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04 – 日本人選手と世界

世界最高峰UCIワールドチームに所属して2019年シーズンを走ったのは、別府史之(トレック・セガフレード)と新城幸也(バーレーン・メリダ)の2人。ともに30代中盤のベテラン2人がかれこれ10年近く日本ロードレース界を牽引する状況が続いている。

2019年は新城がブエルタ・ア・エスパーニャに、初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)がジロ・デ・イタリアに出場した。初の大舞台に挑んだ初山は2度の逃げと流暢なイタリア語でのメディア対応により、本人の言葉を借りると「怖くなるぐらいの」注目を浴びる存在となる。優勝を飾ったわけでも上位に絡んだわけでもなく、総合成績では最下位に沈んだものの、沿道からはHATSUYAMAコールが響いた。

世界最高峰ジロ・デ・イタリアで積極的な逃げを見せた初山(右)だが、今年限りでの引退を発表した

イタリアで絶大な人気を集めた初山だが、チームの解散に伴い、31歳にして現役引退の道を選ぶことに。ごく一部の選手を除いて、実力で海外トップチームとの契約をもぎ取る選手が出てこない現実が浮き彫りとなった一方で、6月に全日本チャンピオンジャージを手にした入部正太郎(シマノレーシング)はUCIワールドチームのNTTプロサイクリングに移籍。「反響や辛口のコメントがあることは承知していますが、頂いたチャンスなので全力でチャレンジしたい」。スポンサー企業の意向が絡む移籍であることは本人も認める事実であり、年明けとともに勝負のシーズンが始まる。

05 – 機材の進化

ロードレースにおける「ディスクブレーキ元年」ともいえる2018年を終え、2019年はさらにロードバイクのディスクブレーキ化が進んだ1年に。すでにMTBシクロクロスではリムブレーキを完全に駆逐したディスクブレーキだが、重量面やホイール交換の所要時間の関係でロードレースにおける導入は比較的緩やか。ハイエンドモデルを完全ディスクブレーキ化するメーカーも珍しくなく、ざっくり言うとUCIワールドツアー選手の約半数がディスクブレーキ化を果たしている。しかし実際にはグランツールで総合優勝した3名(カラパス、ベルナル、ログリッチ)がかたくなにリムブレーキを使用するなど、ディスクブレーキ使用率100%への道のりは長い。

円盤型のローターによってストッピングパワーを得るディスクブレーキだが、重量増や交換の煩雑さなどでロードレース界への導入はいまだ過渡期にある

ディスクブレーキと並んで世界的に大きな伸びを見せるのが電動モーター付きのEバイク。日本で電動アシスト自転車と言えば一般的に「坂道が楽なママチャリ」の範囲を出ないが、世界的には既存のスポーツバイクに見劣りしないライディング性能を発揮するEバイクが続々とリリースされている。バッテリーや動力ユニットの性能向上によるEバイクの進化はめざましく、2019年はついにUCIがE-MTBの世界選手権を開催するなど「Eバイク元年」となった。

06 – 情報発信方法の進化

自転車競技に限らず、スポーツに限らず、伝統的なヨーロッパのメディアは完全分業制。撮る人は撮るだけ、書く人は書くだけ、喋る人は喋るだけ。例を挙げるとイタリアロードレース界では父親の仕事を継いだ二世フォトグラファーが活躍するなど、職人気質が代々受け継がれている。

サイクリングを伝えるメディアのあり方も変化を続ける2019年は、音声メディアの進展が目覚ましかった

そんな伝統を重んじるメディアに大きな変化の波をもたらしているのがデジタルガジェットとSNSの進化。例えば、レース現場ではiPhoneでインタビュー映像を撮り、iPhoneで編集してそのまま配信するような、iPhoneで仕事を完結するジャーナリストも出現した。レース内ではGoProなどのアクションカメラも多用され、トランスミッター込みで重量30gまで小型化されたカメラによるオンボード中継映像が発信されるなど、より選手に近い位置からの映像が観客を楽しませている。

これまでもTwitterやInstagramを通して選手本人が意見を発信するトレンドはあったが、2019年はポッドキャスト配信が大きく伸びた。選手たちの生の声が選手たち自身によって配信される時代に突入しており、ジャーナリストやインタビュアーに語るのとは違う、歯に衣着せぬコメントがファンを魅了。デジタルガジェットの進化と発信の簡易化により既存のメディアは変化が求められている

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辻啓(つじ けい)

辻啓(つじ けい)

1983年6月28日生まれ 2009年から海外レースの撮影を行なうフォトグラファー。自身も夏場はイタリアでサイクリングツアーガイドを行い、冬場はシクロクロスに参戦する熱心なサイクリスト。Instagram: @keitsuji