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いよいよ目前に迫ったMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)。好評発売中のmark12号、MGC特集ではモデルのJenniferさん、現役で走る桃澤大祐選手(サン工業)、EKIDEN NEWSの西本武司さんのマラソン識者3名によるMGC座談会を実施。解説も充実の内容は本誌をご覧いただくとして、盛り上がりすぎて予定(と紙幅)を大幅にオーバーした座談会を、MGC直前ということでフルストーリーでお届けします!実に25000字を超える大ボリューム、前後編でお楽しみください。
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Jennifer
モデル。小さい頃からスポーツに親しみ、シアトル大学在籍時には、陸上競技の1500mやクロスカントリーなどに取り組んだ。マラソンは4レースを走り、今年の大阪国際女子マラソンでは3時間1分の自己記録をマークした。Instagram: @jennistolle

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西本武司
駅伝・陸上の情報を発信するメディア「EKIDEN News」を主宰。日本各地の競技会のみならず、国際大会にも足を運ぶ。また、自身も一般ランナーとして世界のマラソン大会に出場している。自己ベストは3時間12分。https://ekiden-news.jp

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桃澤大祐
山梨学院大出身。長野県にあるサン工業で働きながら競技に取り組む市民ランナーだが、大学卒業後に記録を伸ばし、10000mで日本選手権にも出場した。大学同期の井上大仁に勝つことが目標。マラソンの自己記録は2時間15分23秒。 Twitter: @1439_44

自身もすごく走る3人、まずはボストンの話から

OYM──皆さん、ガンガン走られている方ですね。

ジェニファー まだサブ3はいっていませんが、マラソンのベストは3時間1分。フルは4回走ったところです。今年は大阪国際女子マラソンを走りました。

西本 国際ランナー(※大阪国際女子マラソンや名古屋ウィメンズマラソンのエリートの部などに出場するランナーのこと)じゃないですか!?

ジェニファー なりましたね。ハーフのタイムで出場できたんですよ。大阪に出るには、フル3時間10分か、ハーフで1時間28分を切らなければいけなくて、2カ月までにハーフで頑張って切ることができました。

西本 3時間1分はすげー!

ジェニファー でも、大阪国際の次にボストンを走ったら…きつかったです。コースがやばかった。

西本 今年のボストン? 僕も行っていましたよ、取材で。

ジェニファー 朝、雨がすごかった。バスの中で待っていましたが、びしょ濡れでスタートでした。ボストンは坂がありますよね。上りもありますが、最初が下りで、ずっと下るのかと思いました。あの下りがやばかった。

西本 そのコースインプレッション、すごく欲しがっている人が、隣にいますよ。

桃澤 はい! ワールドマラソンメジャーズで勝負したいと思っているので、ボストンに出たいんですよ。

ジェニファー やばいですよ。大阪はすごいフラットだったし、その前に2回走った名古屋ウィメンズもそこまでアップダウンはなかったし、あんな経験はしたことがなかった。

桃澤 ボストンの最初の下りは、箱根駅伝の6区ほど下るって聞いているんですけど、本当にそんなに下るんですか?

西本 桃澤君は、MGC出場選手の4強のひとり、井上大仁選手と山梨学院大の同級生。箱根駅伝の復路山下りの6区を3回走っていているんです。

下りのスペシャリスト、桃澤選手

ジェニファー 5区しか応援にいったことないんです。5区の逆ってことはすごく下る!すごいですね!

西本 で、下りだったら、1キロ2分……

桃澤 2分ひと桁でいけます!

ジェニファー 下りのコツ、知りたいです! 2週間前にトレランしたんですよ。そしたら、最後の4㎞がすごく急で、速く走りすぎたら、太ももがすごい筋肉痛になって……走り方、間違っているのかな。

西本 (桃澤を指して)この人、下りに関しては世界有数のスペシャリスト。1㎞2分ヒト桁で走れる陸上選手はそうそういない。

ジェニファー すごい! だったら絶対にボストンで強いはず。ハートブレイクヒル(上り)がボストンの名物だけど、序盤の下りも足が痛くなるほどきつかったから。

西本 これがMGCの話につながっていきますよ! MGCに出場する井上大仁選手がボストンマラソンを走った理由はMGCもラストの上りが正念場となると踏んだから。

ジェニファー MGCはラストが上りなんですか?

西本 うん。ラスト5㎞が。井上選手は、上りの練習をしっかりして望んだボストンでは、結局最初の下りで思ったよりも脚を使っちゃって、最後がきつかったって。

ジェニファー 東京マラソンはフラットなイメージがあるんですけどね。MGCのコースは坂があるのか。

西本 実はコースの高低差がMGCとボストンは似ているんですよ。

桃澤 下りって、ただ速くいけばいいもんじゃないんですよ。ぶっちゃけ、下りってスピードがある選手なら速く走れるんです。でも、後半のことを考えたら、いかにダメージを残さないでいくのかも大事。下りで、力を節約する走り方と、スピードを出す走り方は若干違うので、戦略的にどこで仕掛けるかによって、走り方は変わってくると思うんです。

OYM──ボストンの前に、井上選手に下りの走り方について聞かれたことは?

桃澤 実は、連絡をとっていないんです……。山梨学院の同期のラインがあるんですけど、自分は1回もラインに投稿したことがないんですよ。そもそも、大学時代、2年生まで井上と話した記憶がないんですよ。

桃澤、同級生の井上大仁とのビミョーな関係

ジェニファー チームって何人くらいなんですか?

桃澤 あのとき100人ぐらい。同学年が20人ちょいぐらいいたかな。

ジェニファー そんなに!

桃澤 山梨学院は、けっこうな人数がいるんですよ。

ジェニファー アメリカの大学はそんなにいないんですよ。私が通っていたシアトル大学は一応D1だったけど、私が入ったときにD2からD1になったばかりで、そんなに強くなかった。(※D=ディビジョン。D1からD3まである)

西本 NCAA(全米大学体育協会)でD1ってすごいじゃないですか! じゃあ、ヘイワード・フィールド(※アメリカ・オレゴン州ユージーンにある陸上競技場。2021年には世界陸上が開催される)でも走った?

ジェニファー 走りました!

西本 それはすごい!あのトラックは最高ですよね。

ジェニファー だから、シアトル大学を選びました! 大学自体はけっこう田舎なんですけどね。アメリカの大学だったから、日本の大学のことはよく知らないんです。大学スポーツがどうなっているか、とか。

桃澤 山梨学院も田舎ですよ。

西本 桃澤君の場合、そんな人数の多いチームの中で存在価値を出すには、下りしかなかった。

桃澤 箱根駅伝の6区を想定したトライアルがあって、それに出たらトップとっちゃったんですよ。トップをとれるとは思っていなかったんです。それで、100人部員がいる中で、自分が箱根を走るには“下りしかない”と思って、ずっと下りの練習ばかりをやっていたら、3年間走れました。

ジェニファー みんな、箱根駅伝を狙っているんですね。

桃澤 選手によりますね。井上はトラックも目指していましたが、自分の場合は、トラックと箱根との両立はできないと思って、箱根に絞るしかなかったんです。

西本 今は、働きながら走っているうちに、どんどん記録が伸びて、ついに5000mは13分台に突入。10000mも28分20秒台まで上がってしまいました。大学時代には考えられなかったと思うけど、フルタイムで働きながら、トラックで日本選手権に出られる選手になっちゃった。

桃澤 でも、オリンピックや世界陸上じゃなくて、ワールドマラソンメジャーズで勝負したいって思っているんです。だから、ボストンに出たい。それに、“井上に勝ちたい”っていう思いでずっとやっています。

西本 平地では井上選手にはなかなか太刀打ちできないでしょうが、唯一、勝機があるのであればボストンマラソンじゃないかと思っているんです。序盤の下りで一気に井上選手だけでなく、世界のトップランナーたちをつき離して、世界中の人を驚かせるような先行逃げ切りで!

桃澤 それを今、ずっと考えているんです。ボストン1年目は20㎞まで。2年目は30㎞と、毎年ちょっとずつ先頭を走る距離を伸ばしていって……。

OYM────ちなみに、井上選手と直接対決で勝った経験は?

桃澤 そもそも直接対決がまだないんです。箱根駅伝の予選会ではあるんですけど、予選会はチーム戦なので……。

西本 なぜかぼくが二人の伝言役で。ホクレン・ディスタンスチャレンジで10000mを走り終えた直後の井上選手が「ボストンで課題だったスピードをトラックを走って戻せました」と、笑顔でこっちに向かって歩いてくるんですけど、その後に「桃澤もゴールドコーストで頑張っていましたね」って言うんです。それ、桃澤に伝えておいてくださいっていうメッセージなんです。

ジェニファー 井上選手も、ちゃんと桃澤さんを見ていたってことですね。

桃澤 自分もボストンの前に、西本さんに「井上、なんか上半身がっちりして、走れそうですね」って言うと……。

西本 ボストンのレース前日に井上選手に会ったのですが、笑顔でリラックスしていたんです。でも、桃澤君が言っていたことを伝えたら、今、初めてプレッシャーを受けましたって。競技レベルは違うかもしれないけど、お互いすごく意識しているライバルなんですよね。

桃澤 それはめちゃくちゃうれしいです。井上とは飯を食いに行ったことも1回もないんですよ。

ジェニファー でも、箱根駅伝は一緒に走っているんですよね。

桃澤 一緒だったんですけど、井上は往路で、自分は復路だったので…。でも、井上に急に、「ジョッグ行こう」って言われたことがあったんです。その年の箱根は、自分が6区で、井上が5区だったんですが、井上とはそんなに話していなかったし、ジョッグも普段は一人でやっているので、「これから何を怒られるんだろう?」って、内心びくびくしていました。

でも、一緒にジョッグをしていたら、「一緒に山とろう」って言ってくれたんです。それがかっこよすぎて、「こいつを越えよう」と思って、そこから井上を目標にするようになりました。

西本 そしたら、その年に箱根の2区でエノック・オムワンバ選手が棄権するアクシデントがあった。二人で山をとるはずが、タスキがこなかった。

MGC出場選手と同じレースを走ってみて

OYM──一緒に走っていた選手がMGCに出るのは、また違った感慨がありそうです。ジェニファーさんも、大阪国際ではMGCに出場する選手と同じレースを走っていますね。

ジェニファー そうなりましたね。ホント、大阪国際はエネルギーがすごかった。タイムを狙えるレースだって聞いていたので出たんですけど、参加者が400人くらいしかいないし、更衣室もあるし。スペシャルドリンクは何にすればいいんだろう? とか考えました。(大学時代に取り組んでいた)1500mは笑顔になる余裕がないけど、大阪国際女子マラソンは楽しくて、ずっとスマイルでした。

(次ページ)東京マラソンの経験は、MGCでは役に立たない可能性も!?

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mark 12発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』9/17に代官山蔦屋で開催!
mark12にご出演いただいた、この3名による公開座談会が決定!MGCの振り返り、来たる2020年のオリンピックに向けての展望、そして走ることの意義について語っていただきます。このページで今ご覧いただいているような、尽きることのなく語られる3者のマラソン・陸上愛とその化学反応を、ぜひライブで。

mark 12 発売記念公開座談会『2020年の東京と、その先に続くレース』
日時:2019年9月17日(火)19:30~21:00
出演:Jennifer(モデル)、桃澤大祐(ランナー)、西本武司(EKIDEN NEWS)
参加費:1000円(雑誌なし)、1500円(mark新刊12号付き)
お申し込みはお電話にて:03-3770-2525(蔦屋書店)