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(写真 古谷勝 / 文 櫻井卓 / 協力 Pearl Izumi

4月22日の「全日本トライアスロン宮古島大会」に出場した「PI TRI(Pearl Izumi TRIATHLON)」。既出のレースレポートの通り、高温多湿のハードなレース条件の中、Pearl Izumiアンバサダーの大西勇輝さん、シューズブランド「On」の駒田博紀さん、Pearl Izumiでパタンナーを務める巽朱央(たつみ あけお)さん、カスタマーである廣瀬大輔さん、下條泰朗さん、チームの発起人でもあるPearl Izumiの清水秀和さんの6名は見事完走を成し遂げた。

スイム3km、バイク157km、ラン42.195km。合計202.195kmを走破する、過酷なロングディスタンスレース。個人スポーツとしての楽しさと苦しみ、そしてチームとしての喜びを分かち合ったゴールの先に、彼らは何を見たのか。サポーターとして参加した、同じくPearl Izumiアンバサダーの北川麻利奈さん、スイムコーチである前田康輔さんを交え、レース直後のメンバーに“ストロングマン”完走への道程を振り返ってもらった。

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それぞれのやり方でレースと向き合っている。人の数だけドラマがある

大西勇輝さん(以下、大西):僕は完全にロングの洗礼を受けたかな。大学の卒業旅行でアイアンマンに出たんだけど、そこからもう10何年たっているので、ほぼ初に近い形。去年は佐渡国際トライアスロン(以下、佐渡)の大会で良い感じにレースできて手応えは感じていただけに、やっぱりこの結果(最後のランでペースを落とし、想定タイムからは大幅に遅れた)はちょっと悔しい。今回はバイクはうまく走れたんだけど、でもおそらく飛ばしすぎだったんだろうね。バイクの後半はちょっと足が攣りそうになっていて、それがランになった時から徐々に痛みに変わって来て。150kmバイクに乗った後のフルマラソンは、やはりそんなに甘くない……。

清水秀和さん(以下、清水):ちょっと深刻な顔になってますね(笑)。まずは、楽しかったことも話しましょうよ。

大西:そうですね(笑)。バイクの前半はすごく気持ちよかった。天気も良かったし、伊良部大橋も東平安名岬も、本当に綺麗で。こんな所を信号にも止められず、ずっと走っていられるのは本当に贅沢だなと感じたし。ただ、ランに入ってからは、目標のペースで8kmくらいは走れたんだけどその後はもう無理で。でもやめるという選択肢はなかったので、歩いてでも完走しようとは思った。

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上:バイクパートのハイライト東平安名岬。下左・右:思いがけず苦しいランパートを振り返る大西さん

北川麻利奈さん(以下、北川):私自身、ずっとレースに出るほうだったから、今回サポートに回ったことで結構新鮮でした。トップ選手から、最後の方の選手まで見ていたんですけど、トップ選手はやはりトライアスロンのために日常のなにかを犠牲にしている人が多いので、その気迫がすごい。でも一方で完走目的で参加している人たちは、笑顔ですごく楽しそう。それぞれがそれぞれのやり方でレースと向き合っていて、参加者の数だけドラマがあるんだろうなと思うと、ちょっと胸が一杯になりました。勇輝(大西さん)に関しては、ランの時に予定の時間になっても全然来ないということに、とても心配してしまって。勇輝はどういう気持ちでフルマラソンという距離と向き合うんだろうかとか。自分に置き換えてしまいました。

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下:レースの前夜祭で全員完走を誓う「PI TRI」。左から廣瀬大輔さん、下條泰朗さん、清水秀和さん、大西勇輝さん、駒田博紀さん、北川麻利奈さん、巽朱央さん、前田康輔さん

前田康輔さん(以下、前田):駒田さんも、お祭り男みたいになって通過していきましたよね(笑)。

駒田博紀さん(以下、駒田):いや真面目な話、俺は「On」というブランドとして、ランニングをもっと楽しくするっていう使命があると思ってるから。自分自身がエンジョイするのはもちろんなんだけど、周りで応援してくれてる人たちにも、少しでも楽しさを伝えられれば良いなと思ってる。自分のためにやってたら、人も楽しんでくれる。それが幸せなこと。でもそういうことをやりながでもちゃんと完走しないと周りが気を使っちゃう。去年は残り30秒っていうギリギリでゴールしたから、今年はもうちょっと余裕をもってゴールできて良かった。

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スイム会場となった与那覇前浜は遠浅の海で、白い砂浜が沖合まで続く

北川:宮古島というロケーションの良さも、このレースの醍醐味だったんじゃない?

駒田:やっぱりバイクのコースは最高だよね。俺が2015年に宮古島の大会に出たときはすごい暴風で、伊良部大橋がかなり怖かった。けど今年は本当に最高だった。最初の坂を登って、下り始めた時には思わず笑っちゃった。

チームみんなで完走するということが、とても大切なことなんだと改めて実感した

北川:個人競技であるトライアスロンに、チームで参加することの醍醐味ってどんなところ?

大西:レースの時に一緒にいるわけではないんだけど、やっぱり心の支えになる。今回のレースも、もしかしたら1人で出ていたらやめていたかもしれない。チームメンバーがいることで、やっぱり辞められないなという底力が湧いてくる。実は、今回ランの時に歩いてしまうまでは、思考が“個”に向いていたんだよね。スイムで良いタイムだったとか、バイクもすごく調子が良かったとか。でも、ランの時に足が動かなくなって歩いた時には、いろんな葛藤があった。それこそレースをここで止めるか止めないか、というレベルで。その時に思考が“個”から“チーム”に切り替わった。チームで出ているからには、自分のタイムがどうこうじゃなくて、チームみんなで完走するということが、自分にとってもチームにとっても、とても大切なことなんだと、改めて実感した。

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レース前日にはスイム、バイク練で軽く汗を流す。全体的にリラックスしたムードだった

北川:今回、サポートにいたからこそ、チームの良さがよく見えた気がします。なんとなく顔見知りの人にかける声援と、チームメイトにかける声って全然違う。ただ、頑張れとかファイトではなくて、いままでやってきたことを間近に見ているので、思い入れももちろんだけど、もっと深いところに入り込んで応援ができる。そのことが一体感があってすごくよかった。

駒田:たしかに、俺も選手なんだけど、ずっと応援しながらレースしている感覚があった。心の中で、大西さんはいまどこなんだろうとか、麻利奈(北川さん)とマーマン(前田さん)は、どこで待っていてくれるんだろうとか。いろいろチームメイトのことを考えると、それが自分の力になってくるという。その時におれはちゃんとチームの一員なんだなと実感したね。実は、いままでのレースって制限時間ギリギリでゴールすることが多かったんだけど、今回はもっと早く帰ってきたかった。それはゴールでチームメンバーを迎えてみたいという気持ちがあったから。チームというものが、自分自身の成長の促進剤になってくれたんだよね。

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巽朱央さん(以下、巽):私は「PI TRI」に入るまでは、チームというものに所属したことがなかった。というか、実は団体行動も苦手で(笑)。自分のペースでやりたいことをやるタイプだから。でも、チームって良いなと思ったのが、レース中にメンバーとすれ違った時。姿を見たときに安心するんですよね。その時に、ああチームって良いなって。

大西:最初のチームの目標が佐渡にみんなで出場することだったんだけど、それが終わって、次は宮古島となったときに、そのために160kmのバイクのトレーニングをしたり、オープンウォータースイムの練習会を企画したり、準備自体もみんなでやる機会が多くなったよね。

北川:私としては、結成して1年経ったいま、周りからどう見られているかが変わってきたと感じることが多いかな。最初の頃は「なんだか楽しそうなことをしているなあ」と思われてるような気がしてたんだけど、それがちょっと羨望の眼差しに変わって来たかなあって。その理由としては、真面目に取り組んでいるということがちゃんと伝わってきたんだと思う。楽しそうにしてるけど、練習とかはしっかりやるとか。あとは、チームに所属している人たちのパーソナリティがマッチングしてきていて、すごく良いまとまりが出てきている実感もあるし、他の選手から実際に言われることも増えた。

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スイムコーチ前田さんによるコーチング。メンバー一人ひとりに合わせた適切なアドバイスを送る

清水:たしかに、チームの絆が強くなってきているのは感じる。いまメンバーは15人。だけどあまりメンバーを増やすことには固執してないんだよね。少ないメンバーで、濃い関係を作っていけたらと思ってるから。あとは、チームを始めた時は考えていなかったけれど、活動していく中で、このチームメンバー向けに何か作れないかなとは思い始めていた。別の発想で生まれた「PIGL」というプロジェクトのサイクルウェアが、ようやく形になってきたかと。

大西:個人的には、今まで楽しく完走すれば良いと思って始めたんだけど、佐渡、宮古島にトライして、レースがきっちりできないと面白くないなという思いも強くなってきた。今回は10時間切って、100位以内という目標を立てて、バイクの時点までは手応えがあった。完走できて良かったという思いもあるけど、その反面すごく悔しい。レース直後っていうのもあるのかもしれないけど、もっと競技成績を上げたいという思いが強いかな。

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北川:私は去年の佐渡でランが走れなかったから(ケガの影響で途中棄権)、今年は絶対に完走すると同時に、成績も出したい。これまでショートレースにたくさんでてきて、最も感動したのは日本選手権を獲れた2大会。次の佐渡のレースは、その時のようにゴールした瞬間泣けるくらいに、しっかりと練習してレースに挑みたい。

駒田:「On」の企業理念で「good is not good enough.」というのがあって、今まで完走したのは「good」なんだけど、それはまだ「not good enough」なんだよね。だから、もっと俺なりのベターを目指したい。だから来年は42.195キロを遅くても良いからちゃんと通して走れるようになりたい。

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:わたしは大会で言うと、2020年にハワイ島カイルア・コナで開催されるアイアンマン世界選手権。挑戦企画の「コナチャレンジ」のメンバーに選ばれたから、それに向けて自分ができる以上の結果を残したいというのがあるかな。

北川:楽しみだね。朱央(巽さん)ちゃんは、いまグングン力を付けてきてるもんね。

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:でも、私ずーっとクラスで1、2を争う運動音痴だったんですよ。そういう私でも、自分の適性のある競技に巡り会って、頑張ればこういう結果が出せるんだっていうのは伝えたい。だから例えば、運動が苦手な子が居たら、私ができるんだから、きっと向いているスポーツに出合えていないだけ。それに出合いさえすればどんどん成長できるんだよって、アドバイスしたいですね。

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清水:僕の次の目標は佐渡のAタイプ(スイム3.8km、バイク190km、ラン42.195km。日本最長のレース)だね。いまのままだと絶対完走できないと思う(笑)。

:今回の宮古島の前も同じこと言ってましたけどね(笑)。

清水:でも、ストイックになりすぎるのは嫌で、やっぱりFUNの要素はとても大切だと思う。しかもただ楽しいだけじゃなくて、ちゃんとそれぞれに目標をもって、それに向かっていくという楽しさ。最終的にチームとしてどうなりたいとかは特に考えていないですが、そういう楽しさを継続していきたいなと思ってるんですよね。今から5年後にどうとか具体的なことを言うんじゃなくて、やっていく過程で次々目標が見えてくる。そしてそれを乗り越えることで、また次の目標が見えてくる。その目標が点だとしたら、それを繋いでいくと線になって、その先にまた点が見つかる。ベターの積み重ねでチームが成熟していけたら良いなと思うんです。

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