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(文・写真 松田正臣 / 協力 HOUDINI)

昨年のUTMF[ウルトラ・トレイル・マウントフジ]3位入賞、グラン・レイド・デ・ピレネー優勝と充実のシーズンを送ったトレイルランナー、ヤマケンこと山本健一選手。UTMFを直前に控えたシーンズン始めのヤマケンは、高校教師として顧問を務める山岳部の生徒たちと、彼のホーム・マウンテンともいえる山梨県・茅ヶ岳で汗を流していました。インタビューは今年の目標となる欧州アンドラで行われるレース(アンドラ・ウルトラ・トレイル Ronda dels Cims)についてや、アウトドアスポーツ全般の楽しみ方に至るまで、山の男ヤマケンの魅力を感じることのできる内容となりました。

シーズンの始まり ヤマケン先生は生徒たちと冬の間から身体を作ってきた

ヤマケンを育てたホーム・マウンテン 茅ヶ岳

間近に控えたUTMF(ウルトラ・トレイル・マウントフジ)に関しては、日本で100マイルレースを開いてもらうなんてことは本当に貴重な経験、貴重な機会なんで、その機会を大事にしたいなと思いますね。しっかり臨みたいと思います。ただ、今は時期的にスキーが終わったんだか終わってないんだかわかってない状態で、部活の方も生徒の大きな大会の前なんで、身体は生徒と一緒にうんと動かしてますけど、まだ長い距離を走るっていうことはしていないので、今回ぶっつけ本番て感じですね。(昨年は日本人一位ですが)あんまりそういう意識はないですね。時々言われますけど。ぼくは超マイペースで行かせてもらって、みんなが体調ちょっと悪くなっちゃって、そういう結果だったですけど。ですからそこは全く意識していないですね。
ここは茅ヶ岳という山で標高1700m、地元の山です。日本百名山を作った深田久弥さんの終焉の地として知られている山。高校の時から登っている山で、もう100回は超えていますね、150回くらいいったのかな、200回はいってないと思いますけど、もう毎週行くような感じですね。夕方からもいけますし、学校が終わってからも。ほんとうにホーム・マウンテン、良いヤマです。距離的、時間的には長くないんですけど、いろんな斜面があって、走れるところもあれば、歩かなきゃいけないところもあったり、そして下りになると岩場はゴツゴツで。今日一緒に走って頂いて良くわかったと思うんですけど、テクニカルなコースも多かったりで、成長させてくれた山ですね。飽きない楽しい山です。生徒も一緒に来て、楽しくやってますね、「ひゃっほー!」っていいながら(笑)。

茅ヶ岳は百名山を深田久弥終焉の地として多くの登山客が訪れる

標高は1700mほどの茅ヶ岳だが、様々な表情の斜面を持ち、トレーニングにはうってつけの山

山岳部は全てに全力を注ぐ“アドレナリンクラブ”

去年ピレネーで優勝したからといって山岳部の生徒が増えたりはしないですよ。厳しいって分かっているから、意外と増えない(笑)。今年は新入生が3人入りました。走力が高かろうが低かろうが受け入れます。辞めてしまう生徒もいますよ。1年のうちに辞めるんだったら、まあ一応話をしてやらないっていうんだったら止めない。けど、2、3年になってくると、もう止めますね。絶対にやらないと駄目だよって。やり遂げれば絶対力になるからって。
いま全学年で7名です。部活としての目標は、全てに全力を注ぐっていう“アドレナリンクラブ”なんで、生徒はそういう中で全国大会に出て上位をとりたいって気持ちがあるようで、トレーニングを一生懸命しますね。今日もタイムレースを午前中にやってきたんですけど、みんなベストタイムを更新して頑張ってます。意欲的ですね。もうその気になっちゃってる感じ。逆にトレーニングしないと不安、そういう感じになってきてるんで見ていていい感じですね。モチベーションを上げるにはその気にさせることですね。すげぇことやってるんだよ、山はかっこいいよ、みんなかっこいいねって。でも厳しいですけどね、基本的には。

石碑に「百の頂きに百の喜びあり」と刻まれているように、生徒たちにも各々の喜びを見つけて欲しいと語るヤマケン先生

競技と楽しさのバランスはという意味でいうと基本的に全部遊びだと思ってるんで、部活動も遊び。自分が好きな部活に入る訳じゃないですか。きっとアウトドアが好きで入って来てるんで、まあ僕らもそれなりの環境というが活動を準備しますし、だから冬はスキー、クロカンやったりとか、普通のゲレンデのスキーも連れて行ったりとか、あとは年間を通してクライミングをやったり、海は無いので湖でスタンドアップパドルとか、そういうこともやらせたり。まあ、そういう楽しいことの前には必ず走りますけどね。まず山を走った後に、カヌーで遊びましょうとか。

基本的に走るって、体力をつけるためには必要なことじゃないですか。体力があればいろんな遊びが楽しくなるし、長持ちする。余裕をもつことが大事。山も体力があると余裕じゃないですか。いろんな荷物を持っていけるし、食事も楽しくなるし、そのために走るのは、これは当たり前だっていうことをいつも話しています。走れば絶対楽しいから、取り敢えずは走ろうみたいな。とにかく走れば山を楽しめる、山で楽できる。

上:M’s Lightspeed Tee ¥9,450
下:M’s Trail Shorts ¥11,550(共にHOUDINI

トレイルランナーも登山を楽しめば様々なものが見えてくる

こういう遊び(トレラン)は、人の少ない山で楽しみたいなって思いますね。今日走ったルートはお客さんが少ないんですよ、沢沿いのルートは多いんですけど。人口が増えると、山って限られているというか、道は限られてますし、やっぱりトラブルもね、出て来ちゃう場合もあるから、そこはわきまえてやらなきゃいけないって思います。トレイルランだけじゃなくて登山者の目線っていうか、登山で一泊とかで歩いてみるっていうのもいいかもしれないですね、今後の普及と言うか発展には。歩いて、食べ続けて、山で眠ってみる。長い時間動き続けるトレーニングにもなると思うんですよ。

今シーズンの目標レースは過酷な170km

今年は6月の下旬にヨーロッパのスペインとフランスの国境に挟まれたアンドラという国で行われる170kmのレース(アンドラ・ウルトラ・トレイル Ronda dels Cims:170km、獲得標高13000m、制限時間62時間)にエントリーしていて、そこを目標にしたいなと思っています。去年ピレネーに行って、表彰式の時に地元の方から「次はアンドラしかないな」っていうようなことをいわれて、調べてみたらやっぱり激しいレースで。面白そうだなと思ってエントリーしちゃいました。ぽちっとエントリーして、クレジットカードの番号を書いて(笑)。

小さな国土のアンドラをほぼ一周するRonda dels Cims

ピレネーもテクニカルだったんですけど、このレースはもっとテクニカルで、去年の優勝タイムが30時間を超えているということからもその激しさが伺えます(参考:同じ170kmの2011年UTMB[ウルトラトレイル・デュ・モンブラン]の優勝タイムがキリアン・ジョルネによる20時間36分43秒)。ぼくはどちらかというと足が遅いタイプなんで、歩くとかテクニカルな方が好きなんです。一年に一回行けるか行けないかのレースなんで、せっかくなら自分の好きなレースにしようと。シリーズ戦に組み込まれているので有力選手も多く出場するようですね。
※Ronda dels Cimsは世界スカイランニング連盟(International Skyrunning Federation, ISF)が世界各地のレースをシリーズ戦に指定し、ポイント制でランキングを決めるSkyrunner (R) World Series(SWS)の一レースとして指定されている

アンドラのレースでのテーマというのは、まだ考えられてないですが、新しい領域なのは確かですね。これまでのレースで一番長い時間のものはUTMBの24時間半くらい。24時間を大きく超えるレースをぼくは経験したことが無い中で、30時間超えるだろうというレースなんで、未知の世界への挑戦。未知の世界へ足を踏み入れるということです。モンブランでゴールした時っていうのは、身体はオールアウト気味でしたけど、気持ちはもう一周行くぞみたいな、それくらい楽しかったんです。初めてモンブランに行った時、そういう気持ちになれたんで、今回もそこを期待して。メンタルを持ち続けられる限界がどこかみたいなところは自分で探りたいですね。


山本健一
山梨県出身。高校時代は山岳部に所属しインターハイで優勝。大学ではフリースタイルスキーに熱中。現在は高校の体育の教師として山岳部の顧問を務める。2008年の長谷川恒男カップ日本山岳耐久レースで優勝し、一躍注目を集め、2009年はウルトラトレイル・ドゥ・モンブランに挑戦し、8位と健闘。2012年 グランド・レイド・デ・ピレネー優勝。

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