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多様なトレーニング理論が次々と追っかけっこ状態で登場する現代。どれを取り入れればいいのか悩んでいる人も多い。ピラティス、マスターストレッチ、ボディキーと常に新しいトレーニングを提案しているように見える菅原順二さんだが、それらはツールであり、大事なのは目的を明確にすることだと語る

“本来の”ファンクショナルトレーニング

全米公認ストレングス&コンディショニングスペシャリストであり、Body Element Pilatesマスタートレーナー、BodyKeyマスタートレーナー、そしてMasterStretchマスタートレーナー……。数々の資格を習得している菅原順二さん。そんな菅原さんが人もトレーニングも多様化する現代に、最も必要と考えるのは「カラダを“ゼロ”にすること」。

「最近、ファンクショナルトレーニングというワードが一人歩きしているなと思っていたところだったんです。フリーウェイトとか、ヨガとかピラティスみたいに、固有のトレーニングみたいな感じで捉えている人が多いなあと。ファンクショナルトレーニングって、正しくは人間本来の動きができるような身体にするという概念。器具を使おうが、自重だろうが、マシンを使おうが、それがファンクショナルトレーニングなんです。同様に器具がなければいけないわけではないし、何か決まったルールのもとに行わなければいけないことがある話でもないんですね。

現代の人は忙しいし、今はトレーニングもいかに『効率よく強くなるか』みたいな話が多く出てきていますよね。どういうトレーニングが自分にとってベストなのか。ラグビーの話を例にすると、まずはある程度身体、筋肉のベースが必要になるので、筋肉を鍛えるトレーニングをします。

同じように、例えばトレイルランニングをする人ならトレイルランニングに当てはまるトレーニングを提供しなければいけない。大事なのは何を目的にするかであって、ラグビーなら質、量を重くしなきゃいけない。物理的にデカいやつが強いので。となるとウェイトトレーニングはハズせない。

トレイルランニングも体にかかる負荷はかなりあるスポーツなので筋力はあった方がいいのは間違いありません。ただ、体を必要以上に大きくして、ボディを重くするのは間違っていると思います。誤解して欲しくないのは筋の強さはどれだけあってもいいですが、大きくなればそれだけ重くもなるということ。

トレーナーになって15年になりますが、そんなことを先人の知恵を絶えず精査し続けて、僕が行き着いたひとつの答えが、現代人はゼロ以下、マイナスな状態にあるということ。成人になる頃には失われた機能が多すぎる。そう考えるようになりました。

・和式トイレの姿勢を難なくこなせますか?

例えば少し前なら和式のトイレで用を足していたわけです。フルスクワットのポジションで腹圧を高めることが以前の人はできたのに、今では洋式で座って快適に用を足している。臀筋群を鍛える意味でも大腿四頭筋を働かせる意味でも和式は良かったんですよ。

じゃあ今その動作を難なくこなせる人がどれだけいるかな。今の若い人であの深い位置までしゃがみこんで、足の全体的な力、かかとまで使ってしっかり踏ん張れてその状態で用を足せるだけのパワーを持ってるコがいるのかなと。

これは大人にも言えることで、同じようにその動作が辛くなってきているはずなんです、多分。例えば駅のトイレの前に手すりが付いていることがありますが、あれにつかまらないとできないとか。それは足首が固くなって、パフォーマンスが下がっているから。足首がファンクショナルじゃなくなっているんです。加えて股関節もファンクショナルじゃない。さらに言えば背骨も。

それらのパーツがひとつひとつバラバラのままでは繋がりないことになってしまうので、それを統合してあげて、人間本来の身体の動きを取り戻していくのがファンクショナルトレーニングの概念です。機能的ではないところを探してあげて機能を回復させてあげること。それが本当のファンクショナルトレーニング。アメリカ的な考え方です」。

・みんなを西郷隆盛に戻したい

ピラティス、マスターストレッチ、ボディキーと、様々なかたちで訪れる人の体へアプローチする菅原さん。一見すると最先端のトレーニングを追求しているように見えるが、それらはすべて「“マイナスをゼロ”にするための引き出し」でしかないという。

「西郷さんって生まれは薩摩ですよね。でも江戸にも行けば京都にも行っていた。その行動距離、パフォーマンス、すごいと思いませんか?船を使った可能性もあるけど、大体は山を越え、峠越えしているはずなんです。しかもわらじでですよ。

その考えとはまた別の視点で見ると、それは西郷さんが強かったからではなくて、それが実は人間本来の力なんじゃないかということ。人類はアフリカで誕生して、世界中へ散らばっていったという説がありますが、よく考えれば、歩くしか方法がないわけですよ。人間って、もっとも長距離を歩ける動物なんです。今は100キロ、200キロを走る人をクレイジーというけど、江戸時代ならそれがノーマル。便利な世の中になって、現代人は日々機能を失っているんです。

機能が低下しているのに、それに気づかずに運動をする。結果、怪我をする人が増えているんです。そのリスクヘッジを僕はしているだけです。自分のクライアントはプロのアスリートしかいないんですが、ラグビー以外、僕は競技の特性を分かっていません。僕がやるのはただ身体を見てあげて、マイナスを探してあげること。

プラスの部分については、彼らは何も言わなくても鍛えられるので。マイナスをなくしたら、怪我が減るかもしれない、もしかしたら30本ホームランが打てるかもしれない。そう言って、その人の能力グラフの凹みを叩いてあげるんです。ゼロに戻るまで。

立ち返る場所はピラティス

いろんな方法でトレーニングを見ていますが、ピラティスの話をすると、僕にとって最もバランスがいいもの。だから取り入れています。ジョセフ(・ピラティス)さんも僕と同じように、現代人が失われた能力が多く、その機能復活のためにできることを考え、それでピラティスを作ったと聞きました。元々は負傷兵の為に作ったもの。いわばリハビリで、僕の考えとかなり合致しています。

今は医学が発展して、トレーニングの裏付け、エビデンスを重要視する時代になりましたが、ピラティスの先生を尋ねて行くと、歳をとったおばあちゃんばかり。僕の師匠に限っていえば、50年もピラティスをしているので、僕が太刀打ちできないような膨大なデータベースから、想像を超えたことを教えられることがあります。

僕にとって、ピラティスは考え方もゼロベースにしてくれるもの。勉強会には必ず行くようにしていますが、それは新しいものを探しに行くというよりも余分を削ぎ落すこと、裏付けを得るために行っています。そこで得た知識を一度師匠の教え、ピラティスに投げかけて、正しいかどうか、必要なものかどうか判別する。そのスタイルを続けていると、やはりプラスを増やすことに力を入れる以上に、マイナスをなくすことが大事ということに行き着きます。特に現代では、それが西郷さんのような人を増やす最善の方法」。

まずは背中のケアを

「現代人はマイナスの状態」、そして「マイナスをゼロへ」することが大切ということだが、具体的に何をするのがいいのか。菅原さんは「背中の筋肉の状態を見る」ことからまずは始めることを推奨する。

「なぜピラティスがいいのか。そこから話をすると、ピラティスは誰の邪魔もしません。端的に言うならただのベース作りです。『ピラティスって何ですか?』と聞かれたら『ラジオ体操です』と答えています。“関節の体操”。それくらい簡単にできること。“日常”と思うくらいにしてほしい。

その上で特徴を挙げるなら、お腹を鍛えて、背骨を動かせるようになること。それは誰にでも必要なことなんですが、現代人はその機能が失われている人が多いと思います。“呼吸がうまくできない”とか、例えばPCやスマホの見過ぎで“背中が丸まっている”とか、“首が前に出てしまっている”とか、その状態で固まってしまって、背中とお腹が本来の動きをするのを忘れてしまっている。

関節も同じです。日常的に身体が本来持っている可動域いっぱいまで動かすことがないので、僕が見るときは、関節はどこまで稼働させられるのか、どこまで曲がるべきなのか、その人が今どれだけマイナス状態にあるのか、ゼロがどの状態なのかを気づかせてあげること。それぞれ癖がありますから、余計についてしまった癖を取りのぞいてあげることから始めます。

今回紹介させてもらった3つの動きはピラティスとは関係ないものですが、状態をチェックする上でとても大事な動きです。まずは10回ずつやってみてください。肩関節、股関節も大事ですが、まずは背中、そして首、腰がニュートラルなポジションに常にあるようにすれば、自分が取り組んでいるスポーツのパフォーマンスは必ず上がってきます。

会社の同僚とか友達とか、まずは周りにいる姿勢が綺麗な人、関節の柔らかい人と比べて、自分がどれくらい固いのか理解してもらえるといいかもしれません。筋肉を柔らかくしなくてはいけないと考えている人が多いですが、関節をもっと動かすという意識を持つと体はより柔軟になっていきます。

簡単にできることを少しずつ続けて習慣にしてもうらうのがいいですね。もしそれでも、全然本来の身体の動きを取り戻せないようなら、アランチャへ来ていただければ(笑)」。

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上から反り腰、ニュートラル、猫背(スウェイ※骨盤が前に出て、背中が後ろに出ている状態)。「女性に多いんですが、反り腰はチェストアップして見えるので綺麗と思いがちですが、腰への負担が大きい。腰痛になりやすいうえ、下っ腹が出やすくなります」。猫背は見ての通り、顔、首が前に出ているのはもちろん背中が丸まっている。「頭って重いんです。猫背は、頭の重さに常にストレスを感じている状態と言えます。鏡があるなら横から見た姿勢を毎日チェックしましょう」。ニュートラルを見ると体がリラックスしている状態にあることが分かる。横から見たときに耳、肩、腰骨が一直線になるように常に意識したい。

以下は「体をファンクショナルにするための基本」として菅原さんが教えてくれたピラティスの3つのエクササイズ。背中って、思っている以上に硬くなりやすいようです。

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仰向けに寝た状態で両腕をまっすぐ情報へ伸ばす。両腕は耳の真横に至るまでしっかりと。その状態からまず腕からゆっくりと地面に対し垂直になるまで引き上げ、そこから上半身も起こし始める。ポイントは瞬間的な力を入れて上半身起すのではなく、腕同様にゆっくりと起こすこと。可能な人はそのまま前屈。それが難しい人は腰に上半身を乗せるまで。『背中を丸めるエクササイズですが、猫背と意識的に丸める動作はまったく別物です。これは椎骨をひとつずつ動かすことが狙い。猫背の人は特に腰が固まっていて、丸まれない人が多いです。腹筋を使い、ゆっくりと椎骨が柔軟になるよう意識して1日10回くらいを目安にやってみてください」。

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まずは四つん這いの姿勢になり、どちらか片方の腕を反対側の腕・脇の方へ通す。ポイントはなるべく背中、胸を丸めるようにして、腕を奥に差し込むイメージで。その状態からゆっくり腕を抜き取るようにし、そのまま腕を地面に垂直になるように上方へ旋回。丸めた胸を思いっきり開くイメージ。逆の腕も同じ要領で。利き腕ではない側の可動域が狭い人が多いはずなので、そちら側は数回多くやると良い。『背中をツイストする動きって現代人はほぼしないんです。腕を通す角度を少しずつ変えると、より背筋群を活性化させることができます』。

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膝を伸ばした状態で座り、上体は横から見て120度の角度、両腕は対象になるようにやや肘を曲げた状態でおく。その体勢からゆっくり腰(のみ)を持ち上げ、体勢がまっすぐ、もしくはやや反るくらいまで持ち上げる。この時肘もまっすぐになるように。このエクササイズも左右どちらかに力が入り、バランスが崩れる人が多い。広背筋をしっかり稼働させよう。『手を内向きにして、身体を起こすのはなかなか難しい動作。肘を伸ばすのと同時に胸をゆっくり押し出すイメージです。猫背の人は特にこの動きによって胸を開くのと同時に、背筋群を柔らかくすることができます』。

菅原 順二

大学在学中はラグビーに没頭。その後「世界最高峰でラグビーがしたい!」と思い立ち、単身ニュージーランドへ。本場で現実を突きつけられたことを機に、トレーナーとしての活動を開始。帰国後は、法政大学ラグビー部のヘッドフィジカルコーチを皮切りに、以降小学生から社会人まで様々なチームのコーチを歴任、パーソナルトレーナーとしても活動を始める。現役時代に怪我に苦しんだ時にピラティスに出会い、「理想の姿勢と無駄のないカラダの使い方」を追求。その後イタリアへ渡り、マスターストレッチ・ボディキーも学ぶ。現在はトレーニングスタジオ<arancia>の代表として、パーソナルトレーナーとして活動を続ける傍、ピラティスやマスターストレッチの普及、指導者育成を推し進める。

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