fbpx

07 – トレーニング新時代

クランクアームやペダルシャフト、ハブ(車軸)の歪み量によってペダルに込めた力を数値化するパワーメーターがもたらすトレーニングの効率化。かつては一部のプロ選手だけが使用する数十万円の代物だったが、2019年には5万円程度まで価格が下がったことで一般サイクリストにも普及した。数値を基準にトレーニングを管理して出力を向上させ、オーバートレーニングによる故障を防止できるなど、パワーメーターの利点は数知れず。しかしその一方で、観客を魅了する刺激的な動きが生まれにくくなるという理由から、レース中のパワーメーター使用を禁止すべきという意見も。

ウォーミングアップ中の選手たちも、自らの出力数を確認しながらベストな分量の運動を徹底する

2019年はズイフト(Zwift)に代表されるインドアトレーニングがパワーメーターの普及に追い風を吹かせた。オンライン上の仮想空間で他のサイクリストとゲーム感覚で競い合うことができるズイフト。ただサイクリストを部屋の中に閉じ込めるツールではなく、室内で効率的にトレーニングを積むことで、これまで置き去りにされて引き返していたクラブのグループライドにもついて行くことが可能になり、結果的にライドイベントの参加者が増えると言う実ライドに影響を及ぼす現象も報告されている。

そんなズイフトのプラットフォームを使用して、2020年はUCIがサイクリングEスポーツ世界選手権を開催する。また、ズイフトの成績によってプロチームとの契約に至るという例も出てきている。

08 – 2020年に向けたトレンド

ロードレースにまつわる2019年シーズンを締めくくるにあたり、忘れてはいけないのが未舗装路を走るグラベルイベントの増加。黎明期のロードレースに回帰するように約10年前からロードレースにも未舗装路が組み込まれるようになったが、ここ数年で「グラベルライド」という一つのカテゴリーとして確立した。
 
23〜28mm幅のタイヤを使用するロードバイクに対し、悪路を走るため30mm以上の幅のタイヤを使用するグラベルバイクを各メーカーが競い合うようにリリース。クイックなハンドリングが求められるシクロクロスとは異なる専用設計で、荷物を装着してのアドベンチャーライドにも対応できる万能なバイクが出揃った。

未舗装路を走るグラベルは現在のロードサイクリングのトレンドだ。写真は11月に長野県で開催された野辺山グラベルチャレンジ

北米ではダーティーカンザなどの人気グラベルイベントに専念するロードレース選手も出現した。2020年の相次ぐチーム解散の煽りを受けて多くの選手が次のチーム、次の所属先を見つけることができていない状況の中、グラベルイベントに注力する選手が増加するのは自然な流れ。総勢50名ほどが関わるビッグチームに何億円という巨額を投資するよりも、一般サイクリストと距離が近く、さらに影響力のある選手個人に投資する方向に舵を取るメーカーも現れた。
 
2019年は日本国内でもグラインデューロ野辺山グラベルチャレンジが初開催された。2020年はよりオンロードからオフロードへのサイクリストの流動が予想される。

辻啓(つじ けい)

辻啓(つじ けい)

1983年6月28日生まれ 2009年から海外レースの撮影を行なうフォトグラファー。自身も夏場はイタリアでサイクリングツアーガイドを行い、冬場はシクロクロスに参戦する熱心なサイクリスト。Instagram: @keitsuji