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近年スポーツ界、トレーニング業界で話題になっているエキセントリックトレーニング。「上げる」のではなく「下ろす」ことで鍛える筋力トレーニング法は、従来の常識を180度変える最新のメソッドだ。

エキセントリックトレーニングをご存知だろうか? これは、従来の筋力トレーニングの常識を覆す新しいトレーニング方法だ。3月9日に発売の「ラクなのに効果的! 筋トレ革命 エキセントリックトレーニングの教科書」を監修したストレングス&コンディショニングスペシャリストの坂詰真二さんに、その概要と効用そして自宅でもできるトレーニングについて聞いた。

「下ろす」ことで鍛えるエキセントリック

OYM:従来型の持ち上げる筋力トレーニングはコンセントリック、対して下ろしていくトレーニングがエキセントリックと聞きました。詳しく教えてください。

坂詰「例えば、10kgのダンベルを持ち上げるには10kgより大きな力を筋肉が発揮しないといけませんがその時に筋肉は縮みますよね。これがコンセントリックな筋収縮(以下コンセントリック)です。同じダンベルをゆっくり下ろす時には、筋肉は10kgよりも小さな力を発揮しています。力を発揮しつつも伸ばされていく、これがエキセントリックな収縮(以下エキセントリック)ということです。つまり、重力に逆らって身体や重りを持ち上げるときがコンセントリック、下ろしていくときがエキセントリックです。わかりやすいところで言えば、大胸筋を鍛えるベンチプレスでバーベル上に持ち上げるときがコンセントリックで、バーベルを胸に向けて下ろすときはエキセントリックとなります」

OYM:コンセントリック/エキセントリックがもう少しイメージしやすい運動はありますか?

坂詰「日常生活の運動を例にしましょう。階段を上る時は自分の身体を重力に逆らって持ち上げますからコンセントリックです。主に大腿四頭筋という前ももの筋肉、これが縮みながら膝を伸ばすことで、重力に逆らって体を上げてくわけですね。

じゃあ、階段の下りはどうかというと、重力に任せて落ちるのではなく大腿四頭筋が今度は伸びながら適度な力を出してブレーキを掛けるんです。それがエキセントリック。だからコンセントリックっていうのは簡単に言えば持ち上げてく移動していく、あるいは加速していくアクセルの働きであって、対してエキセントリックは重力に逆らってスピードダウンしていくブレーキの働き、ということになります」

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心理的・肉体的に負担の少ないエキセントリック

OYM:エキセントリックトレーニングのメリットはなんでしょうか?

坂詰「コンセントリックと比べてエキセントリックの方が心理的にも肉体的にも負担が少なく、それでいて運動効果が高いところです。階段を上るのと、下るのとでは人は普通下る方を選びますよね?経験的に上るコンセントリックの方がエキセントリックより、肉体的にも精神的にも辛いことが分かっているからです。そしてもう一つ重要なことは、エキセントリックの方がコンセントリックよりおよそ1.5倍ほど大きな力が出るんです。100kgのバーベルを持ち上げられる人は、150kgのバーベルに耐えてゆっくり下ろすことができるということです。筋肉に大きな負荷をかけられるということは、それだけ効果が高くなるということです」

OYM:エキセントリックの方が効果が高いのはなぜですか?

坂詰「本の監修も務められた野坂和則教授の研究にもあるのですが、Aグループにはコンセントリック、Bグループにはエキセントリックだけのトレーニングをしてもらうと、Bグループの方が筋力が上がり、筋肉が明らかにつきやすいという結果が出ています。これは分子科学の領域になりますが、筋肉が分泌する『マイオカイン』という物質がエキセントリックな刺激によってより多く発生すると考えられていて、そのメカニズムが野坂教授によってほぼ解明されつつある段階です」

エキセントリックだけでいい

OYM:2018年ごろに日本に紹介された新しいトレーニングということですが、すでにスポーツ分野でも用いられているのでしょうか?

坂詰「野坂教授のいらっしゃるオーストラリアでは、スポーツ分野に限らず、アンチエイジング、ボディメイク、リハビリの領域でも少しずつ広まっています。野坂教授のデータでは、エキセントリックトレーニングを採り入れたラグビーのあるトップチームで選手の怪我が大幅に減り、パフォーマンスも格段に上がったという実例もあります。ただし日本ではまだ研究者の間で少しずつ浸透しつつあるところで、現場レベルではほとんど知られていないのが実情です」

OYM:コンセントリックとエキセントリックはトレーニングにおいて混ぜない方がいいのでしょうか?

坂詰「エキセントリックだけの方が良いと証明されています。それはコンセントリックが疲労の要因になってエキセントリックで発揮できる力を邪魔してしまうからです。ですから筋力トレーニングではコンセントリックをいかにゼロ化するかが大事です。分かりやすい例を挙げるとパーソナルトレーナーが重りを持ち上げてコンセントリックをなくし、自分でエキセントリックだけを行えば、それが可能です。しかし、自重でもマシンやバーベルを使っても、一人でやるときにはそうはいきません。そこで、コンセントリックを可能な限りゼロ化する様々なテクニックを今回の書籍では紹介しています」

次ページでは、「筋トレ革命 エキセントリックトレーニングの教科書」より自宅で1人でできるトレーニングを坂詰さんに紹介していただく。新しいトレーニングを日々の生活に採り入れてみよう!

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坂詰真二

坂詰真二

NSCA 認定ストレングス&コンディショニング・スペシャリスト。同協会認定パーソナルトレーナー。「スポーツ&サイエンス」代表。横浜市立大学文理学部卒。株式会社ピープル(現コナミスポーツ)でディレクター、教育担当を歴任後、株式会社スポーツプログラムスにて実業団などのチーム、個人選手へのコンディショニング指導を担当。アスリート指導、指導者育成、メディアを通じての運動指導などで活躍中。『やってはいけない筋トレ』(青春出版社)、『世界一やせるスクワット』(日本文芸社)など著書多数。


「ラクなのに効果的! 筋トレ革命 エキセントリックトレーニングの教科書」
本記事にてエキセントリックトレーニングを解説してくださった坂詰さんが、恩師の野坂和則教授と監修を手がけた一冊。革命的とも言われるエキセントリックトレーニングの最新の理論と効果をさまざまな研究結果を示しながら明らかにしつつ、実際のトレーニングのメニューや具体的な方法を写真を用いて解説する。最短で最大の効果が得られる、最新の筋トレ「エキセントリックトレーニング」の教科書。

監修:野坂和則  坂詰真二
本体価格:1500円
2020年3月9日発売
「ラクなのに効果的! 筋トレ革命 エキセントリックトレーニングの教科書」(新星出版社)