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前回までのあらすじ》
体重の増加に抗うべく、筋トレに励むようになった。自己流で筋トレをしていたが、ある日マッチョの佐竹さんと出会う。佐竹さんのトレーンングスタイルを取り入れた途端、僕は筋トレの楽しさに目覚めたのだった。

これまでの記事
ギブ・ミー・マッスル EPISODE01 マッチョのおじさんに筋肉の意味を問われた
ギブ・ミー・マッスル EPISODE02 マッチョのおじさんが僕のメンターになった

筋肉痛さえ心地よい、僕は違う筋トレ次元に突入した

佐竹さんから姿勢や負荷のアドバイスをもらった翌日、ひどい筋肉痛に襲われた。しかし、気分は良かった。筋肉痛は運動によって傷ついた筋線維を修復しようとする症状だ。つまり、新しい筋肉が目覚めているってことだ。こんにちは、俺の筋肉。人は意識の違いで、苦しみさえ快楽になるのだ。変態と紙一重である。

週一度程度だったジム通いも二度ほど通うようになった。筋トレはやればやるほどいいわけではなく、回復する時間も大切だ(知ったようなことを書いているが、『mark』の受け売り)。なかには睡眠さえも「眠トレ」と呼び、酒などを断ってより筋肉に良い睡眠を求める人もいるそうだ。筋トレをしない「超回復の日」は、本(まさか、『太い腕と厚い胸板をつくる志向の筋トレ』なんて本を買う日が来るとは思わなかった)やYouTube動画で筋トレや食事の知識を入れた。

世界も少し違って見えた。街中やサウナで筋骨隆々の人を見かけると「お、マッチョだ」と目で追う。これまで俳優の西島秀俊さんや岡田准一さんを「なで肩」だと思っていたのだけど、とんでもない。あれは肩の僧帽筋が立派に発達しているのだ。あの僧帽筋の発達にどれほどトレーニングを積んでいるかと考えると頭が下がる。

食生活も変わった。これまで「好きなものを好きなだけ」食べていたが、それは過去の話だ。朝は高タンパクのシリアルと牛乳、昼はごはんの量を減らした定食、夜は炭水化物を食べることを極力やめた。原理主義ではなく、緩やかな低炭水化物食生活なので辛くはない。食べるときは食べる(現に昨夜の夕食は焼きそばと餃子だった)。家の近くには大学のラグビー部が使うグラウンドがある。彼ら好みの定食屋に行くと、高たんぱく質の料理にありつけた。なかでもチキンソテー500グラムとサラダは、マッチョ・ミシュラン三ツ星だ。

出張の夜の楽しみといえば、美味しい地酒を出す居酒屋巡りだったが、日本酒の量を減らし、ハイボールを飲むようになった。ビールやデザートには手をつけなくなった。筋肉量を増やしながらも、体重は順調に減っていく。

ジムに行けない日は、自宅でトレーニングをするようになった。妻に「ダンベル買っていい?」と尋ねても反対はされなかった。数日後、ベンチと可変式ダンベル32キロ2セットが届いた時は絶句していた(プレートを取り替えられるので、普段は半分程度の重さでやっている)。きっと、5キロ程度のダンベルを想像したのだろう。時間があればベンチに寝転がり、ダンベルベンチプレスとダンベルフライを繰り返した(さすがに邪魔なので仕事部屋の端に置くようにしている)。

16キロのケトルベルも買った。鉄球に取っ手が付いており、スクワットの要領で体を落として重りをスイングすれば、腹筋や肩、胸筋、背筋、体幹など全身をバランス良く鍛えられる。これがきつい。数回で体がメリメリと悲鳴をあげる。1度に30回のスイングが限界だ。3セットもすればヘトヘトになった。ロシア兵はこれで体を鍛えているというから、絶対に喧嘩を売ってはいけない。平和が一番だ。

たった数ヶ月のトレーニングで体つきが変わってきた。腕や足は引き締まり、胸が少しずつではあるけれど厚くなってきた。お腹も気持ち割れてきた(かなりの贔屓目だ)。背中に大きな筋肉がつき、触るとこれまでの人生になかった固さがある。因果関係はわからないけれど、腰痛もなくなった。

ヤンゴンでタイガー・ウッズに追い込まれる

仕事柄、出張が多い。インド、ミャンマー、タイに一ヶ月間出張に出る時、ケトルベルを持って行こうかと悩んだが、さすがに重いので諦めた。しかし、海外の大きなホテルは基本的にジムが併設されている(これまで見えていなかった)。滞在したすべてのホテルに充実したジムがあった。アジア出張中は3日おきにジムに通ことができた。体を少し温めた後、マシンで肩、胸、背中をやる。その後、ダンベル2種目3セット。だいたい、45分程度で終わる。

ミャンマーのヤンゴンで泊まったホテルは、今回の出張の中で一番豪華なホテルだった。ジムの設備も最新で気持ち良くトレーニングをすることができた。そろそろ部屋に戻ろうかと思った時、スタッフの一人と目があった。タイガー・ウッズに似ている。細身だがアンダーアーマーのトレーニングウェアの下は筋肉でパンパンだった。タイガー似なのにナイキじゃないのか。

「やあ、どうも」
「どう? 調子は」
「いいジムだね」
「ありがとう。トレーニングはもう終わり? フォームを見ようか?」
「じゃ、ちょっと見てもらおうかな」
「OK、じゃあインクラインベンチでダンベルフライをしようか」

本当に軽いフォームチェックのつもりで頼んだ。
「普段は何キロくらいでやっているの?」
僕が重量をいうと、「君の体ならもっと負荷があっていいよ」と重いダンベルを指差した。タイガーは追い込みタイプのドSトレーナーだったのだ。僕は虎山へ通じる道に踏み込んでしまった。そこからの20分間、徹底的に追い込まれた。

重い負荷のダンベルを上げる。下げる時も負荷を逃がさない。肩の筋肉が悲鳴を上げ始めても追い込みは続く。自分だけなら、手加減をしたり、やめてしまえるけれど、タイガーから逃げることはできない。

呼吸のタイミング、脚の踏ん張り、ダンベルの軌道、静止位置。すべて筋肉のためベストな指示を絶えず入れてくる。休みのインターバルの時間も下半身の筋トレをさせられた。しかし、本当に無理な時はさっと僕の肘やダンベルを支えてくれた。「優秀なSMの女王は最大限に相手を気遣える人。SはサービスのSなのよ」と、その道に造詣の深い人から聞いたことがある。タイガーも同じだ。追い込みながら、僕の安全を最大限に配慮してくれている。サンキュー、タイガー。

「君のフォームはいい。だけど、負荷に対してもっとチャレンジするんだ。君はもっとできる。明日も僕はここで待っているからね!」。タイガーは満面の笑みで僕に言った。翌日、僕は筋肉痛で起き上がることができず、異国の地での貴重な休日の大半をベッドの上で過ごすことになってしまった。

筋トレは自分との戦いと人は言う。本当にそう思う。意志の弱い僕は体力より先に気力が負ける。だが、タイガーは僕を鼓舞し、限界の先をほんの少し見せてくれた。筋トレは一人でするのは限界があるな。すぐれたメンターは重要だ。シモンズ社製のベッドに横たわり、「ラグビーワールドカップ」の中継を見ていた。「どんなトレーニングをしたら、こんな身体になるんだよ」。彼らの努力を思うと気が遠くなった。柔らかなベッドに体が沈み込み、僕はあっという間に深い眠りについた。たしか、夢の中でもタイガーに追い込まれた記憶がうっすらとある。

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