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先日公開した中島英摩さんによるUTMBレポート記事にもあったように、今年のUTMBの最も大きなトピックは、小原将寿選手の8位入賞で異論はないだろう。小原選手自身のインタビューは、今後も各メディアで取り上げられるだろうが、onyourmarkでは敢えて彼をサポートした〈ANSWER4〉とそのオーナーの小林大允さんにフォーカスしてみたい。いわゆるガレージメーカーがUTMBの表彰台を獲得したのは快挙だし、実は〈ANSWER4〉の小林さんと編集長の松田は、彼が〈ANSWER4〉を立ち上げる前からの顔見知りだからでもある。ここでは、快挙を成し遂げながら、肩の力の抜けた小林さんとのやりとりをご覧頂こう。

展開が面白すぎて、順位が気にならないくらい盛り上がった

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高尾にあるカルトショップ〈LIVING DEAD AID BY ANSWER4〉と小林大允さん

松田 UTMBでのサポート選手の表彰台獲得おめでとう。今回のUTMBの率直な感想は?

小林 〈ANSWER4〉を始めてもうすぐ5年が経つんですけど、ひとつ夢がかなったなって。ただのガレージブランドをやりたかった訳じゃなかったんで。これで世界と渡り合える、それはすごくありましたね。まあ、それよりなにより小原くん半端ないなって。

松田 すごいよね。

小林 それは本当に思いましたね。鏑木さんが2011年かな、激走モンブランで表彰台に上がったのが最後で、それ以来数多のランナーがチャレンジして砕け散った中で、小原君が有言実行で実現したのが素晴らしいなって。

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UTMBの表彰台に立つ小原将寿選手。Tシャツには「100mile SUCKS!!」の文字が(写真提供 中島英摩)

松田 有言実行だったんだ。手ごたえを感じてたのかな?

小林 彼は感じていたみたいですね。狙いにいっていた。あとは自分がどうサポートするかってくらいで。

松田 それはやっぱり今年のUTMF(4位)で手ごたえを感じていたから?

小林 そうです。攻めのスタイルに変えていて。前半から突っ込むスタイルで。その後のモーツァルト100ってレースでも、パウ・カペルと50kmで30分差だったたってことで、自分のスタイルに結構自信があったみたいです。いままで後半型だったんですけど、スタイルを変えてUTMBに臨んで。当初の予定は22時間。実際23時間だったんですけど。

松田 今年はちょとホットコンディションだった?

小林 相当暑かったですね。それで最終的には23時間00分だったんですけど。狙い通りですね。スタート前に面白かったのが、なんで24時間じゃなく22時間って設定しているのか聞いたら、「今の経験値だったら24時間だったらいけます。それじゃあ来た意味がないので攻めますって」って言ってて。

松田 快挙じゃないですか?ガレージブランドのサポート選手が表彰台に立つというのは。

小林 10位までサポートメーカーがずっと出ていて、TNF、アシックス、ビブラム、サロモンって中で〈ANSWER4〉があるのは「すげぇっ!」って思いましたね。

松田 で、Tシャツには、「100mile SUCKS!!」って書いてあってね(笑)

小林 あれは、当日に自分の着ているTシャツを洗って、これ着て上がろうって。みんなに指差されてました(笑)。

松田 伝わってた?

小林 アメリカ勢にはすごく伝わってました。アメリカの女子たちに指さされて笑われたって。表彰台でも何人かに指さされて笑われてましたよ。僕もエイドステーションいた時に、「そのTシャツ何だよ」って言われて。同じくうちのサポート選手の星野由香里ちゃんもTDS13位。あとはUTMBに出場した田中”JR”裕康さんとOCCに出場した福島舞ちゃん。舞ちゃんは熱中症で50kmを12時間かかった。田中さんは、熱中症でDNFだったですね。

✳︎2019年10月11日追記:田中”JR”裕康さんの出場レースはOCCではなく、UTMBでした。誤表記について訂正し、お詫び申し上げます。

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アトリエの壁に無造作に貼られたイメージソース。オフビート感が伝わってくる。

松田 サポート選手が4人出ていて、サポート体制はどういう感じだったんですか

小林 舞ちゃんはサポートできないレースだったんで、TDSはゆかりちゃんの旦那さんの晃宏さんと僕でまわって、田中さんはニューハレの芥田さんとベスパの齋藤さんがサポートして。小原君は僕一人でした。

松田 TDSからUTMBのサポートはきつかったでしょ?

小林 すごくきつかったですよ。両方とも20数時間で、車で寝られるとはいえ、絶えず移動してたんで。しんどかったですね。でも面白かった。エイドは両方とも5ヵ所くらい回りましたね。

松田 トップ集団だから、まわりのサポート勢もプロばっかりだよね。

小林 そうですね。僕もトモさんのサポートをずっとやっているんで慣れてるとはいえ、みんな結構大人数で来てワイワイしていて、なかなか一人で寂しかったですね(笑)。小原君はスタートが46位から始まって、ほぼ20位以内で、崩れず、途中ちょっと苦しそうなところはあったんですけど、ほぼ横ばいで。

松田 サポート的にきつかったところは?

小林 時間も小原君が出したタイムテーブルからそれ程ずれなかったので、安心してサポートできました。最後のバローシンで、6、7、8、9位がパックで出て行って。その中で、「絶対10位にはならない」って言って出て行ったんですよ。その時に表彰台行けるだろうなと思いながら。でもその6、7、8、9位が最後の山に向かっていく展開が面白すぎて、順位が気にならないくらい面白かったですね。あれはすごく楽しかった。舞ちゃんも由香里ちゃんも最後のエイドに来て応援してたんですけど、みんなして大盛り上がりでした。順位は最後、シャモニーでゴールゲートの横にビジョンがあるんですけど、そこに映ったときは、ほんとに入賞するんだなって。

ブランドの始まりもUTMBだった

松田 コバ君自身もUTMBを走っているよね?

小林 あれは2014年ですね。きつかったけど風景がすごいなって。大会の雰囲気も世界最高峰のレースって言われるだけあるって感じで。そのあと2015年に出て、2018年は〈ANSWER4〉として出店して。かれこれ今年で4回目です。

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松田 ヨーロッパの反応は?

小林 あるようなないような。ノリがちょっと違う。

松田 アメリカの方が合いそうだよね。シクロクロスなんかでも、ヨーロッパの選手はレーシーだけど、アメリカの選手はポップ且つファンキーな感じがある。

小林 うん、アメリカの方が合うと思いますよ。

松田 そもそも〈ANSWER4〉として選手をサポートしようっていうのはいつからあったんですか?

小林 最初からありましたね。やるからには国内最強のチームを作りたいじゃないですか。とはいえ友達しかサポートしてないんで(笑)。

今はサポート選手は9人います。最初はトモさん(井原知一選手)。自分たちが欲しいものを作るのがコンセプトだったんで、トモさんにどういうのが欲しい?って聞いて作り始めて。由香里ちゃんには彼女専用のXSのTシャツも作ったり。小原君は2、3年前からサポートしてます。普段は、ホワンとしていて、SNSもしてない。けど、内側にはすさまじい闘争心がある。

松田 遡ってしまうけど、そもそもなんで〈ANSWER4〉を始めようと思ったの?

小林 単純に使いたいと思う製品がなかったんですよね、既成のもので。もうちょっとこうならないかな、っていうのが多かった。じゃあ自分で作ろうって。

松田 でもなかなか普通は自分で作ろうって、すぐにはならないでしょ。

小林 会社に行きたくなかったから(笑)。他にやるべきことあるんだろうなって考えていて。2014年UTMBの出走権が当たって、レース用に自分でバックパックを作って、それを背負って完走して手ごたえがあった。それで、会社を辞めてこれでいってみよう、と思ったのが2014年の12月頃のことですね。

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松田 MYOG(MAKE YOUR OWN GEARの略、山道具を自作するムーブメントのこと)の土壌があったでしょ。コバ君が所属していた《RUN OR DIE》(ウルトラライトハイキングのカルチャーから発生し、トレイルランニングまでカバーするチーム)は、みんな作っているみたいな。

小林 そうですね。言ってみれば山好きが多かったですからね。道具のこだわりも単純なトレイルランナーよりは、山の背景があるから。自分自身はそんなに登山やってなかったけど(笑)。彼らもブランドとして成り立っているなら、自分もいけるんじゃないかなっていうのはありました。

松田 その中での、〈ANSWER4〉らしさっていうのはどこにあるのかな?

小林 MYOGっていったらバッグだけとかあるんですけど、トレランって高負荷がかかるから。ウェアにしても2、30時間着続けたり。バックだけじゃ終わらないなって。目的がちょっと違うっていう。明確にビジョンがあった。UTMBのレギュレーションをすべてクリアさせる商品が作りたかったんですよ。ノリで始めたわけではなく。

松田 最初からUTMBのレギュレーションが明確にあった。

小林 その最後が〈ネオシェル〉の3レイヤー。

松田 シェル作るってよっぽどだよね。

小林 すごく金かかりますからね(笑)。素材を見たりして、〈ネオシェル〉も直接日本支社に電話して。

松田 ロットの問題とかあるでしょ。

小林 ありますね。でも、最終的にガレージメーカーってくくりから抜け出したいんで、やらなきゃしょうがないって。生地もすごく面白いんで。

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松田 〈ANSWER4〉って買いたくても買えないイメージあるじゃない?意図してやってるの?

小林 出せるコストとあれが…。これでも精いっぱいやってるんです(笑)。たまに失敗して在庫過多になることもあるし。

松田 周りでもお店行って感動しましたって人もいてカルト的な人気だよね。コバ君は、もと広告代理店だし、そうしたブランディングは意図したものなのかなってうがった見方もしてしまうんだけど。

小林 考えてないわけじゃないけど、考えすぎているわけでもない。ただ、春夏・秋冬って業界の慣例があるじゃないですか、そういうのはぶっ壊すっていうか無視してやってます。卸先は海外含めて10店舗(アジア圏、4ヵ所香港、台湾、韓国、シンガポール)。中国も見に行こうと思ってる。

松田 とても順調に見えるけど、こうした成功は想定していた?

小林 未だに手探りですが一応商いを出来ています。でも小原君のUTMB入賞までは想像してない!表彰台で「100mile SUCKS!!」観れるなんて!

松田 この先は?

小林 アジアやアメリカで取扱店を増やしていく。何か良いショップがあればいいな。扱いたいって依頼はもらうんだけど、ほぼ断っていて。というのは、基本、店主が100マイラーじゃないと。そうじゃないと製品の違いがわからない。

松田 100マイルのこだわりが強くある。

小林 自分がウルトラ始めてから〈ANSWER4〉を始めたんで、こだわりはすごくあって。それをちゃんと説明してくれないと。製品基準もウルトラの為にと考えてます。うちにしかできないこと、小さい会社じゃないとできないことが確実にあると思ってて、それを信じてこれからもやっていこうと思ってます。

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LIVING DEAD AID BY ANSWER4
193-0845
東京都八王子市初沢町1231-17-302
営業時間:12時~18時(営業日はWEBサイトで確認できる)