fbpx

佐藤悠基vs大迫傑

西本 あとは佐藤悠基選手vs大迫傑選手という視点もあります。話は2012年まで遡る。ロンドン五輪の10000mの日本代表を決める日本選手権で、早稲田の学生だった大迫選手は、同じ佐久長聖高(長野)の先輩でもある佐藤選手に挑むんです。で、ラスト1周の勝負になったときに、まず大迫が出た。大迫が先頭にたったと思ったら、最後の100mで佐藤悠基が抜き返し勝利した。後にも先にも、大迫選手はその日、地面を叩いて悔しがっていた。長居競技場全体に響き渡る声で「くそー」と叫んで。日本選手権10000mは、佐藤悠基選手に挑もうとする大迫選手の歴史でもあり、ラストで負けるというレースがずっと続いていたんです。

ジェニファー じゃあ、佐藤選手はラストが強いんだ。

西本 ラスト勝負で勝つスピードを得るために、大迫選手はオレゴンに飛ぶんです。しかし、オレゴンでスピードを磨いていたら、佐藤悠基がトラックからマラソンへ移行。トラックでのガチンコ対決はお預けになったまま。佐藤選手はマラソンに移行してからマラソンの距離がなかなか合わず、ようやく最後まで走りきれるマラソンの脚ができてきた。どちらもラストが強い。ホクレンの10000mで27分台で走った大迫と、ゴールドコーストのハーフマラソンでラストスパートでぶっちぎった佐藤悠基。この2人がどこで仕掛けるか。

桃澤 自分は、万年2位だった井上が、その2人のドラマをぶちやぶって1位を獲るのを想像しているんですよ。

西本 みんな、自分がこれまで見てきた人たちのドラマと重ね合わせて、妄想するんでしょうね。「一度は遅れたと思った神野大地がここで息を吹き返し、また上がってまいりました。最後の坂道を利用して、どんどん抜いていきます。この100mで3人抜きました。このままいくと先頭に追いつけそうです」っていう実況も聞きたいじゃない。

OYM──2位までは東京五輪代表が内定しますが、3位でも可能性はあるので、最後まで諦められませんね。

桃澤 3番目はMGCファイナルチャレンジという対象の3レースで、派遣設定タイムを切った選手が選ばれる。切った選手がいなければ、MGC3位が代表になる。男子は2時間5分49秒と高いですが…。

西本  MGCのプレッシャーとオリンピックに近い条件で勝てる選手だけでなく、全くタイプの違うスピードランナーも代表にそろえるという目的があります。

桃澤 こんなにいろんな選手の名前が上がるのに、MGCでは2人しか決まらないのか。けど、それぐらいのプレッシャーをはねのけてもらわないと。やっぱり緊張をコントロールするのは大事。東京オリンピック出場が決まったら、もっと周りが騒ぎ始めると思うし。緊張をどうコントロールするのか、今回の経験は絶対にオリンピックでも生きると思う。

OYM──過酷なレースになればベテランにもチャンスはあるのかな、などと考えていましたが、2枠というのはやはり狭き門ですね。

西本 中本健太郎選手みたいに全員、拾って、拾ってっているうちにいつしか先頭に追いついたということもあるかもしれないし。

桃澤 ハイペース展開になって、みんな付いていったら、中本さんが、最後の上りでぐんぐん順位を上げるっていうこともあるかもしれない。今回のレースは、みんな、勝ち方を知らない分、面白い。

OYM──あえて中本選手に付く選手もいるかもしれない。

西本 ロンドン世界陸上の川内優輝選手のようにね。

マラソンの回数が有利とは限らない

桃澤 レースを読む力は大事。付いていけばいいだけじゃないし、ここで出なきゃっていう場面もある。それを一瞬で見極めなきゃならない。迷っていると、仕掛けるタイミングを逃しちゃう。今回は、マラソンを何回も走っていればいいって問題ではないと思います。このMGC、さらには東京オリンピックに向けて、最大限にフィジカルを鍛えて、レースを想定してメンタルを鍛えてきた選手が勝てるのかな。最後の総仕上げの前に、4月から7月にかけて何をしていたかも大事ですよね。そういう意味では、有力選手では、服部選手はゴールドコーストでハーフを走ったけど、4月に急性虫垂炎になり、謎めいたところがある。今井正人選手も出ている試合の回数が少ないのが気がかりですね。

西本 服部選手の走りは肌感覚でどう思いました?

桃澤 服部選手は、福岡国際マラソンのようなレース展開に持っていったら最強だと思うんです。成功体験がある。でも、練習を知らないので何ともいえないですけど、あの福岡のレースを再現するには、ゴールドコーストで佐藤選手に勝ってほしかった。

桃澤 服部選手は他の選手と扱いが違いますよね。他の選手はタイムでMGCの参加資格をクリアしていますが、服部選手は福岡国際マラソンで外国人選手をはねのけて、優勝している実績がある。

桃澤 井上も優勝はあるんですよ。

西本 灼熱のアジア大会。井上選手も国際大会で勝ちきった強さがある。

OYM──設楽選手もゴールドコーストで勝った。

西本 意外なことに、常に注目される大迫選手はフルマラソンでの優勝の経験がなかったりもする。

桃澤 優勝経験のある選手が一人だけじゃないのは難しいですよね。設楽選手ってパターンがありますよね。明らかに自分のリズムで走りたい選手なんですよ。なので、わざと隣を走ったり、前に出たりすると、リズムを狂わせることができるかもしれない。もっともそれを意識しすぎると、自分が先に消耗しちゃいますが。

西本 本当、予想がつかないなあ。

OYM──勝利体験という点では、村澤明伸選手、岡本直己選手も北海道マラソンで優勝しています。

桃澤 村澤選手は、調子落としているのを、どのように戻してくるのか…。

OYM──大迫選手は日本で一番速い選手だけあって、話題のメインではなくても、必ず名前が出てきますね。

桃澤 MGCに関していえば、ボストンマラソンのアップダウンも経験しているし、シカゴマラソンでは後半にペースアップするレースも経験している。って考えたら、経験値だけを見れば、やっぱり強いのかな。

西本 ボストンもシカゴも3位だったけど。特にボストンはコースを知り尽くしたサラザールコーチの存在も大きかったと思う。サラザールにはボストンを勝った経験がある。ボストンで大迫選手は、集団に付かずに、マイペースで自分のペースで刻んでいって、35㎞から順位を上げていった。大迫選手のチームメイトのゲーレン・ラップもそう。ボストンの走り方を分かっていた。そういう情報も大きいと思います。

桃澤 大迫選手はMGCでの勝ち方をどう想定しているんでしょうね。今回のレースで一番難しいのは、誰も勝ち方を知らないことにある。なぜなら、このコースは初めてですからね。

OYM──ジェニファーさんは、大迫選手はご存知ですか?

ジェニファー 知っています。ナイキでけっこう宣伝していますよね。まじめそうな人だなという印象です。

桃澤 僕は高校時代から知っていますけど、本当に負けず嫌いでしたね。

OYM──高校時代、個人のタイトルは全国ではなかなかなかった。

桃澤 たぶん全国高校駅伝の区間賞ぐらいですよね。

西本 彼も何度も負けて強くなった。

OYM──女子は鈴木選手と松田選手くらいしかまだ名前が上がっていませんね。

桃澤 前田穂南選手とか、北海道で勝っているので、暑さの経験もある。でも、女子ってけっこう情報が少ないんですよ。

ジェニファー 安藤友香さんは大阪を走っているんですね。

西本 日本郵政グループの強さは際立っていますよね。世界陸上にもトラックで送り出しているし。

桃澤 日本郵政の選手の走り方が好きですよ。

西本 関根花観選手は、大迫選手と同じ金井中(東京)出身ですよね。

桃澤 都道府県駅伝に出るっていう情報があったのに、出てこなかったのが気になりますね。

ジェニファー 私、岩出玲亜選手は知っていますよ。アンダーアーマーのイベントで、彼女がトークショーをやっていて、そこで初めてMGCのことも知ったんです。彼女はソーシャルメディアを活用していますよね。そういう意味では、一般の女子には一番知られているかもしれない。あっ、福士加代子選手も知っています。

OYM──ちなみに、mark調べでは、インスタグラムの公開アカウントを持っている女子選手は岩出選手だけでした。

ジェニファー だからなんだ! 彼女、けっこう投稿していますもん。

西本 男子は多いんですけどね。

OYM──特にツイッターが多いですね。

桃澤 岩出選手は練習の風景などを出していますよね。神野選手もそうですけど、ストーリーの部分を出してくる。今までは選手発信でそういうことをするという発想がなかなかなかった。

ジェニファー 岩出さんの場合、アンダーアーマーの新しいプロダクトが出た時にも載せていますね。

OYM──ちなみに、大迫選手のツイッターのフォロワーは12万5000、その次に多いのが神野選手で8万9000。設楽選手が4万8000。

桃澤 ツイートの仕方も、キャラが出ていいですね。設楽選手なんかは、大会が終わった数十分後に、こういう結果でしたって、ひょこっとツイートするんですよ。それがけっこう好きなんですよ。

OYM──竹ノ内佳樹選手は、まめに練習について投稿しています。

桃澤 練習メニューを上げていますよね。

ジェニファー 秘密じゃないんですね。

桃澤 第一生命グループの選手も、ツイッターをやっているイメージが強いですね。監督の山下佐知子さんもですけど。

(次ページ)MGCを観るベストスポットは……都内のホテル!?

1 2 3 4

mark 12発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』9/17に代官山蔦屋で開催!
mark12にご出演いただいた、この3名による公開座談会が決定!MGCの振り返り、来たる2020年のオリンピックに向けての展望、そして走ることの意義について語っていただきます。このページで今ご覧いただいているような、尽きることのなく語られる3者のマラソン・陸上愛とその化学反応を、ぜひライブで。詳細はこちら

mark 12 発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』
日時:2019年9月17日(火)19:30~21:00
出演:Jennifer(モデル)、桃澤大祐(ランナー)、西本武司(EKIDEN NEWS)
参加費:1000円(雑誌なし)、1500円(mark新刊12号付き)
お申し込みはお電話にて:03-3770-2525(蔦屋書店)

MAIL