fbpx

MGCは育成も兼ねている

OYM──MGCがマラソン2回目ですが、お話を伺っていると、鈴木選手はかなり有力でしょうか。

桃澤 何があるかは分からないですけどね。

西本 MGCで有力というよりも、やはり東京オリンピックで活躍することを目指しているんでしょうね。MGCをどうして設けたか、伺ったことがあります。これまではレースを選んで初マラソンで日本代表になるケースが多かった。そうすると、経験が少ないから、本番では力を発揮できないことが多かったそうなんです。今回のMGCはそうはいかない。東京オリンピックに出ることじゃなくて、東京オリンピックで活躍できるためのシステムなんです。過去のデータを遡ってみると、初マラソンから最短でオリンピックのメダルにたどり着いたのが、バルセロナ五輪銀メダルの森下広一で、オリンピックが3レース目だったと。これぐらいのクオリティーのレースを経験しないと、東京に出ても活躍はできないっていうことで、ハードルを設けた。だから、MGCは、選考だけでなく、育成も兼ねている。

桃澤 これまでオリンピック前の世界陸上がめちゃくちゃ大事だっていうのと同じだと思うんですが。今回、MGCで結果を出した選手のコメントが楽しみ。そのコメントで、ある意味、東京オリンピックに向けて準備ができているかが分かると思うので。

西本 MGCを通って「やったー」って言うのか。「ここが始まりですから」って言うのか。レース後の選手のコメントは聴き逃がせない。

桃澤 MGCに向けてどういう準備をしてきたのかのかも、コメントに現れると思うんですよ。

西本 リオ五輪の時は正直、「日本人、誰が出ていたっけ?」ってなっていたと思う。今回は違う。代表選手が決まる前に、有力選手の顔ぶれやストーリーがこれだけ紹介されているんですから。

桃澤 MGCに出るためには、ワイルドカードもあったじゃないですか。ワイルドカードは海外のレースも対象でしたが、今までは、海外のレースって、ツイッターでもあんまりニュースになっていなかったのに、一色恭志選手がワイルドカードを獲った瞬間、ツイッター上に情報があふれていた。それを考えるとMGCの効果はすごいですよ。

OYM──男子は4選手がハンブルクマラソンで。女子は一山麻緒選手がロンドンで、2大会の平均タイムでワイルドカードでMGC出場を決めました。

西本 すごかったのは高久龍選手ですね。

桃澤 高久選手だけでなく、一色選手、一山選手もそうですが、ここにもすごいドラマがあった。3月に東京マラソンを走って、4月にもマラソンを出るって、かなり無理があったと思うんです。東京オリンピックは諦めて、世界陸上とか次のオリンピックを狙うっていう手もあったと思うんですけど、それでも、3月、4月連続で走ったのは、相当思い入れがあるということですよね。

西本 ちょっと気になっていたのが、MGCのホームページに使われている写真は、どの選手も最近の写真なのに、高久選手だけ東洋大時代の写真なんです(現在は変更された)。ヤクルトに入ってけっこう長いし、キャプテンも務めているのに。これは“MGCの謎”と呼んでいます。

ジェニファー ご自身で選んだんですかね?

西本 高久選手は本当にギリギリで出場権を獲得したから、写真の手配が間に合わなかったんでしょうね。聞くところによると、東洋大学の部員は総出で応援に行くらしいですよ。MGCのコース上で先輩たちを応援するそうです。東洋大と青学大は、OBが集まって応援するっていう感じが強いですね。東洋大OBは今回5人と一大勢力。青学大OBも4人いる。

二人三脚の神野大地と高木聖也マネージャー

OYM──神野大地選手はメディアの露出が多いですね。今回のmark12でもケニアとつないでインタビューをさせてもらいました。

西本 神野選手は、神野選手だけじゃないんですよ。神野選手がここまでチャレンジできているのは、マネジャーの存在も大きい。マネジャーの高木聖也君は、青山学院大時代もマネジャーなんです。青山学院大には選手として入学するんですけど、3年生の時に故障で走れなくなって、マネジャーに転向するんです。そして、それまでは箱根駅伝のシードにしっかり入ればいい、くらいのチームだった青学が、その翌年に突然優勝しちゃうんです。

高木君は伝説の主務(マネジャー)として箱根駅伝マニアの間では有名なんですが、高木君は、そのマネジメント能力を買われてメガバンクに就職したんです。一生安泰ですよね。しかし、安泰のサラリーマン生活を送っている高木君に、神野選手が「人生をかけるので、先輩、会社やめて、ぼくのマネジャーになってください」って頼むんです。神野選手もまた、実業団のコニカミノルタにいたけれど、「このままじゃダメだ。」と強豪チームを辞めてまでして、プロに転向したので。

ジェニファー で、やめたんですか!?

西本 そう。メガバンクをやめて、二人三脚でようやくここまで来たんです。

ジェニファー すごい!

桃澤 そういう覚悟が決まっているのは大きいですよね。他の選手もそうですけど、今回のMGCはたぶん、覚悟が決まっているかどうかだと思うんです。レースって、自分が思い描いていた通りのレース展開ができても、周りを見渡したら、“みんな、まだ余裕あるな”みたいな時がある。そこでどういうレースをするかは、覚悟があるかどうかで変わると思うんですよね。そこで、覚悟を決めてもう一度いくのか、違う場面で勝負するのか。東京オリンピックで結果を出すには、いろんなものを犠牲にしなきゃいけませんよね。だからこそ、覚悟が必要になる。

西本 涙なしには神野選手は見られない。今年の東京マラソンでも、スタートで写真を撮ってメディアルームに入ろうとしたら、ちょうど高木君とトレーナーの中野ジェームズ修一さんが2人でレースを見ていたんです。「調子いいね」って声をかけた瞬間、「神野が遅れ出しました」って実況が……。でも、そこで終わったと思ったら、最後、滑り込んだ。そんな奇跡のようなものも感じました。

桃澤 神野選手は、良いところも悪いところも見せてくれる。戦略上、悪いところを見せないっていうのもあると思うんですけど、神野選手は、そういうところも見せている。だから、みんなも共感できる部分が多い。

西本 大学卒業してからは注目されるなか、なかなか結果がでなかった時期がつづきましたからね。

OYM──実は、ハーフマラソンでは設楽選手にも大迫選手にも勝っているんですよね。

西本 そうそう。で、大迫選手は、丸亀ハーフで神野選手に負けたその後に、フルマラソンを表明した、と。

桃澤 で、ボストンマラソンでちゃんと3位に入った。

西本  MGCは最後に急坂があることですし、神野選手が終盤あがってくることも多いにありえる。彼への沿道の声援はすごいことになってると思うんです。

桃澤 神野選手が伝えてくれたこともあると思うんですよ。「ここまで覚悟を決めないといけないんだ」っていうメッセージを、みんなに伝えてくれたのでは。

中村匠吾と大八木監督の師弟関係

西本 ケニアでもいいトレーニングを積んで、フォームも無駄がなくなって、すごく洗練されて帰ってきたから、レース終盤の走りが楽しみですね。個人的には学生時代からロードで圧倒的に強い富士通の中村選手がどういう走りをするか注目してます。普通は大学を卒業すると、実業団のチームで練習をするんですけど、中村選手は、今も駒澤大学で大八木監督の指導のもと、練習しているんですよね。

ジェニファー 監督が好きで!?

西本 あの二人の師弟関係もすごいです。大八木監督を勝たせたいでしょうね。大八木監督は箱根駅伝では監督車から檄が有名です。MGCがかかったびわ湖毎日マラソンでも、競技場に戻ってきた時はタイムはギリギリ。そこで大八木監督が「何秒速く行け」ってラストスパートの指示を出した、その瞬間、それまで動きが悪かった中村選手の動きが明らかに変わった。

ジェニファー 一番よく知っているし、たぶん言葉で選手のスイッチを入れるのがうまいんでしょうね。

西本 大八木監督と2人で目指す東京オリンピックというストーリーがある。

桃澤 信頼し合えるコーチを見つけられたのはでかいですよね。

OYM──大八木監督はオリンピック選手を輩出していないんですよね。そういう意味でも、監督の思いも大きい。

西本 駒澤大学からオリンピック選手を出すことは悲願でもありますからね。大八木監督も還暦を迎えて、いつか藤田コーチと交代する時がくると思う。だから、大八木監督にとって、中村選手は“最後の作品”になるかもしれない。

桃澤 大八木さんの想いって、メチャクチャ強いと思うんです。だから、中村選手も師事しているんだと思うんですよ。オリンピックを目指す選手って、指導者を選ぶときに、その指導者に想いがないと、付いていきませんよね。中村選手も同学年なんですけど、すごくまじめだし、やはり覚悟をもっている選手です。

(次ページ)因縁めいた大迫vs佐藤、優勝候補を絞りきれないMGC

1 2 3 4

mark 12発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』9/17に代官山蔦屋で開催!
mark12にご出演いただいた、この3名による公開座談会が決定!MGCの振り返り、来たる2020年のオリンピックに向けての展望、そして走ることの意義について語っていただきます。このページで今ご覧いただいているような、尽きることのなく語られる3者のマラソン・陸上愛とその化学反応を、ぜひライブで。詳細はこちら

mark 12 発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』
日時:2019年9月17日(火)19:30~21:00
出演:Jennifer(モデル)、桃澤大祐(ランナー)、西本武司(EKIDEN NEWS)
参加費:1000円(雑誌なし)、1500円(mark新刊12号付き)
お申し込みはお電話にて:03-3770-2525(蔦屋書店)