fbpx

志村が36時間36分37秒で〈OURAY100〉を走った翌朝、フェーリンパークにはまだまだゴールするランナーと、それを待つサポーターたちがいた。すでにフィニッシュしたランナーも、陽だまりでのんびりと過ごしている。

ouray100

その中に、終始〈OURAY100〉の先頭で走っていたオレリアンの姿を見つけた。補給に失敗し、130km過ぎで絶不調に見舞われた彼は、レースを止めることを考えたという。だが大会スタッフに言われ、しばらくフェーリンパークで静養。4時間ほどして再び走り始めた。

「大会ボランティアのスタッフが、一緒に走ろうと言ってくれたんだ」

ouray100

〈OURAY100〉のスタート・フィニッシュ地点であるフェーリンパークのASを仕切るピーターは、なんとしてでもオレリアンに完走して欲しかったのだという。そこで、ペーサーを買って出た。もはやそれまでの鬼神のような速さを取り戻すことはなかったが、オレリアンはやはり1歩ずつフィニッシュを目指し、最終的に6位となった。タイムは39時間52分。

いまここにいるオレリアンは、ASで一刻を争っていた時と一転して、柔和な表情を浮かべている。フランス人の彼も、このユーレイのコミュニティに溶け込んでいったようだ。

ouray100

志村もまた、「異邦人」としてこの〈OURAY100〉を走り、4位でフィニッシュしたが、その100マイルを終える頃にはもはや他所者でも、お客さんでもなくなっていた。それは4位という成績を出したからではない。ひとりのランナーとして死力を尽くして〈OURAY100〉を走ったことを、ここにいる誰もが知っているからだ。志村は言う。

「みんなが認め合うこの雰囲気は格別ですね。みんな、日本人だろうがフランス人だろうが受け入れてくれた。同じ経験を分かち合った仲間だと思えるんです。コースが行ったり来たりだから、必ず選手全員とどこかですれ違うし、その時にお互い讃えあって走ってきたから。1周ループのコースだとそうはいかないですよね」

ouray100

〈OURAY100〉は、過酷な自然と出合い、新たな己自身と出合い、そして心から認め合える仲間と出合う、コロラド山間の小村ユーレイをめぐる100マイルだった。国籍や年齢、性別といった属性は、極限の状況下で削ぎ落とされ、ただランナーと形容するしかない存在となる。そしてそのランナーにしか、分かち合えない喜びがある。

「速い遅いとか、そんなことは関係ないんです。みんな、あの苦しさを過ごして乗り越えた。みんな同じですね」

ouray100

1秒を競うよりも、山をどれだけ楽しめるか。志村が“マウンテンランナー”として大事にする価値観を、図らずもこの〈OURAY100〉が私たちに見せてくれた。

今日も志村は山を走っている。明日も明後日も、志村は山を走るだろう。

OURAY100 Result 2019
1. Mike Cassidy 32:48:00
2. Ken Zemach 33:47:00
3. Brett Maune 34:26:00
4. 志村 裕貴 36:36:37

OURAY100 前編

OURAY100 後編

志村 裕貴

志村 裕貴

1986年山梨県生まれ。実家はブドウ農家。地元で開催された〈UTMF〉を目の当たりにしたことで山を走り始める。2018年〈HURT100〉7位、〈UTMF〉29位。2019年〈OURAY100〉4位。普段は小学校の先生として教壇に立つ。
Instagram: @sim46_aozora