています。今は負荷の高いトレーニングをするのは適切ではない時期。免疫力を落とすことがあってはいけないと思うので、その点はもっとも気をつけています。

生活のバランスを保つために走っている感じですが、“ご飯を食べる”、“お風呂に入る”、と同じ感覚で“走ること”で生活が整う実感があります。例えば家でダラダラ過ごした日でも、走りさえすれば、今日1日ちゃんとした気になれるというように。

以前取材していただいた時には「高強度で追い込むことが喜びになっている」というようなことを話したかと思うんですが、その点も大きな変化ですね。今は追い込んだ練習をしていないので、怪我をすることもありませんし、疲労が残っているといって休むこともありません。毎日走れるコンディションをキープして、毎日走る。自分の足で行ける範囲で走って、帰ってくる。走っているうちに脳も身体もリラックスする感覚が得られるし、今は生活の一部にランニングがある感覚があって、それに満足感を得ています。疲労を溜めずにケガなく毎日走ることを目指していたら、今月はどうやら月間600kmくらいまでいってしまいそうな感じです。

今の生活においてランニングはリフレッシュするためのもの。本当は筋トレとか自宅でできる補強トレーニングも加えた方がいいと思うんですが、まだやる気が起きないので、この土地環境含めて、ランニングを趣味にして続けてきて本当に良かったと感じています(注:取材後日、体幹トレーニングをスタート)。

OYM:今の環境下でランニング以外の楽しみはありますか?

牧野:オンラインの飲み会ですかね。それしかない(笑)。新たな発見でしたが、2つ、3つと飲み会をハシゴできるのが気に入っています。「ちょっと抜けるね」と言って、別の飲み会に参加して、また戻ったり。家族が寝静まった時間にやったりもするのですが、この生活がスタンダードになるような日が来るとしたら、昔であれば書斎が必須だったように、仕事でもプライベートでも使える防音のリモート部屋が求められる日が来るかもしれません。今もしそんな部屋があったら、僕はその部屋から出ないと思います(笑)。

OYM:今後Doスポーツはどのように発展していくと思いますか?

牧野:乙武さんがブログで発信していたのですが、今まで障害者の方たちが切望していたオンライン授業やリモートワークが、このコロナ禍の影響で急速に実現されているそうです。オンラインレッスンをよく目にするようになりましたし、オンラインコーチングも活性化していくと思っています。これからはオンラインでのコミュニケーションビジネスにチャンスが増えてていくのは間違いないのかなと。東京などの都心でしか展開できなかったコミュニケーション、ビジネスが、これからは地方発信で展開されるものもどんどん増えるでしょうし、受ける側として、望んでもできなかった人にとっては、今回のSTAY HOMEによって、その望みが表面化されたのは良いことだなと思います。

OYM:牧野さんもYouTubeを始めましたが、そういった情報を踏まえて企画提案したのですか?

牧野:YouTubeは、この自粛期間にスタッフ発信でなにかできることがないかとビームスがはじめたプロジェクトなんです。
その人選のひとりに挙げてもらって、これもきっかけかなと思って、自分に出来ることで始めてみました。YouTubeが今盛り上がっていることは知っていましたし、かつ、周りの人たちから「シューズレビューなどやってみればいいじゃん」など提案もされていたのですが、個人的に動画投稿はハードルが高いと感じていてチャレンジできずにいたんです。でも、やっぱり何事も食わず嫌いせずにまずはやってみるもんですね。踏み込んでみたら新たな探求心が芽生えてきましたし、もっといろいろやってみたいと思うようになりました。今は動画編集を勉強中です。このビームスのYouTube企画がそうであるように、ビジネス的な狙いは持ち合わせていなく、ぼくが発信するということでランニングの新たなタッチポイントを生み出せればいいなと思っています。

「週に一度、二度、自分に打ち勝った感覚を味わえるってなんかいい」と高強度トレーニングを中心としたトレーニングに明け暮れていた約1年前、『mark』vol.12 取材時のポートレート。Photograph:IORI MATSUDAIRA

ランニングシーンでもオンラインコミュニケーションがひとつの選択肢に

OYM:これからの半年、1年、世界はどう変化していくと見ていますか? 思っていること、希望、考えを教えてください。

牧野:新型コロナウイルスに対して人が何を判断基準に行動を自由にできるかとなると、ワクチンがすぐに手に入る状況、病院ですぐに回復できる状況にならないと、安心して行動はできないと思うんですよね。僕も息子が中学1年に進学したので考えるのですが、入学式だけしてあとは家にいる状態が続いています。9月入学が議論されていますが、もし、できることならこの1年をすっぽりなかったことにしてあげたいですね。春の高校野球やインターハイ、中総体が相次いで中止になっていますし、この1年を“空白”にしてリセットした方が、教育的な観点、学生の進路問題を考えた時に、ひずみを作らずに済むように思うんですが、どんな決断が下されるのか注目しています。

どのスポーツもそうだと思うんですが、ランニングシーンで言えば、今年予定しているマラソン大会の開催はかなり厳しいのではないかと覚悟しています。地元の準エリート枠に入ったので、来年の東京マラソンに照準を合わせたいと思っていますが、来年もまだ新型コロナウイルスの問題は続いているように思います。規模の小さな大会から徐々に解禁されていくとは思うんですが、今年中なのか、来年になってからなのかといったところでしょうか。まだまだ先が読めない段階ですが、今回の新型コロナウイルスの問題は戦争のように人と人との争いではないなかで、世界中それぞれの国でまず団結しようとしているところが不幸中にして幸いというか、心を落ち着かせてくれるいいところだと思うんです。国同士援助しあう事のように。これを機に平和に対して同じ目線で見れる社会が広がればと思います。

OYM:アフターコロナの世界に期待することは?

牧野:長期的な問題だと思うので、個人でできることとして、ランニング人口は増えていくと思います。ランニングエチケットの問題も取り上げられたりしていますが、河川敷ではこれまで以上に走る人が多くなっている話も聞きますし、フィジカル的な健康を第一に考える人が増えたんだと思うんですよね。同時にフィジカルが健康であれば、メンタルも悪い方に向かないと実感した人も多いと思うんです。健康に対する意識改革が世界的に加速していくと思いますし、サステナブルな生き方、社会への関心が、高まっていくように思います。強制的ではあったにせよ、この問題が収束した後も、ランニングやスポーツに取り組んで、健全なメンタルとフィジカルをキープすることにプライオリティを置く人は増えていくと思います。国民全体で“スポーツのある生活”への意識が高まっていくといいですよね。

OYM:この事態収束後一番に何がしたいですか?

牧野:STAY HOMEを続けていて、何か考えが芽生えたかというと実は特に何もなくて。元の生活を取り戻したい。それがまず第一の希望です。コロナ以前、以後では以前は当たり前だったことに対して、感じ方が大きく変化していると思うんです。人と会うこと、対面でコミュニケーションとること、走れること、一緒にトレーニングすること……。リアルな世界のコミュニケーションのありがたみを再認識しています。

それとは別の考えで、バーチャルかリアルか、生き方の選択肢が明確に増えたと思っています。例えば一緒に走った後に飲むか、家にまず帰ってから走って、その後でオンラインで飲むかと。

オンラインなら何軒もハシゴできることも分かって、一日のコミュニケーションの幅が広がりました。今日も走りながらラジオを聞いていたら「そのうちzoom合コンも普通になるのかな」なんて話を耳にしましたし、オンラインで「初めまして」することも割と普通になってきました。バーチャルにはバーチャルの良さがあって、電話に比べれば全然会ってコミュニケーションした“満足感”のような感覚は得られます。顔を見てコミュニケーションを取ることの意味というか、重みに気付きましたし、どこにいても繋がっていると感じられたのは大きな発見です。ランニングに関していえば、これまでの活動範囲は都内近郊でしたが、YouTubeも初めましたし、枠にとらわれないコミュニケーションを取っていきたいなと思っています。

<コーポレートゲームズ>にBEAMS RUN CLUBとして参加した時の集合写真。「早くまたみんなと一緒に走りたいですね」。

牧野英明

1980年生まれ。セレクトショップ、BEAMSのライセンス事業課に席を置く傍ら、ランナーとして、ビームスとランニングに関わるブランド、メディアとをつなぐ役割もこなす。昨年の全日本マスターズ選手権、1500m(M35の部)では 6位入賞を果たす。フルマラソンの自己ベストは2時間49分01秒。

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