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ロードレースの速度域に調整した生地スピードセンサー®Ⅱ

表面に格子状の加工が施された生地。肌当たりも柔らかく、伸び感は適度だ。これこそが、パールイズミが2020年の東京を見据えて新たに開発した生地、スピードセンサー®Ⅱだ。

パールイズミが2020年のために開発したスピードセンサー®Ⅱ

2というからには、1もある。初代スピードセンサー®もまた、オリンピックに照準を合わせて開発された素材だった。

佐藤 「初代のスピードセンサー®は、アテネオリンピックのトラックレースのために作った素材です。それを今回、ロードレースのために最適化したのが、スピードセンサー®Ⅱです」

短時間・高強度の種目が多いトラックレースでは、レース速度も70km/hと高速域のものになる。一方で公道を長時間走るロードレースでは、40〜50km/hでの走行時間が圧倒的に長い。

佐藤 「ロードレースの特性に合わせて、35〜40km/hのときに空気抵抗が減り、50km/hで大幅に減らせるものを開発したわけです。空気抵抗とは、簡略すると、物体が受けた空気の流れがどこで物体から剥離するかに左右されます。極論としては空気の流れが物体の一番後ろで離れるのが、空気抵抗がゼロに近い状態、ということになります。なので、この離れる場所を生地表面の質感や溝などで調節して、特定の速度域のときに空気抵抗を低減するような生地のあり方を探っていったのです」

二の腕に見立てた部位の空気の流れ。左がスピードセンサー®Ⅱ、右は比較生地

佐藤 「これは上腕部にかかる空気抵抗を図示したもので、スピードセンサー®Ⅱ(左)では0.7ニュートンの空気抵抗低減を計測しました。だいたい、大きめの卵一つ分の重さに相当する力です。右から空気が流れていますが、比較生地では、早めに空気が剥離しているのがわかると思います。濃い青の部分は乱流ですが、これが空気抵抗ということです」

こうして生み出された生地だが、次なる課題は、ジャージのどこにこの生地を配置すれば空気抵抗を最も効率よく低減できるか探ることだ。ジャージを全てこの生地で作ればいいというわけでない。その計測にあたって実際のライディングフォームの再現が必須となるが、パールイズミはそこに動的な、大がかりなテクノロジーを導入する。

驚異のペダリングロボット

空気抵抗の計測には、JAXAにある5.5m×6.5mの巨大な風洞実験室が用いられた。通常ならばジャージを着せたマネキンを試験用に設置するが、パールイズミはこのマネキンにペダリング機能を搭載する。常にペダリングを続けるロードレースにおいて、ペダリングの動きも考慮した上での空気抵抗低減を追求しているのだ。

JAXAの風洞実験室でのテスト。ジャージを着たマネキンはペダリング動作も行なっている。

佐藤 「風洞実験はクルマや尾翼といった、硬質で静止したもので行うのが常ということで、サイクリングウェア、しかも動きのあるものは、JAXAでも初めてのケースだということでした」

人間でなくロボットにしているのも、人力のペダリングで生じる誤差を排するためと徹底している。そうして検証された配置によって生み出されたジャージを、今度は選手に使用してもらい、そのフィードバックを再び開発に落とし込む。東京での五輪を見据え、この繰り返しを行ってきた佐藤氏は、「この3・4年、ライフワークのように取り組んでいます」とはにかむ。

日本代表ウェアのビブショーツに搭載されるスピードセンサー®Ⅱ。使用する箇所も、風洞実験が導き出したもの。

ほぼ完成形に至ったというスピードセンサー®Ⅱを搭載した日本代表ジャージ。北京五輪のモデルと比較すると、ロード競技想定の50km/hで約0.6ニュートンの抵抗減、ゴールスプリント想定の70km/hでは、約1.1ニュートンを低減するという。これは机上の計算だが、トラック競技の4000m個人パーシュートに当てはめると、0.6ニュートン減はおよそ240秒のレースにおいて4.5秒ほどの短縮になるという。

いよいよオリンピックイヤーとなった2020年。創業70年を迎えるパールイズミだが、東京での五輪を同社製のウェアが走るのは初めてとなる。スピードセンサー®Ⅱはすでに日本代表ジャージに採用されており、気候や選手の好みに応じて多少の変更は加えられるが、この夏の東京を走ることになる。ロード競技に加え、パラサイクリングの代表選手が身に纏い、戦いに臨む。

日本代表選手が着用するジャパンナショナルジャージ。

佐藤 「やっぱり、選手が着ているところを見て欲しいですね。ウェアの細部や素材云々〜ということよりも、主役は選手ですから。代表ジャージを着て晴れの日を走る選手を、ぜひ応援してください」

チケットがなくても沿道から観戦ができる自転車ロードレース。パールイズミのテクノロジーが詰め込まれたウェアに身を包んで、世界最高峰のレースに臨む日本代表選手にエールを送りたい。

自転車ロードレースは2020年7月25日に男子ロードレース、7月25日に女子ロードレース、7月29日に男女個人タイムトライアルが開催される。パラ競技ロードレースは、9月1日に男女個人タイムトライアルが、9月2〜4日にかけてロードレース各競技が行われる。