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“人ありき”で、ものづくり“Human centric science”を追求する場所〈ISS〉

正面エントランスをくぐると、旧国立競技場で使われていたタータンと観客席が目に飛び込んでくる。続く回廊には社名の由来となったラテン語の言葉「Anima Sana In Corpore Sano(訳:「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ)」を表現したアートワーク『その時から始まった』と『SOUL BLUE』がある。高めに設計された天井の窓から差し込む光が、時間帯によってガラリと表情を変える。多様な文化圏のユーザーへ向け、様々なアプローチで展開を続けるアシックスらしさが垣間見える。この空間から先がISSの研究機関だ。研究機関は5つのセクション、

・運動時の身体の“変形”や“負荷”を分析する人間特性に関する研究材料に関する研究

・シューズを進化させるため、ソールやパーツで使用する素材の材料配合から行う材料に関する研究

・人間特性の研究で得た結果をもとに。コンピューターシミュレーションによって設計し、実験による評価・検証をする構造に関する研究

・シューズやウエア、用具類に使用する材料や製品の品質維持・向上をはかるための基準値の設定や新たな評価方法の研究をする分析評価試験手法に関する研究

・成形方法を研究するとともに、研究所で開発された材料を量産化するための生産工場への技術指導を行う生産技術に関する研究

に分かれている。

(上)旧国立競技場のタータンと観客席。アーカイブを大切にするアシックスの力を感じるスペース。(中・下)Anima Sana In Corpore Sanoの頭文字を取ってつけられたブランドネームでありカンパニーネーム。そのメッセージを表現した回廊スペースのアートワークは北山義夫さん(『その時から始まった』)と、福嶋敬恭さん(『SOUL BLUE』)によるもの。

まず案内されたのは、人間特性に関する研究をする部屋。特殊なカメラを使ったモーションキャプチャーシステムにより、身体の動きの情報を取る。人間の身体の構造をより理解するための部屋という表現が適切かもしれない。どういうことをするかというと、被験者の全身、関節位置、シューズの足先まで直径1cmほどのリフレクターボールをマーキングし、その競技の動きをしてもらう。マーカーの位置をカメラが読み取り、その座標値の関係性から、ランニングであればプロネーションの角度や腕振りの速度など、細かい数値情報を収集し、プロダクトの作成、アップデートに生かすというわけだ。施設を案内してくれた石川泰葉さんは、こう解説する。


「物づくりをする上で私たちが一番初めにやることが動作分析です。人がどう動いているのか、それぞれのスポーツ特有の動きを理解し、また着用する人にとってどういった機能がプロダクトに必要なのか、一度しっかり把握してから物づくりに入ります。それは創業者の鬼塚がタコの吸盤に着想を得て『吸着盤型バスケットボールシューズ』を開発したときの考え方、「Human centric science」(人間を軸に科学する)と同じ。今はテクノロジーも進んでこうした設備を持ち合わせています。技術を最大限に生かしながら、科学的に、人間の特性をしっかり把握する事が、我々の研究の第一歩。ここで得た情報を分析し、物づくりに反映していきます」。

(上)(中)まずはじめに行われる動作分析。約12~20台のカメラで身体がどのように動くのか、
床に埋めたセンサーでどれくらい地面から衝撃を受けるかなどを測定する。(下)関節を中心に身体全体、特に足(シューズ)には細かくマーキングし、データを取る。

続いて案内されたのは分析や評価試験手法に関する研究を行うラボのひとつである人工気象室。室内は温度(-30度から85度)、湿度(30%から95%)の設定が可能で、例えばオリンピックが行われる場所、その時期の温度、湿度に設定することができ、実際にレースと同じペースで1時間走った場合、どれだけの汗をかくのか、またどの部分が熱をもちやすいかの計測をする。その逆も然りで、例えば低温環境下の場合、30分動かなかった場合、どれだけ体温が下がるのか、体温を下げないような素材の開発、評価をするのがこの部屋となる。

材料に関する研究、構造に関する研究、生産技術に関する研究の部屋に関しては機密事項の関係上、入室NGまたは撮影NGのため詳細な内容は控えるが、いずれの研究機関も“人ありき”でものづくりを進めていることが見えてきた。人がどう感じ、どうすれば心地よくスポーツを楽しめるか、その追求、研究がなされている。それがアシックスのものづくりの精神。施設をすべて案内してもらったあと、原野さんに話を伺うと、“エナジーセービングファミリー”が生まれたストーリーを交えながら、ISSのミッション、その本質を教えてくれた。

(中上・中下)分析評価試験手法に関する研究の部屋には熱を持たせることができる特殊なマネキンも。体感温度とプロダクトの品質の関係性を研究している。(上)(下)材料の研究を行う部屋はやはり撮影NGだが、室外でαGELやFlyteformに使われるマテリアルを手にとって確認することができる。

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“エナジーセービング”シューズ〈METARIDE〉