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MARK GEARでのギア紹介も今回で3回目。これまでの2回は実際にトレイルランニングのアクティビティ中に使うというより、その周辺の面白い物を紹介してきましたが、今回はど真ん中のギアである「シューズ」を紹介します。もう割とガッチガチのギアレビューって形でいってみます。

紹介するシューズは、HOKA ONE ONE(以下HOKA)のCHALLENGER ATR2です。

CHALLENGER ATR2自体は2016年2月に入荷したばかりの新作シューズですが、その前身であるCHALLENGER ATRは2015年の2月に発売されました。”厚底”が売りのHOKAが提供する最軽量トレイルシューズというポジションでしたが、比較対象となるシューズが無かったため発売前はどういった状況で使えるかが未知数。しかし、発売されていざ足を入れてみると、「あ、これは結構使うシチュエーションあるな」って感じたし、実際昨年僕が最もよく履いたシューズでもありました。今回は、前モデルから共通するCHALLENGER ATRの特徴やストロングポイント、2になって改善が図られた点、どんな状況で使えるの?っていうことをご紹介します。

と、シューズそのものの説明をする前に、HOKA ONE ONEというブランドについて説明しておきましょう。トレイルランナーやウルトラランナーにとっては「ホカ」という名前は今では割とおなじみになってきましたが、世の中一般的にはまだ知らない人が多いブランドだと思うし、「ホカ」を知っている人でも厚底っていう特徴以外のストーリーなどは意外と知らないかもしれません。

HOKA ONE ONE

HOKA ONE ONE(ホカ オネ オネ) は、2009年にフランスのアネシーで、ジャン・リュック・ディアード(Jean-Luc-Diard)とニコラス・マーモッド(Nicolas Mermoud)の二人によって設立されたかなり若いブランドです。ブランド名のHOKA ONE ONEはニュージーランドの先住民族であるマオリ族の言葉で、創業者たちが旅の途中にニュージーランドの山頂で、現地のランナーからもらった「今こそ、ホカ・オネ・オネ(マオリ語で「地上に舞い降りる時」)だ」というアドバイスに端を発しています。この言葉からインスピレーションを得た彼らは、サーフボードのようなイメージで、広く・高く・柔らかく下りを早く走ることのできる独創的なHOKAのシューズを作り出しました。ちなみに初期のHOKAのロゴに添えられていた「TIME TO FLY」というコピーはHOKA ONE ONEという言葉を英語に意訳した物です。

HOKA ONE ONE

そんなHOKAが日本で一躍脚光を浴びたのは2010年のハセツネ(日本山岳耐久レース)。このレースに出場するためHOKAチームの3選手が来日、そのうちのひとりルドビック・ポメレットが優勝、創業者のニコラスも15位(ニコラスはUTMBで3位に入った実績もあり)に入り、チームエントリーの部門でも、彼ら2人を含めた3人による HOKA チームが優勝したのです。 その際、彼らが履いていたのは当然HOKAのシューズ。ソールがひときわ分厚いそのシューズはルックスからしてインパクトがあるので、「あの靴はなんだ」と一気に注目を集めました。

余談ですが、2010年は「BORN TO RUN」によって日本でもHOKAとは真逆のミニマルランニング(裸足や、靴底の薄い靴でのランニング)が盛り上がりだした年。僕が「BORN TO RUN」を読んで「クッションのあるシューズは”悪”」くらいのことを思っていた時に、ハセツネでは厚底シューズの選手が優勝していたって言うのは中々面白い話です(笑)。

2010年ハセツネ優勝シューズのHOKAはMAFATEというモデルで、26cmで320gという重量のものでした。これは2016年現在販売されている、あるスタンダードなトレイルランニングシューズとほぼ同重量。しかし、ソール厚をみてみると、スタンダードなシューズのソールは再厚部で20mmなのに対して、MAFATEのソールは再厚部で40mm。単純計算で、同重量で倍のクッション性能を搭載していることになります。

HOKA ONE ONE

とはいえ、発売当初のHOKAは日本では今程の人気を誇っているわけではありませんでした。販売店も限られていて知名度もあまりありませんでしたし、使用感に関しても重量こそ、クッション性能から比べて軽量であったとは言え、厚底の取り回しのしにくさに手こずるランナーも多かったのです。サーフィンが最初から誰でも波に上手に乗れないように、HOKAもうまく乗りこなすにはある程度の慣れやスキルが必要だったというわけです。後は、見た目もいかにも厚底!!って感じで、厚底ウォーキングシューズのMBT(マサイ・ベアフット・テクノロジー)を連想する人も結構いて、ビジュアル的にもまだこの頃は”変わり種”として捉えられていました。

しかし、そんな状況に対してHOKAは新たなモデルを開発することで対応していきます。MAFATEの後に発売されたSTINSONは重量300g、続いて発売されたRAPA NUIは275gと新しいモデルが開発される毎に、どんどん軽量化が進んでいき、ソールの形状も徐々に取り回しがしやすくなります。それに伴い見た目もどんどんシャープになっていきました。そして、2015年に発売されたCHALLENGER ATRでは、243gとついに重量が250gを下回ります。これはもはやトレイルランニングシューズ全体からしても”軽量モデル”に当たります。その分ソール厚も再厚部で29mmとMAFATEから比べると1cm程薄くなっていますが、これでもまだ一般的なモデルの1.5倍のソール厚です。(重量はすべて26cmのメーカー公表値)

そんなCHALLENGER ATR、当初は走れる中距離レースにベストマッチするのではないかと予測していました。走れる中距離レースとは、50~80km位の距離で、トレイルもあまりテクニカルではなく、ロードや林道を多く含むもの。IZU TRAIL JOURNEY(ITJ)やSPA TRAILなんかが代表的です。

まずは、CHALLENGERの発売直後にITJ後半部分の試走で40km程走ってみました。この40kmは序盤が伊豆稜線歩道のなだらかなアップダウン、続いて木段の下り、足の疲れてきた終盤に林道&ロードという構成です。想像どおり木段の下り、後半の林道&ロードでは、物理的なクッションの厚みが活きました。ということで、レース本番(2015/3)にもCHALLENGERを投入。序盤も林道が多いコースなので、レースを完走してみて「やはりITJにCHALLENGERはベストマッチという印象をうけました。

HOKA ONE ONE

ITJゴール直前の筆者とCHALLENGER ATR

続いてCHALLENGERを投入したのは奥三河パワートレイル(2015/4)。このレースは、60kmで獲得標高4,000mという、ぱっと見「ちょっと獲得標高がきつい」位のコース。しかし、実際は序盤の35kmが1,000m上って2,000m下がる走れる系のコース。後半30kmが3,000m上って3,000m下がるというかなりきつめのアップダウン系コースという、1つのレースに全く違う2つのパートが組合わさっているという結構特殊なレースでした(上りが4,000mに対して、下りが5,000mっていう下り基調なのも特徴です)。結果としてこのレースでもCHALLENGERはかなり効果的でした。前半の走れる(走らないといけない)パートでのながーい下りの林道、後半の固い路面での急峻なアップダウン、いずれもCHALLENGERのクッションと軽さがかなり活き、完走率30%という厳しい条件の中しっかり完走することができました。

HOKA ONE ONE

奥三河完走後の筆者とCHALLENGER ATR

ここまでCHALLENGERを履いてきて感じるのは、軽さとアッパーの柔らかさから来る足の取り回しの良さ。これだけ足が軽く動かせるのであれば、もうちょっと色んなレースにも対応できるだろうということで、今度はOSJの奥久慈(2015/5 62km 累積標高3,800m)に投入してみました。このレースは序盤に嫌気がさすような細かいアップダウンの連続、中盤にジャングルのような荒れたトレイル、続いて長い林道、最後にまた元来たアップダウンのトレイルを戻って行く展開。個人的にはレースプランを失敗して最後失速してしまいましたが、このレースでもCHALLENGERはかなり使えました。

2015年のレースでCHALLENGERを使ったのはこの3つでしたが、他にもCHALLENGERは色々なレースでマッチするという実感を得ました。先に挙げたSPA TRAILはもとより、信越五岳、峨山道等でも使えるでしょう。個人的にはショートレースはもっと軽く薄いシューズで出たいですが、スリーピークス(38km)に関しては、序盤と終盤の走れるパート、三ツ頭からの900mの一気の下り、第2エイド以降のアップダウンの下りと木段等、ショートレースながらCHALLENGERの使いどころがあるレースと言えるかもしれません。(逆に後述するようにアウトソールがかなり省略され、ラグ=ソールの凹凸も高くないため、上記レースでも雨天でトレイルがドロドロの場合はまた使用感が違ってきます。その点はご理解下さい。)

と、ここまでCHALLENGERがいかに国内の多くのレースで使えるかということを書いてきました。では、今年のモデルであるCHALLENGER ATR2はそこからどこが変わったのか? それを紹介します。

まずは重量。製品入荷前に見ていたカタログスペックだと、CHALLENGER ATRが243g、CHALLENGER ATR2が270gなので「あれ、重くなるのか?」と思っていたのですが、製品入荷後に実測で比較してみると、25cmで ATR 234g⇒ ATR2 227g、27.5cmで ATR 277g⇒ ATR2 265gと 新モデルの方が若干の軽量化を果たしています。

HOKA ONE ONE

ミッドソール、アウトソールに関しては変更なし。ということで、僕がこれまでの中距離レースで感じていたクッション感は今モデルも健在です。ただし、いいことばかりじゃないです。HOKAの多くのモデルは軽量化の為にアウトソール(ソールのグリップを担う、一番外側の固いゴムパーツ)を簡略化しています。そのため、ミッドソール(ソールのクッションを担う、弾力性のある柔らかいパーツ)がむき出しの部分がソール面積の半分程あります。ミッドソールはクッション性を出す為のパーツなので摩耗しやすく、むき出しの部分は消耗が早いです。CHALLENGER ATRを使ってみて感じた弱点は耐久性でした。ソールの減りが早いのです。その点に関してはCHALLENGER ATR2でも改善されているわけではないということにもなります。おんたけウルトラのようなゴッツゴツの林道だけのコースだと大げさでなく1回でソールが終わってしまうかもしれませんので、オススメしません。

HOKA ONE ONE

CHALLENGER ATR2、右 CHALLENGER ATR、それぞれ緑、黄色の部分がむきだしになったミッドソール

ちなみにHOKAのソールは通常のシューズの1.5~2倍程の厚みがあるわけですが、やはり心配になるのは捻挫の心配。ただしその点に関しては、ソールを台形にして接地面積を増やしたり、バケットシート状(足を入れる部分がすこしえぐれている)にすることによって安定感を保つ工夫がされています。また履き続けていくことで、ミッドソールが少し圧縮されて安定感が増します。

HOKA ONE ONE

次はアッパー(足を包む部分のパーツです)。こちらに関しては結構変更が加えられています。まずはヒールカップがレザーの簡単なものから独立したヒールカップパーツになりました。柔軟性のあるパーツなので、履いた時に固いとか擦れるとかは無いですが、かかとの安定感が上がりました。また、かかと部分のアッパーパーツとシュータン(いわゆるベロですね)に厚みが増しています。CHALLENGER ATRのベロは薄かったので、全体的に足が包み込まれている感覚がします。アッパーの補強に関しては、足の横ぶれに対応すべく縦方向にしっかりとした補強になりました。またそのことによってアッパー生地のたわみが無くなりました。それから、トゥーバンパーは前モデルのパーツより若干強く固くなりました。靴幅に関しては前モデルから変わらず若干広めです。

HOKA ONE ONE

それからインソールはHOKAオリジナルからインソール専門ブランドのOrtholiteの物に変わりました。これは2015FWからHOKAの他モデルもOrtholiteに変わっているようです。このことによりインソールの衝撃吸収性、通気性、汗抜け、抗菌、防臭と言った機能が高まっています。また、Ortholiteはヘタリが少なく耐久性に優れています。これは外観からはわかりませんが嬉しい変更点ですね。

HOKA ONE ONE

「百聞は”一走”にしかず」ということで、早速、数kmのトレイルでテストしてきました。結果として、上記のアッパー変更によって走行中の横ぶれ感はほとんど感じませんでした(HOKAアスリート内でも同様の評価が上がっているようです)。前モデルに関してはアッパーが薄く補強が少ない分、若干横ぶれの不安感があったのですが、今回のモデルは走っていてそういう不安感がなく、いい意味で「普通」の履き心地。これだけ軽量かつクッションもあるという特徴のあるシューズで、「普通」を感じられるということは、とてもポジティブなことだと思います。

以上がCHALLENGER ATR2の紹介です。マイナーアップデートではありますが、やっぱり安定感が上がったということは走る上でとても大きく、レースにガッツリ出る人にとっては今シーズンも色々なレースで活躍すると思います。耐久性を考えると僕はレースメインで使った方がいいと思いますが、初心者のシューズ、はじめてHOKAにチャレンジする人の1足目にもいいと思います。ただし、クッションがあればすべてOKというわけではありません。はじめて履く方はまずHOKAなりの接地感覚をしっかり掴んでから、さまざまなフィールドで使ってみてください。

Webshop
HOKA ONE ONE / CHALLENGER ATR 2 : http://shop.rb-rg.jp/?pid=98776396

最新情報
2/15よりセール開始です。2月後半にCHALLENGER ATR2の試し履き会も予定しています。

ショップ情報
Run boys! Run girls!
Run boys! Run girls!(ランボーイズ!ランガールズ!)
住所 101-0032 東京都千代田区東神田1-2-11 アガタ竹澤ビル404
TEL 03-5825-4534
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定休日 不定休
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