fbpx

人々を魅了する山あいの小村ユーレイ

モントローズから南へ50km、岩山が左右からせり出す景色になってくると、そこはユーレイだ。町を南北に走る1本の目抜き通りだけが栄えている、スモールタウン。ショップやストアは各ジャンル1軒ずつ。そんな中でもブリュワリーがあるところは、とてもアメリカらしいけれど。

ouray100

街で唯一のアウトドアショップでは、気さくな接客に触れた。はるばる日本からランナーがやってきたことに目を丸くしつつも、一緒に地図を開き、コースについてのアドバイスをもらう。フィールドに根付いたローカルショップながら、訪れる者に対してのオープンさ。アメリカの、この地のアウトドアスポーツにおける成熟度が窺い知れるようだ。

ouray100

〈OURAY100〉のオーガナイザーであるチャールズ・ジョンストンもまた、この地に魅せられた一人。自身もランナーであったチャールズは、このサン・フアン山脈を走りその景色に感銘を受けヒューストンからの移住を決意したという。2014年にはこの〈OURAY100〉をスタートさせた。しかしなぜ、こんなにもハードなレースを始めようと思ったのか?

「自分にできるかわからないことでも、挑戦することに意味がある。ランニングは自分に何ができるかか教えてくれるスポーツだからね。誰にとっても挑戦的なものになるように、2015年にはコースを変更し難易度を向上し、現在のスタイルができあがったんだ」

ouray100

とはいえ、ただ厳しくするための変更ではなく、そこには100マイラーに対するリスペクトも込められている。往還型のコース設定にもちゃんと意味があった。

「100マイルレースが始まると、ランナーはみんな一人だと感じる。でもこのレイアウトなら、ランナーはサポーターやオーガナイザーに何回も会えるんだ。これは〈OURAY100〉のユニークなところだね。ユーレイは谷間にある町だから、登るか下るかになっちゃうけど……」

ouray100

これだけのタフなレースにも関わらず、100マイルのゴール地点にはバナーも、バルーンも無い。ただ二つ置かれたパイロンがここがフィニッシュ地点だと告げるのみだ。このことは、志村が「もう3回見た」という2016年大会のドキュメンタリー映像の中でもショッキングな箇所だ。華やかな100マイルレースのゴールを見慣れてきた目には、あまりに簡素すぎる。

「フィニッシュに何も無いって? このレースを作り上げるものは、風景と人々だ。装飾ではない。100マイルを走る中でのエクスペリエンスを重視してほしい。そこで体験したことは、記憶となり、ストーリーになるのだから」

ouray100

若きレースオーガナイザーは、慧眼の持ち主だと言わざるを得ない。だがそのことがわかるのは、志村の100マイルの旅が終わった後のことだ。

頼れるアンソニーと、世界最高峰との出会い

旅に出会いはつきものだが、時に驚くような邂逅もある。レース4日前、スタート地点のフェーリンパークに、長身のトレイルランナーの姿があった。その精悍な顔は、現在世界最強のランナーの一人、フランソワ・デンヌだ。隣にはウェスタンステイツ100で2連覇&コースレコード樹立のジム・ウォームズレー。2週間前の〈ハードロック100〉が残雪によりキャンセルになったことで、プライベートにこのエリアを走り回っているのだという。

ouray100

はからずも世界最高峰のランナーと対面することになった志村。これは何かの啓示か、はたまた……。

今回、〈OURAY100〉を走る志村には心強いペーサーがつく。普段はボルダーをベースに活動するローカルのランナー、アンソニー・リーだ。この辺り一帯では知られた存在で、その愛嬌のある振る舞いには志村もたちまち打ち解けた。師匠はあのティモシー・オルソンで、しょっちゅう一緒に走っているというから、並みのランナーではないことは確かだ。

ouray100

アンソニーが志村にジョインできるのは、86km地点のウィーホーケンのエイドステーションから。少なくとも、コース前半は独りで走ることになる。朝8:00のスタートだから、単純に35時間でのフィニッシュ想定でも合流は深夜だ。暗闇の中でペーサーが待ってくれているというのは、心理的にも励みになるだろう。

ouray100

レース前日、オールドエイジな観光客が多かったユーレイのメインストリートには、ザックを背負ったいかにもなトレイルランナーの姿が目立つようになっていた。不安、期待、焦燥、諦観……100マイルに挑むおよそ100名のランナーたちは、いま何を思うのか。すっかり高地にも馴染んだ志村は、落ち着きはらって明日を待つ。

ouray100

「高揚感ともちょっと違うんですが……熱い気持ちがあって、でも熱すぎないという……。これまでになく体が軽いんですよね」

〈OURAY100〉、距離164km・獲得標高13,000mを駆ける旅は翌朝スタートする。

後編に続く