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初めてのウルトラマラソンは、本気の腕試し

勝田後の1週間はとにかくリカバリーに徹した。奄美大島でのウルトラマラソンは、勝田の翌週だった。怪我は想像よりもひどく、膝の形がわからないほどに腫れてしまった。皮膚の下で血が溜まって脚が真っ青になった。どうやら骨はやられていないらしい。腫れた膝が曲がらなくて走りにくかったが、フルの筋肉痛はなかった。

1週間後なんて無茶だと思うかもしれないけれど、勝田マラソンの高揚感のままに押し通せたのは良かったのかもしれない。勝田のタイムをSNSに投稿すると、電波を通じて周りがどよめくのを感じた。

「あのエマちゃんが!?」

そうは言わなくともわかる。みんなの反応が面白かった。これで、もし、ウルトラもサブ10したら?脚をさすりながら考える。コーチからの前日のアドバイスはこうだ。

「50kmまではサブ10ペースより若干速い5分45秒で走ってみて、膝の調子が最後まで行けそうであれば同じペースを刻むこと。途中で違和感があれば、即スピードを落として流しで走るか、途中棄権すること」

できるだけ最初からイーブンペースで走りたいと思います、と伝えると、エマちゃんはペースの維持が上手くて人のペースに影響されにくいのでそこは心配ないかな!と励ましてくれた。

AMAMI HANAHANA ULTRA RUNは第一回開催の小規模大会で、出走選手は多くないが300km、400kmといった超長距離を走るコミュニティの方々による主催・運営で、見るからに強そうでシシャモみたいなふくらはぎのランナーが揃っていた。

早朝の暗闇のなか、なんとなくの号砲でスタートを切り、わたしの初ウルトラが始まった。当たり前だけど、みんなめちゃくちゃ速い。わたしだって最初からセーブしたりなんかしない。行けるだけ行く。潰れたら潰れたでいいじゃないか。腕試しという位置づけをいいことに、やるだけやっちゃえ!という清々しい気持ちだった。時計を見ると4’30”/kmだ。速すぎるよなぁ、と思いながら走っているうちに道標を見失ってしまった。気付いた頃には1km以上ロストをしていて、慌ててコースに戻り最後尾近くから再び前を目指す。折り返しのあるコースの一部でトップとすれ違った。前から順番に数えていく。わたしは16.5km地点で14番目だった。そのなかに1人女性がいた。

この女性の名前には見覚えがあった。ロードだけでなくトレイルランニングでも優勝する強者だ。自分なりに良いペースで走っているつもりだったけれど、何時間走っても彼女になかなか追いつかなかった。その姿を捉えたのは50kmあたりだ。お腹を下してトイレに急いでいたわたしは、一気に加速して彼女をより先にエイドに着いてトイレに駆け込んだ。トイレから出ると、彼女はエイドを出発するところだった。

「アッ、抜かれた!」

コーラを一杯、一気飲みして慌てて後を追う。数km先で追いついて、思い切って前に出た。こんな状況まさかだけど、1位か2位かだったら、1位がいい。トップ争いの経験なんてないから計画性はこれっぽっちもない。

そこから5時間近く、一度も後ろを振り返らなかった。ウルトラなのに標高300mの急こう配の山があった。転がったほうが速そうな激下りもあった。ジリジリ追い詰められる長い坂もあった。道がわからなくなって、手当たり次第声をかけて道を尋ねたりもした。それでもエイド以外は一度も走るのを止めなかった。残り数キロ、いよいよ10時間を切れそうだった。最初のロストが響いて、サブ10ペースよりも遥かに速いスピードで走ってきたのにもうあとわずかしか時間がない。フィニッシュテープを切るまで、執念で走り抜けた。

やった!ガッツポーズをしたら背中が攣り、そのまま足から崩れ落ちて全身が硬直して30分動けなかった。これか、これが全力ってやつか。やっと“オールアウト”できた瞬間だった。寝そべってスマホで報告をする。コーチが喜んでくれて、心から嬉しかった。

AMAMI HANAHANA ULTRA RUN
9時間52分40秒
ソロの部 女子優勝

数字は偉大!でも確からしさは自分次第

数字に基づいたトレーニングは偉大だ。これで本当に合っているのか?速くなれるのか?と疑問に思いながらも練習していたが、いつのまにか走力が上がっていた。わけもわからないままに、コーチの言うことをただただ信じて練習しただけだ。自分が決めつけてきたマイルールはさっぱり捨てて、コーチを信じてリミッターを外した。

一体どれくらいの友人が、わたしがたった3週間でフルマラソン3時間10分、初ウルトラでサブ10できると予想できただろう。この結果にコーチも驚いていた。ランニングのセオリーに基づいてコーチングが行われ、数字で分析されているはずなのに、『計算外』のことが起きたのかもしれない。わたしは、高校の数学で出てきた『確からしさ』という言葉にずっと違和感があった。確か、なのに、らしいとはどういうことだ。統計学とか小難しいことはよくわからないけれど、確率はあくまで確率だ。

フルマラソンを何度も走ったことがあっても、ウルトラマラソンへの挑戦は辛いと人々は言う。サブ3ランナーでもウルトラサブ10できない人がいるという。でもわたしにとって、マララソンやウルトラマラソンは、山に比べればキツい登りも苦手な下りもない。100kmに比べれば42kmはめちゃくちゃ短い。たった数時間と少し頑張れば温泉に入ってビールをたらふく飲める。フルマラソンもウルトラマラソンも「あっという間!」だった。

わたしはどうやら、距離と時間の目盛が人よりもちょっと変わっていることが、圧倒的な強みらしかった。まだ走力がついていないはずのわたし。メンタルがフィジカルを凌駕したのかもしれない。

コーチングを受けるようになり、曖昧だった知識を深めたい!勉強したい!という気持ちがふつふつと沸き、本を読み漁るなかで改めて「Daniels’RUNNING Formula(ダニエルズのランニング・フォーミュラ)」(第三版)を手にした。その冒頭にこんな記述がある。

「私は常々、ものごとに成功するための基本的な要素として4つのことを挙げてきたが、ランナーとしての成功も、この4つの要素にかかっている。この4つを重要な順に挙げると、先天的な能力、意欲、チャンス、指針である。(中略)2番目に挙げた意欲とは、競技において何かを追い求める情熱のことである。この意欲という要素が欠けていると、どんなに才能に溢れていても本来の潜在能力を発揮することはできない」。

わたしには先天的な能力はないかもしれない。でも、「チャンス」は全力でモノにしたいという猛烈な「意欲」に「指針」が掛け合わされた時、何が起こるのか。

「できるわけがない」

たとえそれが100%の確からしさであっても、結果どうなるかなんて誰にもわからない。まだまだやれることはありそうだ。

中島英摩

中島英摩

京都府生まれ、東京都在住。登山やトレイルランニングの取材・執筆をメインとするアウトドアライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通うほどのこよなく山を愛する。トレイルランニングではUTMBやUTMF、トルデジアンなどのメジャーレースでの完走経験を持つ。昨年11月、つくばマラソンを3時間27分40秒で完走、今年1月の勝田全国マラソンで3時間10分27秒に大幅更新。翌週奄美大島で行われた100kmレース「奄美ハナハナウルトララン」で優勝するなど、目下絶好調。

【本当はかけっこが速いあの子になりたかった】
episode 1 スピードへの挑戦

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