fbpx

Interview: 信國大志
"一体化"というエクスペリエンス

BOTANIKA、TAISHI NOBUKUNIのデザイナーとして活躍する信國太志さんは、サーフィンやヨガに精通していることでも知られています。
本サイトでは、そんな信國さんが自身のスポーツ体験を綴る連載(全五回予定)がスタート。そのプロローグとして、彼が自身のサーフィン/ヨガに触れたきっかけからそのモチベーションまでを語ったインタビューをお届けします。

きっかけはジェリー・ロペス

サーフィンはしばしば「チャージする」と表現されます。
ジェリー・ロペスさんの言葉で言えば「波にコンセントを差す」ですね。僕は33歳でサーフィンを始めたんですが、ハマったきっかけは、ジェリーさんの存在を知ったこと。ヨガも彼がやっていることを知って始めました。

僕は海に入ると長い。五時間くらい入っている時もあります。
「コンセントを差している」状態だから、何時間でも入っていられる。すると自分と海の境界線がない状態になる。刻々と変化していく波のなかで、主体と客体が混在するような、すべてが一体化する感覚を憶えるのです。

陸に上がって友人と食事をしている時も、僕が友人か/友人が僕かが分からなくなる時がある。違う意識の層で自分と他人の境界線がミックスされているような感覚になるのです。

こうした感覚の話しはどうしても第三者にはオカルトに聞こえがちだし、実際に自分でも説明出来る術を持たないと、自分で自分のことをおかしいと感じてしまいそうで、そこから仏教や気についての考え方を、自分なりに学んでみようと思ったのです。

"気"の流れる道を意識する

ヨガとサーフィンの組み合わせは「ヨガで身体が柔らかくなってサーフィンが上手くなる」ということではなく、ヨガで培った“気の流れ”をサーフィンに応用することで、海との一体化まで自分を持って行けるということ。
気をすべて下腹部に集中させると脳は気が無い状態、つまりは停止状態となる。
だから分析能力や判断能力が無くなって、一体化する感覚が生まれるわけです。

あとは戒めですね。
ヨガは気を上げることで快感も覚える。エネルギーは放出ではなく保全するとさわやかになる。

チベットの有名な聖者にミラレパという人がいました。
彼は洞窟での長い修行を経て、師からの問いかけに対し、「人間の気の流れは二通りしかない。放出し続ければ動物に近くなるし、溜めて上げて続ければ神に近くなる。だから人間は神と動物の間の生き物で、どちらにもなれることが分かりました」と答えたといいます。
筋が通っていますよね。

学ぶことで開けていく

たとえば仏教を学ぶと、サーフィンやヨガのいろいろなことに合点がいくようになる。

たとえば自分を投げ出すというのは、本当に投げ出すのではなく、ある段階から“享受する”という考え方。悟るとは自分が無くなるという考え方で、つまりは「俺が俺が」というエリート意識へのアンチテーゼでもあるわけです。

ヨガって下腹部に力を入れますよね?
これは肛門が締って下りて来た気が通過することなく残る。
気とは上がって下りるものなんですが、ここで座禅でも言われるような、唇を下あごにつける感じを意識して、気が流れる回路を作る。するとメントールのような、ひんやりとした感覚が起きる。これが仏教の多くの本で書かれるところの甘露(アムリタ)なわけです。
でも結局サーフィンでエネルギーを得るということの理屈を問われたら、今もまだまだ分からないことだらけです。

テーラーとしての"無心"

たとえば波に乗れず、もまれてボロボロになるだけでもエネルギーを得ている感覚はある。
それはつまり波であり海水に浸かっているということ自体がエネルギーとして有効に作用しているとも考えられる。

これはランニングでも同じなのだと僕は思います。村上春樹さんは英語で文章を書かれる際、ランニングについて“void”(=虚空、真空)という単語を用いますが、直感的で分かり易いですよね。

今の自分は“受け身”の姿勢です。ピュアな指向が強くなると「ファッション面でのエッジな感覚を削いでしまっているのでは?」と葛藤した時期もありました。
でも最近は一度止めた肉を食べ始め、ピュアネスとは逆の行動でバランスを取ってみたり、物事をタイミングに任せてみたりしています。
ジェリーさんに“似てしまう”のは本意ではないし、ヨガも自分のなかで一段落がついた感じです。

僕はあくまで服屋であり、一職人でいたい。テーラーとして服作りの作業に専念する時間も、つまりは無心になることなんですよ。

信國大志/TAISHI NOBUKUNI
1970年熊本県生まれ。1994年渡仏、ジョン・ガリアーノの元で働く。1996年セントマーティン美術学校、修士過程(ウィメンズウェアー)修了。 1998年TAISHI NOBUKUNIを設立。2004-2008年、TAKEO KIKUCHIのクリエイティブ・ディレクターを務める。2005年毎日ファッション大賞新人賞受賞。現在はBOTANIKA taishi nobukuniを手掛けるかたわら、今秋銀座にオープン予定のテーラーの準備を進めている。

(撮影:村松賢一/文:内田正樹

【信國太志 連載:SURF REALIZATION】
#01 "What is yoga?"
#02 波にのること、生きること
#03 調和と同調の向こう
#04 ヨガの起源とは?