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ロングディスタンスの練習をしろと言わない

OYM:デイブさんはトレーニングの方法論として、高強度・短時間の〈HIIT〉を提唱されていますね。

*HIIT……High-Intensity Interval Trainingの略。高強度・短時間のインターバルトレーニングを基本とする。

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デイブ:そう、ロングの練習ばかりだと速筋、つまりスピードを出すための筋力がつかないということがある。強度の高いトレーニングをしてスピードを身につけないと、例えばロングディスタンスのトライアスロンでは、トランジションで置いていかれるなんてことが起こる。バイクからランに移る時に、ライバルを引き離すための全力疾走はキロ3分を切るようなペースだからね。そういう強度の上げ下げのあるスポーツなんだ。

編集部小俣もランニングフォームをチェックしてもらった

フルマラソンの選手を考えてみよう。トップ選手はマラソンに移行するまでに大概5000mや10000mを専門としていて、そこで高負荷に耐えられる体とスピードを備えている。それからハーフ、そしてフルと順応していくことで速くフルマラソンを走れるわけだ。今年のコナのチャンピオンであるアン・ハイグとヤン・フロデノは距離の短いオリンピックディスタンスでも好結果を残していることもそれを証明している。

私はクリシー・ウェリントン、クレイグ・アレクサンダーという二人のアイアンマンチャンピオンをコーチしてきたが、彼らに課したのはVO2 MAXのトレーニングだった。特にスイムとバイクで、6分間全力、6分間リカバリー。これを4セットというトレーニングだ。FTP*でいうと108%から120%のゾーン。高強度のトレーニングだ。逆に、彼らに対してロングランやロングライドをどれだけやったのかと口を出したことはないし、興味もなかったね。

*FTP……Functional Threshold Powerの略。1時間にそのライダーが自転車上で出し続けられる出力値(ワット数)のこと。参考サイト

OYM:トライスロンにはスイム、バイク、ランとあってそれぞれに得意不得意あると思いますが、どれをどれだけトレーニングするべきか、どんな割合でやればという指針があれば教えてください

デイブ:難しい質問だね。バックグラウンドによるからね。好きな種目を伸ばすのもよいが、弱点を意識して取り組むのがまず先決だ。スイムが苦手なら、週に4回はやること。それを起点に他の種目を週3回ずつとかだね。それに加えて私が推奨したいのが、短い時間で家でもできるエクササイズだ。特に肩周り、骨盤に対するトレーニングで、モビリティ(動き)、ストレッチ、筋力強化に効果がある。具体的にどうやるかは、私のオンラインコーチングを受けてほしい(笑)

自宅でもできるというエクササイズの一例

例えば、男性アスリートに多いのは、足の付け根の腱が固まっている人。使いすぎの疲労だったり、あるいはサイクリストなら使わなすぎて固まっているということがある。ここが固まっていると、前ももを使いすぎて脚の後ろの筋肉をうまく使えないんだ。8割方の男性にはこの手のエクササイズが有効だと思う。

デイブ氏はやすやすとこなすエクササイズだが、やってみると猛烈にキツいものだった……

OYM:食事に関して気をつけていること、変化などはあるでしょうか?

デイブ:私の現役時代と今とで随分変わったね。炭水化物を食事の中心にして、それをエネルギーにしていた。レース中も炭水化物入りのジェルやドリンクを摂りながら走っていた。今はどうかというと、炭水化物は最小限にし、タンパク質、それとヘルシーファットと呼ぶ身体に良い油、例えばアボカド、オリーブオイル、それから魚の油、そういったものを中心に摂っているんだ。日本食というのは本来素晴らしい食事だと思うけども、今では非常に西洋化されているので皆さんもやっぱり意識する必要があると思う。

こういった食に関してはアメリカでも社会問題になっている。炭水化物の摂りすぎは、筋肉だけではなくて内蔵全般にまで負担がかかるから、私は低炭水化物・良質な脂質を摂ることを推奨しているよ。

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デイブ・スコット

デイブ・スコット

1954年生。1980年のIRONMAN世界選手権で初出場・初優勝を大幅なタイム更新とともに果たし、IRONMANを挑戦するスポーツから、競うスポーツへ転換させた。世界選手権は最多タイとなる6勝をあげており、その実績と指導者として理論を駆使する総合性から敬意をもって『THE MAN』の愛称で呼ばれる。現在はオンラインコーチング〈デイブ・スコットトライアスロンクラブ〉を主宰しながら、世界各地でもトレーニングセッションを行なっている。