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柔軟性、バランス能力、身体のコントロール能力などを簡単に計測できる『大人の体力測定』は、継続的に読まれているonyourmarkの人気コンテンツの1つ。その監修者は清水忍さん。トレーニングジム「IPF」のヘッドトレーナーであり、西武ライオンズや広島東洋カープをはじめとするプロ野球選手のパーソナルトレーナーも務める清水さんに、自分の体の状態を知ることの大切さ、トレーニングの重要性を改めて伺った。

自分の想像以上に体力は低下するもの

社会人になり、仕事に追われる多忙な日々を送っていると、どうしても運動をする機会が減ってしまう。するといつの間にか、自分がどれぐらいのことができて、どれぐらいのことができないのか。体の状態が把握できなくなる。

「実は僕も20代のときに1年半ほどトレーニング業界を離れていたことがあって。まったく運動をしない生活を送っていた時期があったんです。あるとき海にあるテトラポットにポンっと跳び乗ろうとしたら、目標としていた地点の半分までしか跳べなくて落っこちてしまったんですね。自分でも驚きましたよ。人間の体は運動をしていないと想像以上に機能が低下してしまうんです」

自分の持つイメージと、体の能力のギャップは思わぬ事故やケガに繋がる。子どもの運動会でリレーを走ってアキレス腱を断裂、駅の階段を一段飛ばしで上ろうとして転倒、久しぶりの草サッカーでシュートをしたときに肉離れ。こういったケガは、体の状態を把握できないからこそ起きるものだろう。

定期的に運動をしているから大丈夫、と思っている方も油断は禁物。清水さんによれば、草野球や草サッカーなどのスポーツを楽しんでいる人も体力は衰えている場合が多いのだそう。

「まず頻度の問題があります。草野球や草サッカーを週に3回プレーしているという人は少ないでしょう。月に1〜2回程度ゲームをするだけでは、体力の維持は難しい。それから学生時代に真剣に取り組んでいた人ほど、30代、40代になると、少ない労力でムダなくプレーするようになる傾向があるんです。全力疾走をしなくなったり、走る距離が少なくなったり。一方で技術は洗煉されて体への負荷が小さくなっていれば、トレーニング効果はあまり見込めません」

「ウォーキングはある意味体に悪い運動です」

私は毎日ウォーキングをしているから、運動頻度は問題ないはずと思う人もいるかもしれない。しかし、そこにも落とし穴がある。「ウォーキングはある意味体に悪い運動です」と、清水さんから気になる発言が飛び出した。

「少々極端な言い方ではあるんですが、ウォーキングが体にとってマイナスになっている場合もあるということを知って頂けたらと思います。

まず、ウォーキングをしているから『私は運動している』と思っていても、実はウォーキングの消費カロリーは30分で160kcal程度なので、期待しているほど多くカロリー消費はできていません。逆に食事制限ができていないとカロリー摂取の方が多くて太る人さえいます。歩いた後のご褒美にスウィーツを食べたり、ウォーキング後のビールが美味いんだとお酒を飲んでいれば、すぐに消費カロリーよりも摂取カロリーが多くなります。

それから、運動して筋肉を使った後にはストレッチをしないと筋肉が硬くなってしまい、血行が悪くなって逆に疲れやすくなったりします。ウォーキングでは沢山筋肉を使っているのに、ウォーキング後にストレッチをする人が意外に少なく、結果として筋肉が硬くなってしまっている人が多いのです。

ウォーキングをすると、大腿四頭筋やハムストリングス、小腰筋、肩甲骨周辺の筋肉を使うことになりますが、終わった後に入念にストレッチをする人がいるでしょうか。ランニング後にストレッチをする人は多いですが、ウォーキング後だとあまり見かけません。

ということはウォーキングをして、ストレッチを十分にしていない人は、必要な柔軟性が失われている可能性が高いのです」

何かしらの運動をしているであろう、または興味を持っているだろう読者のみなさん。現状の自分の体を客観的に把握するためにも、いま一度、『大人の体力測定』に挑戦してみてはいかがだろうか。

#01 ハムストリングスの柔軟性
#02 上半身のバランスを司る広背筋の重要性
#03 身体のコントロール能力を確かめよう
#04 パフォーマンス向上&肩こり解消にも!肩周りの柔軟性
#05 体力低下は脚筋力低下から始まる
#06 姿勢の維持に大きな役目を果たす腹筋力の測定
#07 憧れの開脚!横開脚の柔軟性
#08 人は常に姿勢が崩れてる?バランスと調整力
#09 その場足踏みで、骨盤のねじれを自覚しよう
#10 体幹を鍛えるだけでは意味がない?体幹連動性の測定
#11 ここが硬い人は要注意!前ももの柔軟性
#12 スポーツしている人ほど硬くなる? 股関節外旋の柔軟性
#13 イチロー選手への第一歩!? 股関節内旋の柔軟性

負荷不足はトレーニングにあらず

継続的にトレーニングを行なっている、今年一念発起してトレーニングを再開したという人も、改めてトレーニングの定義を確認しておきたい。

「トレーニングの定義というのは、ずばり身体適応です。たとえば寒い地域に住んでその寒さに慣れたというのは、寒冷地トレーニング。標高の高い場所に住んで、酸素濃度の薄さに慣れる、適応するというのは高地トレーニング。重くて持ち上げられなかった50kgのバーベルが持ち上げられるようになる、これがウェイトトレーニング。刺激、あるいは負荷に対して体を適応させるのがトレーニングなのです」

だからこそ大切になるのが負荷の設定。

「体が適応していないものに適応させるのがトレーニングですから、すでに適応しているものをこなしてもそれはトレーニングではないんです。10回しか上がらないウェイトを11回上げようとするのがトレーニング。10回上げられるウェイトを3回しか上げなければ、それはトレーニングではないですし、運動としてもレベルが低いものになってしまいます」

過去の自分と比べて身体能力の衰えを感じて始めたトレーニングが、現状維持にもなっていないなんて、これほどもったいないことはない。

「トレーニングを始めるきっかけとして、負荷の低い運動をするのは素晴らしいことです。“始める”というのは最も大変で、高いハードルですから、最初はやり方が間違っていたっていいんです。

まずはスタートを切ること。負荷の話はその後で良いのですが、継続をしているのに効果が出ないという人は、見直す必要があると思います。普段パソコンや書類が入った重たいバッグを持って仕事をしている人が、500㎖の水の入ったペットボトルをダンベル代わりにしたら明らかに負荷が足りません。フィットネスジムのマシンをおしゃべりしながら延々と繰り返しているようなら、それも負荷不足です」

人生は100年時代に突入すると言われている。トレーニングは、アスリートなどの特別な人がすることではなく、誰しもがライフスタイルの一部として長く取り組むべきものだと清水さんは言う。

「できるだけ長く自立して生きていくためにも、最低限の体力維持は大切ですよね。トレーニングをすれば、年をとったって筋肉量は増えるわけですから、年齢は言い訳にできません。先日、プロ野球選手の自主トレをサポートするためにアメリカを訪れたのですが、どうみても60歳以上の方たちがジムで大きなタイヤをひっくり返したり、ハンマーで叩いている光景をたくさん見ました。その姿はカッコ良かったですし、そうありたいですよね」

清水 忍

1967年、群馬県生まれ。多くの現役アスリートが通うトレーニングジム「IPF」のヘッドトレーナーであり、運営組織「INSTRUCTIONS」の代表。全米スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/E-PC)、NESTA JAPANエリアマネージャー。健保組合の糖尿病対策セミナーの指導者、スポーツ・医療系専門学校の非常勤講師としても活動している。