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SURF REALIZATION
信國太志
#02 波にのること、生きること

サーフィンは他のスポーツと根本的に違います。スノボやスケートボードといった他の横乗りものとも違います。どう違い、何故人はハマるのでしょう?またそんなサーフィンにおいてスタイリッシュであるとはどういうことなのでしょう?

江戸末期から明治の宗教家に黒住宗忠という人がいます。
彼が流鏑馬の会に招かれ、達人といわれた人の弓の演技を見せられて意見を請われると黒住はこう答えました。
「大変よろしいかと。しかし一つだけ言わせて頂くと馬に乗ろうとされてるのがよろしくない」
黒住は太陽のエネルギーに覚醒し万物はただ一なる力により生かされていると看破した賢人です。
そんな黒住が当時名人と謳われた人気の馬使いにみてとったのは名人の自意識なのでしょう。
黒住はこう付け加えました。「乗ろうとされるのではなく馬を走らせてみてはいかがか?」

サーフィンが他のスポーツと一線を隔すのは、その実それは波に乗っているのではなく乗せられているということです。

ニュージェネレーションといわれる新世代のかっこいいサーファーにはマタドール=闘牛士といわれる大変華麗かつ目立つステップによって板の上を舞うサーファーもいます。
しかし僕の仲間が口を揃えて言うのは「あいつ鼻につくよ」です。
やはりみんな本能的にそこを感じ取るのですね。黒住のように。

サーフィンの神と謳われるジェリー・ロペス。何故かれはそこまで人を惹きつけるのでしょう?
それはそのリラックスしたスタイルにあります。
リラックスしているとは過剰な自意識や乗ってるぞ感が全くないということ。即ち意識においても波と一体になっているということです。スタイルがないというスタイルがもっともスタイリッシュであるという逆説。

The best way to do is to be. することとはなること。そうジェリーさんは言います。
どこまでいってもするという感覚、波に乗るという感覚では、主体と客体、主語と述語の分裂によりハーモニーが生まれないのです。

これは生きること全てにいえること。

彼女、彼氏が欲しい、欲しいと思っていると全く誰にも相手にされないのに、あきらめたころに突然相手が現れる。彼女ができてもう十分だと思っているとさらに誰か現れる。そんな経験はないですか?

サーフィンをはじめて少しは乗れるような、乗れないような時。一番楽しく、夢中で沖にパドルアウト。でも気持ちが焦ってなかなかメイクできない時。僕はその日初心者のくせに稲村という聖地であきらめかけて夕陽を眺めてました。そんなときふと沖を見ると、美味しそうなうねりがもう直前に迫ってました。
パドルする間もなく進行方向を変えると全く意識しないままに板が走りだしていました。
まだ横に滑れないときだったのに自然な流れで見事に横に走るやインサイドの浅い地形に波は盛り上がり。
気づけば2階くらいの高さをかっ飛ぶカーペットの上で階下の友人を見下ろしながら疾走。
ヘタクソな僕が空飛ぶ奇跡に、友人達が信じられないとばかりにポカンと口を開けて見上げていました。
いつもは無様にバシャンと波に落ちるフィニッシュも、波が消える直前に沖側にリリースされ、それはまるで「ほらよ」とばかりに遊んでくれた波が別れを告げるような終わりかたでした。
「これがサーフィンっていうものなんだ」
振り向くと友人達が歓声を上げてました。
直前に夕陽の美しさに感謝の気持ちで見とれていなければ、全てを手放していなければ、こうした奇跡は起こらなかったでしょう。
このようにサーフィンは単なるスポーツを超えて生きることの本質を教えてくれます。

それは海のなかでどの波に乗るか/乗らないか以前に、たとえば天候によってはその日は安全を期して止めておくとか、そんな選択からすでに“委ねること”を学ばされます。
または流れに逆らい身の丈以上の波に瀕死の目に遭い、何かを気づかされるかもしれません。

サーフィンにおいてしゃにむに乗るのではなく流れに身を任せることを学べば、人生においても物事が自然に動き出すでしょう。

馬に乗る意識を捨て本当の乗馬が始まるように、生きるのではなく生かされる感謝に目覚めたときに本当の人生が始まるのかもしれません。

故・水野晴男調に言わせて頂きます。

サーフィンって本当に素晴らしいですね! では次回をお楽しみに。

信國大志/TAISHI NOBUKUNI
1970年熊本県生まれ。1994年渡仏、ジョン・ガリアーノの元で働く。1996年セントマーティン美術学校、修士過程(ウィメンズウェアー)修了。 1998年TAISHI NOBUKUNIを設立。2004-2008年、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブ・ディレクターを務める。2005年毎日ファッション大賞新人賞受賞。現在はBOTANIKA taishi nobukuniを手掛けるかたわら、今秋銀座にオープン予定のテーラーの準備を進めている。

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