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インドアトレーニングのトレンドが来ている。サイクリングの分野で世界中にユーザーを増やしているZwift(ズイフト)は、その先鋒と言えるだろう。退屈なインドアトレーニングを、ソーシャルの力でコミュニティへと変貌させたしたそのパワーは、サイクリングのあり方すらをも拡張するものだ。来日したエリック・ミンCEOへのインタビューを通じ、Zwiftの描くトレーニングシーンの未来に迫る。

Zwiftは2014年にローンチしたインドアサイクリングのトレーニングプラットフォーム。Zwift内のバーチャルコースを、スマートローラーにセットした自身のバイクで走行することができる。坂道などの勾配に応じ、ペダリングの負荷が変わるだけでなく、ソーシャルネットワーク機能により参加者間でのコミュニケーションが可能。2020年現在、ログインしてコースに入れば、世界中のサイクリストがすでにコースを走っているという状態だ。

自身のバイクとスマートローラー、そしてオンラインのディスプレイがあればZwiftを始められる

実際の都市から架空の島まで、多種多様なコースを走ることができるだけでなく、Zwift内で生成されるトレーニングプログラムの実践、レースへの参加や、有名プロ選手とのグループライド、あるいは地理的に離れた知人とのサイクリングなどその楽しみ方は様々。

Zwiftアカデミーと呼ばれるトライアウトに合格すればプロチームとの契約が得られるというイベントもあり、いまやZwiftは単なる個人のサイクリングに止まらず、自転車産業に大きな影響を及ぼすプラットフォーマーにまで成長している。来日したCEOのエリック・ミン氏は、Zwiftの共同創設者でもある。

Zwift CEO エリック・ミン氏

Zwiftは『ソーシャルスポーツネットワーク』

OYM:まずは、Zwiftのミッションについて教えてください

エリック 「私たちのミッションは実にシンプルで、『多くの人たちをアクティブにさせる』ことだね」

OYM:なぜそのミッションを掲げるようになったのですか?

エリック 「私の個人的な問題に起因するんだけど、かつて住んでいた大都市ではサイクリングするのに時間や安全性の面で不便だった。もっとアクティブでいるために、どうしたらいいんだろう、というのが始まり。もともとトレーニングとしてインドアのサイクリングはしていたけど、これを1年中やるなら何が必要だろうと考えたんだ。そこで思い至ったのは、ソーシャルであること。チームメイトや友人と一緒にできたら面白いんじゃないか、ってね」

OYM:エリックさん自身はどんなスポーツをされてきたのですか?

エリック 「テニス、スピードスケート、ホッケー……でもサイクリングが一番自分に合っていた。13歳のときに、ニューヨークで競技としてのサイクリングを始め、ジュニア時代(18歳以下)を通じて競技に打ち込んだよ」

zwift

OYM:サイクリングはエリックさんにとって重要なものでありつづけているんですね。

エリック 「若い頃にレースをしたこと、そしてそのためにアメリカ中を旅したことは、今日の私の大部分を形作っていると思う。これは『ソーシャル』の話につながっていくんだけど、私が子どもの頃にレースをしていた仲間とは、いまだに繋がりがあるんだ。みんなまだサイクリストだし、みんなZwiftにいるんだよ! Zwiftが、かつて近かった友人やコミュニティの再会のツールになっていることは面白いよね。Zwiftはソーシャルネットワークとして、様々な可能性を秘めている」

Zwift CMOのスティーブ・ベケット氏

スティーブ 「社会人として年齢を重ねていくと、生活の中で仕事や家族の比重が大きくなり自分のための時間を作るのは難しくなっていく。また若い人はスマホやソーシャルゲームに時間を費やして運動時間は減っている。そんな中で、Zwiftは『ソーシャルスポーツネットワーク』として機能しているという面がある」

OYM:Zwiftはゲーミング、いわゆるEスポーツなのか、とはいえ求められる肉体的なエンデュランス能力はサイクリングスポーツのそれであるわけで、ピュアスポーツなのか、どんな文脈で語るべきか難しいと感じます。

エリック 「インドアサイクリング、つまりは『家でできるフィットネス』がひとつのジャンルになっているという、大きなトレンドの始まりを今感じている。サイクリングという伝統的なスポーツとソーシャルテクノロジーとの間に違和感を覚える向きもあると思うが、Eスポーツの文脈に乗ることでこれは払拭されると思っている。

これはより長い時間がかかる戦略の話だけど、今日アクティブではない子ども達に、もっと運動をしてもらうのに、Zwiftの環境を活かしてもらえると考えている。ゲームに夢中だからと言って、子どもからゲームを取り上げるべきではないと思う。それは彼らの遊び場を奪うひどい行為だ。ゲームは彼らにとって友達と繋がる方法なのだから」


Pelotonや他のインドアトレーニングとの違い

OYM:ゲーム的な捉え方を入り口に、フィットネスを楽しめるのではないかということですね。若い世代にとっては、こうして体を動かし始めるのも決して不自然ではないと感じます。インドアトレーニングということだと、Pelotonもまた人気を集めていますが、こうしたインドアトレーニングのトレンドをどうお考えでしょうか?

Peloton…スピンバイクを購入し、オンライン・ストリーミングでのトレーニングセッションを受けられるサブスクリプションサービス。ライブクラスなどでは、参加者の擬似レースなども設定され、Zwiftとの類似点も少なくない。

エリック 「PelotonはZwiftの2年前に始まったサービスで、インドアでのサイクリングという点では共通するが、ZwiftにあってPelotonにないものは、インドアフィットネスをさらに推し進める『コンテンツ』だ。私たちは“単なるトレーニング”の先を目指している。トレーニングは確かに重要なメッセージであり注目すべきアクティビティだが、私たちがより注力しているのは『人々を繋げる』こと。

Zwiftにログインした瞬間、そこに人生が立ち上がるんだ。周りにはたくさんの人々がいる。多くの人がZwiftにまたログインする理由はここにあると思う」

世界中の「今走っているライダー」が表示される

OYM:Pelotonは競合ではないということですね?

エリック 「人々にもっと運動をしてもらう、という意味では同じ方向性を持っているが競合ではない。Pelotonはユーザー個々人のために高度にキュレーションされたプログラムでエクササイズする。いわば、Pelotonという大きなひとつの大きなコミュニティにひとつのアイデンティティとして属するわけだね。Zwiftの場合は、このコミュニティの数がそれこそ星の数ほどあり、あなたのアイデンティティはそれに応じて無数に変化する。コミュニティ、トレーニング、レース、あるいはレース観戦……Zwiftはどんな風にも楽しむことができる。

この春にローンチ予定のクラブ機能はその中でもキーとなると考えている。UIを向上し、ユーザーにとっての利便性をより上げていくことで、コミュニティへの帰属意識も高まっていくと思う」

OYM:エリックさんのソーシャルネットワークのバックグラウンドを教えてください。

「開発者などでもなく、ただの1ユーザーだった。でもStravaも出始めにすぐ登録したし、直感的にソーシャルの持つポテンシャルを感じていたと思う。今では、Zwiftユーザーの大半がStravaを使用しているし、ZwiftはコンテンツをStravaに提供するなど、いい関係を築いている」

Zwift CEO エリック・ミン氏

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