fbpx

(文 村岡俊也 / 写真 依田純子 / 動画 TOTAL TIME 00:56 記事最下段

今年で三回目を迎えた逗子海岸映画祭2012。主宰の写真家・志津野雷さんは、鎌倉の山中で育ち、出会うべくしてサーフィンを始めたと言います。自らが実践する海や山と共にあるライフスタイル。「自然と遊ぶ楽しさを伝えたい。そのために映画祭をやっているんです」と志津野さんは語ってくれました。

サーフィンから学ぶこと、始まること。

自然と遊ぶ楽しさとか、自然からもらえる強さやメッセージ、物事はそれだけで十分なんじゃないかって思っているんです。例えばサーフィンをすれば、否応なく自然と密に付き合うことになる。沖に出て行くためのパドリングが苦しかったり、なかなか大変なスポーツではあるけれども、あの滑走する感覚や気持ちよさ、雄大さは何物にも代え難い。その自然との関わりは、自分自身に対して、あるいは友人との関係について、町づくりに関してもそう。もっと言っちゃえば、あらゆる事柄に対して何らかの影響があると思うんです。だからずっとサーフィンを続けています。 

 時間があったら自然と遊ぶこと。それを伝えるためにはどうすればいいのか? 風景写真を撮り始めたキッカケはそこにあるのかもしれない。きれいな波のシーン、山の写真、地球にはこんなところが存在するんだ! っていう記録から始めたんですが、写真1枚を見て、「キレイだね」っていう感想で完結するんじゃなくて、もう少し自然へと足を踏み出すキッカケになってほしい。旅費が高かったり、忙しかったり、みんないろいろ事情があるじゃないですか? でも海に映画館があったら行ってみたいんじゃないかなと。そうやって、逗子の映画祭とシネマキャラバンは始まったんです。

極端に言えば、映画じゃなくても何でも良かった。でも俺が写真や映像を仕事にしている、表現のツールとして使っているから。自然の中に人を呼ぶこともできるし、自分の作品発表の場にもなる。これは、ちょうどいいと(笑)。そして、旅が好きだから、シネマキャラバンとして映画館をいろんな場所に持っていってしまおうと思ったんです。旅に出るキッカケにもなった。

旅の先にある関係性のために
映画館を持っていくんです

インドネシアの小さな島でも、日本の田舎でも、サーフボードを持っていたら、サーファー同士ならば「今日、波どうだった?」って仲良くなれるじゃないですか。サーフィンを入口にして繋がったら、そこから、こいつらどんな生活してるんだろうって、ぐんぐん興味を惹かれてしまう。その土地のご飯を食べ、酒を飲む。サーフィンに適した土地は自然が豊かなことがほとんどだから、食材が生き生きしていることも多いんですよ。そこで知り合ったヤツと食事してたら、その友だちがアーティストだったりミュージシャンだったりするわけですよ。じゃあ、一緒に海入ろうぜって。その感覚を伝えたいんです。だから、俺の海の写真は「引き」の写真が多いんだけど、その土地の空気感をどうしても入れ込みたいからそうなるのかもしれないです。

旅をして仲良くなった人たちにお礼をしたいんですよ。ミュージシャンだったら1曲歌えば良いし、料理家だったら食事を振る舞うことができるかもしれない。でも写真家は、その場でプリントできないから寂しいんです(笑)。映画館を持っていけば、一緒にシェアできるでしょ? スクリーンを建てる時に、例えばノコギリを使う脇で木材を支えているだけでも、一緒に何かを作った連帯感って生まれるんです。人と人とのコミュニケーションのカタチというか。そうやって現地の人とコミットしていくんです。 

映画祭やキャラバンには、自分を高めるための技術の交換という側面もあると思っています。大工、料理人、写真家が集まって、プロフェッショナルな個人の力を終結させて一緒に空間を作るわけじゃないですか。スケートのランプを作るときに、大工さんにいろんなことを教えてもらう。本職じゃないんだけど、生きるツールとしては身につけといて損はないはず。個人の人間力を上げていきたいんです。それをみんなでシェアしたい。例えば子どもが遊びにきて、「あのお兄ちゃんのスタイルがカッコいい」って思ったら、スケートを習えば良い。そういう当たり前の関係が子どもでも大人でも築くことができるのかなと。それが生きる力になっていく。サーファーとロッククライマーの自然の見え方も違うでしょ?それはすごく面白いことですよね。自然の遊び方も交換できるかもしれない。

(TOTAL TIME 00:56 |動画 撮影 斉藤正隆・上原源太 )

 

競うことが目的でない
1本の波を遊び尽くすために

ただ単に、波乗り中毒なんですよ(笑)。あの感覚は、体験しないと分からない。自然と遊ぶためのツールだから、自分は勝負には興味がないんです。でも上手くなりたい。競うためじゃなく、より1本の波を遊び尽くすことができるように。そのためには、実はカポエラのリズムが必要なんじゃないかと思っているんです。サーフィンを15年くらいやっていて、ある程度のレベルまではいっていると思うんだけど、2週間に1回くらいしか海に入れないから、上達もあんまりないんです。次のステップに行くためにはカポエラの柔軟性を取り入れたい。でも、3日ボウズなんですよね……。クライミングも身体の基礎バランスを鍛えるから、いいだろうなと思ってます。自分の身体のコントロールを変えたらどうなるのか。板をコロコロ変えないで、1本の板に決めて、自分の身体を変えて試してみるっていうことをやってみたいです。やっぱり、自分を高めたいっていうのが、すべての基本になっているのかもしれません。

志津野 雷(しづの・らい)
1975年生まれ鎌倉育ち。美しき風景をきっかけに写真を始める。その訪れた場所の背景にうまれる人や文化に着目し独自の視点で記録。世界中を旅し、いろんな問題を直視しそれらを写真で表現する活動を心がけている。近年では、ANA機内誌「翼の王国」等雑誌、Ron Herman等広告を中心に『境界線』をテーマに作品制作する現代美術作家栗林 隆氏の旅作品『YATAI TRIP PROJECT』に参加、世界各地で公演している騎馬劇団『ZINGARO』のドキュメンテーションの撮影とARTISTとの制作にも力を注ぐ。また、移動式野外映画館『CINEMA CARAVAN』主宰とその活動は多岐に渡る。
http://www.raishizuno.com
http://cinema-caravan.com/

CINEMA CARAVANとは
野外上映用のスクリーンでアウトドアでの映画の上映や、音楽、ダンス、アート、フードなどの様々なイベントを行う、移動式のクリエイター・キャラバン。移動式のキャラバンとして、様々なジャンルのクリエイターとともに世界各国、日本国内各地での日本のクリエイターをはじめとした映画の上映、アートイベントを行い、「クリエイティブ・エクスチェンジ」を行うことを目指しています。

2012年は逗子海岸映画祭を皮切りに、ap bank2012にも映画館を出現。秋には移動式映画館+移動式レストランによる東海ツアーを開催。9月8日、9日には名古屋の駅前矢場公園、9月15日、16日には静岡静波海岸ダチョウcafe。このキャラバンでは、東海地方の中でも、自然と共生しているエリア「静波」と東海の中心の都市である「名古屋」、違った特性を持つエリアにて場所が持つ文化のコントラストを明らかにしていく試み。