2019年が、スポーツにおけるどんな1年だったかを種別ごとに振り返ります。第一弾は、ロードサイクリング。精力的に海外の自転車ロードレースを取材し、自らも走るフォトグラファーの辻啓さんに、2019年を象徴する8つのトピックと写真で振り返っていただきます。
01 – 新興国の台頭
1月のオーストラリアから10月のイタリアまで、ざっくりと10ヶ月にわたって世界中で開催されるUCIワールドツアー。UCI（国際自転車競技連合）が管轄する世界最高峰のレースシリーズは合計38戦（2019年）で争われ、現在ではヨーロッパを飛び出して北米やオセアニア、アジアへと拡大している。UCIが掲げる「自転車競技の国際化」のモットーを体現するように、ワールドツアーで活躍する選手も多国籍化した。
2019年はグランツール（3週間にわたる世界三大ステージレース）のジロ・デ・イタリアでエクアドル人のリチャル・カラパスが勝利し、ツール・ド・フランスではコロンビア人のエガン・ベルナルが勝利（いずれも同国出身者初の快挙）。ブエルタ・ア・エスパーニャではスキージャンパーとしての経歴を持つスロベニア人のプリモシュ・ログリッチェが優勝するなど、長い歴史の中で最も新興国が伝統国を凌駕するシーズンとなった。
不況の煽りを受けてヨーロッパの伝統国のチーム数やレース数が縮小する中、高価な機材スポーツという障壁がありながらも母国の英雄たちの背中を見て育つ南米の若手や、育成の道筋が描かれつつあるアフリカ出身選手の活躍が今後の注目点だ。
02 – 2人の “プール”
いつだって、いつの時代も、それこそどんなスポーツにも「抜きん出た若手」は存在する。2019年は2人の「プール」がロードレース界を席巻する活躍を見せるシーズンとなった。1995年生まれのオランダ人マチュー・ファンデルプールと、2000年生まれのベルギー人レムコ・エヴェネプール。24歳と19歳。ツール・ド・フランスでは戦後最年少の22歳という年齢でエガン・ベルナルが総合優勝を飾るなど、とにかく若手の台頭が目立った。
シクロクロスで世界王者に輝き、12月中旬まで負けなしの35戦35勝という偉業を成し遂げたファンデルプールがロードレースに本格参戦。MTBクロスカントリーでもUCIワールドカップ3勝を飾る忙しいスケジュールの中、自転車一家が生んだサラブレッドは母国最大の大会アムステルゴールドレースで驚異的な追い上げからの勝利を飾って見せた。
18歳という異例の若さでジュニアカテゴリーから飛び級でプロ入りしたエヴェネプールも、脚力がそのままタイムに反映されるタイムトライアルの世界選手権で2位。スペインのクラシカ・サンセバスティアンでは世界の精鋭を振り切る逃げ切り勝利を飾るなど、10代にしてトップレーサーの仲間入りを果たしている。
03 – ツールにおける開催国の復権
開催106回を数えるツール・ド・フランスにおいて、最多36回の総合優勝を果たしているフランス。しかし、1985年のベルナール・イノー以降、33年間にわたってシャンゼリゼ表彰台の真ん中には海外選手が立っている。その不名誉な記録がついに止まるかもしれないという希望が、2019年、フランスを包み込んだ。
闘志の塊のようなジュリアン・アラフィリップがマイヨジョーヌを着てフランスを駆け抜けたのは14日間。結果的に最終週に陥落したものの、この33年間にマイヨジョーヌを着用した他のフランス人とは異なり、アラフィリップはピレネー山脈とタイムトライアルでリードを広げる走りを披露。ピレネーでは同じくフランス出身のティボー・ピノが鮮やかな勝利を飾って視察中のマクロン仏大統領から祝福を受け、さらにロマン・バルデが山岳賞を獲得、フランス勢の復権を印象付け花を添えた。夕方のニュース番組は真っ先に溌剌と英雄たちの活躍を伝え、サッカー色の強いスポーツ新聞レキップ紙は連日アラフィリップのとっておきの表情を一面に印刷した。
過去33年間で最も大きな興奮をフランスにもたらしたアラフィリップは、2020年、マイヨジョーヌ候補の一角として開幕地ニースに降り立つ。フランスの復権だけでなくツールの復権に貢献したアラフィリップはパリとその先の東京と、さらにその先のパリを見据えている。
