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レースであって、レースじゃない不思議な感覚

レース計測区間となるSS1は、4.4km・獲得標高194mというプロフィール。もちろんフルでグラベルだ。基本的には林道のダブルトラックで、ライン選びはシビアではないものの、走りやすいラインをつないでいかないとペースは落ちる。だが、うまくラインがつながった時の気持ち良さはオフロードライドならではのもの。

SS1のスタート地点。いやおうなくスピードが上がる

途中に短い下りはあるものの、SS1のフィニッシュ地点は標高1900m。登り基調のグラベルはプッシュしがいがあるというもの。とはいえ、標高が高いこともあって最後は酸欠気味……クラクラになりながら、計測フィニッシュに飛び込むと、山頂にある〈キャニオングレイルエイドステーション〉に出迎えられる。

〈キャニオン〉が山頂に設置した、キャニオングレイルエイドステーション

シクロクロスのレース会場でお馴染みの〈タベルナ・エスキーナ〉によるホットレモンを片手に、頑張ったライダー達はひと休み。みながそれぞれに、走ってきたスムースなグラベルの感想を述べあっている。ここまで約12km。たったこれだけの距離でなんとみんな満ち足りていることか。

山頂では後発のロングツーリング参加者も続々と合流してきて、和気あいあい。レースカテゴリーの参加者もすでに計測区間は終えているので、急ぐ理由はない。カテゴリーの枠を超えて参加者がみんなで楽しめるというのは、いいフォーマットだ。


野辺山の魔法にかけられて

だがさらなる幸せは、この先の下りにあった。この頃には顔を出した太陽が降った雨を蒸発させ、コースを靄で包んでいく。幻想的な風景の中のスムースなグラベルのダウンヒルは、ただ、たまらない。グラベルの林道から出た一般道すら、霧がかって幻惑的だ。Stage1にして、野辺山の魔法にかけられてしまったのだ。無事に滝沢牧場へと帰着しStage1をフィニッシュ。


Stage2は各々のタイミングでスタートできる。たくさんのフード出店がある滝沢牧場内でのんびり過ごすのもいい。レースでありながら、こんな時間の使い方ができるのも〈野辺山グラベルチャレンジ〉ならでは。シクロクロスだと、自分のレースが終わるまではなかなか飲食を楽しむ心と時間の余裕がないけれど、今日はレース中であっても気にせず食べたいものを食べられる。

台風の影響で直前に変更を余儀なくされたというStage2。前半部分は舗装路のみだが、雨に濡れた農道がこんなにも美しいのかと早速気づかされる。



SS2は、SS1よりも厳しい上りが設定された。〈野辺山シクロクロス〉のコースが場外へ伸びてきたような錯覚を抱くほどに、路面の大部分は泥で、進まない。しかしこうした路面の変化こそが、クローズドなサーキットコースではないバイクライドの魅力でもある。山があり谷があれば、砂利もあり泥もあるのだ。

SS2は泥の登りがメイン

控えめに言ってものすごくツラかったSS2のフィニッシュ地点は、広大な牧草地帯に最高の眺めが広がっていた。〈ラファ〉がセットアップするオフィシャルのエイドステーションがここまで頑張ってきたライダーをコーヒーでねぎらう。先を急ぐライダーなんていない。みんなコーヒーの列に並び、ここまでの健闘をたたえ合う、穏やかな時間が流れていく。

ゴールでは思わずウイリーをしたくなるくらい、楽しいのだった Photo:Kei Tsuji/nobeyamacyclocross.cc

レースであって、レースではないような〈野辺山グラベルチャレンジ〉。第1回目ならではだろうか、いい意味でゆるい、ルール上の拘束や制限の少なさは、参加者がどう楽しんでもよいという懐の深さを感じさせる。もちろん、公道そしてグラベルを走るイベントゆえ安全面は徹底され、危険と感じる箇所は無かった。前日のシクロクロスレースから連日の運営に携わった関係者には頭が下がる。

この日立哨を務めた地元商工会の青年の手は、前日のシクロクロスの杭打ちでマメだらけになっていた

それにしても、この〈野辺山グラベルチャレンジ〉のフォーマットには、今後の日本のサイクリングの楽しみ方に一石を投じるポテンシャルがある。

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