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(文 中島良平 / 写真 藤巻翔 動画 TOTAL TIME 00:44 記事最下段

書籍『BORN TO RUN』にも登場し、これまでに数多くのウルトラ・トレイルランニングのレースで記録を塗り替えてきたジェン・シェルトン。パタゴニアのトレイルランニング・アンバサダーも務める彼女は、9月に開催された信越五岳トレイルランニングレースにもゲストとして出場し、圧倒的なスピードで女子部門を制しました。
走るときには、水着のようなショーツとブラ姿で片手に1本のウォーターボトル、という超軽装。アメリカのヴァージニア州出身で、10代の頃はサーフィンを楽しんでいたという彼女は、どのようにトレイルランニングにのめり込んでいったのでしょうか?
独自のスタンスで走り続けるジェン・シェルトンに、信越五岳トレイルランニングレースの翌日に話を聞きました。

トレーニングの内容は、ランニングとスクワット

昨日とおとといは素晴らしい天気で、台風の後で少し地面がウェットだったから、木の根っこに足を乗せて滑らないように注意した場所もあったけど、本当にいい山だったわ。台風の後で空気も澄んでいて、景色も最高に美しかった。今回のレースは110kmのコースだったんだけど(ジェンの記録は12:09:25)、そんな距離を走るのは、トレイルランナーにとってだって大変。私のことを超人みたいに思ってる人もいると思うの。でも全然そんなことなくて、週に180kmを走る目安で、山でトレーニングをしている。

ただ、コーチについているわけじゃないし、あまり具体的なプランを立てているわけでもなくて、スローなペースが調子いいときにはスローで走って、山でのランニングを終えた後には、スピード力をつけるために平地を走ることは心がけている。あとは、スクワット。基本的に、山を走ることの大前提は、私にとってそれが楽しいことだから。それをより楽しむために、下半身を作る必要があるからスクワットをしている。すごくシンプルなことね。

トレイルランニングを始めたのは、友人からの誘いがきっかけ

私が育ったのは、ヴァージニア州の海の近くだったから、子どものころは山のスポーツをしたことがなかった。遊びでサーフィンをしたり、運動するのはすごく好きだったけど。ハイスクールの頃に、少しクロスカントリーもしていた。5kmとか10kmのコースを走る程度のものだったけど、それもいくつか好きなスポーツのひとつという感じだった。本格的なトレイルランニングを始めたのは、18歳のころ。18歳のころって、みんな何かを探し求めているじゃない? 私もそうで、ホントに退屈していて、何でもいいから何かをしたいと思っていたの。でもそれが何なのかわからない、みたいな感じで。そんなときに、友達に「50マイルのトレイルランニングのレースが開催されるんだけど」って誘われて、「うん、一緒に出たい!」って即答だったわ。それがトレイルランニングじゃなくてもよかったのかもしれないけど、でもトレイルランニングのレースに出るために山で走り始めたら、すぐにのめり込んでいったわ。

走りながら続けるテンションのコントロール

楽しんで走っているときには、頭の中で音楽が生まれてきて、自分で歌詞を思い浮かべながら曲を作ったりすることだってあるわ。走り終わった後にはその曲を忘れてしまっていたりするけど。でも、とくに長いウルトラ・トレイルみたいなレースを走っていると、“いま私は世界の頂点にいるのよ!”みたいに超ハイなときがあれば、気分は最悪でどうしようもなくローな状態になってしまうこともある。しんどくて落ちてしまっているような状態ね。そういうときに必要なのは、身体だけを使って無心に走ろうとしないで、意識を働かせること。いま自分が走り始めてどのぐらい時間が経っていて、どの程度の距離を走っているか。そういうことをきちんと把握して、このきつい状態を抜けるとまたハイな気分が戻ってくる、ということを自分に言い聞かせるの。私はわりと適当なところがあるから、気楽なほうだと思うけど、それでもやっぱり走りながらローになることはあるから、そのときには“このレースには誰かの命令で出場しているのではなくて、自分から参加したんでしょ!”“楽しいからトレイルランニングをやってるんでしょ!”って意識を働かせると、またハイになって、気持ちよくなれるのね。

ロードとトレイルそれぞれの楽しみ
この10年ぐらい、多くの人がロードランニングとトレイルランニングを種類の異なる2つのスポーツだと考えてきたと思う。でも私にとっては、基本的には同じスポーツ。いいランナーであれば、平地で走っても山で走ってもいいランナーなはず。

信越五岳トレイルレースで一番気持ちのいいトレイル「夢見平」(写真 藤巻翔)

ただ、トレイルランニングだと、常に速いスピードを維持することばかりが重要ではなくて、トレイルをたどっていくことが必要だし、スローダウンすることの意味合いがロードとトレイルでは違ったりする。あえて言うなら、ロードに夢中になっていくときには、自分のタイムをどうやって縮めるかを考えて少しシリアスになってきて、トレイルのほうがもっと気楽に楽しんでいるのかもしれない。いずれにしても、私はどちらもすごく好きだからエンジョイしてるわ。

トレイルならではのアドベンチャーの感覚

長いトレイルを一人で走っていると、世界と切り離されたどこかにたった一人でいるような感覚に陥ることがある。そういうときに、誰かが助けてくれるわけではないから、自力で意識を戻さなければいけない。自分だけしか存在しない場所から、元来た場所へ戻っていくことにアドベンチャー的な要素があるんだと思う。しかも、そこには野生動物もたくさんいる。マウンテン・ライオンがいたり、イノシシと出会ったり、普通だったら怖いかもしれないけど、私はトレイルランニングのそういう部分もすごく好き。今回の信越のレースでは、すごく見たいと思ってたタヌキを残念ながら見れなかったんだけどね。

そういう環境を誰かと一緒に走っていると、3時間もするといろんなものが共有できて、すごく近しい関係になることができる。ロードランニングでもそうかもしれないけど、私はトレイルランニングのほうがそういう部分が強いと思う。言葉を交わさなくてもお互いに信頼が生まれて、痛さや辛さだったり、美しい自然だったり、ハイな気分だったり、さまざまなことをシェアすることができる。個人競技でありながら、どこか深い部分で相手とつながれることができるから不思議なスポーツだと思うわ。

好きなトレイルはシエラネバダ

信越五岳のトレイルも、今までに走ったうちのトップに食い込む素晴らしい山だった。でも私にとってのベストは、カリフォルニアのシエラネバダ山脈ね。ジョン・ミュア・トレイルが最高。アメリカの最高峰であるホイットニー山にかかるコースで、アップダウンのきつい場所とゆるい傾斜との変化が気持ちよくて、空気も薄くて熊も多いんだけど、一歩ずつどう足を出すのかに気を取られず、テクニカルになることなく走れる山だからすごく好き。アメリカに行くなら、ニューヨークもロサンゼルスも無視して、シエラネバダをみんなにお勧めするわ。

(TOTAL TIME 00:44 |動画撮影 上山亮二)

 

パタゴニア トレイルランニング・アンバサダー石川弘樹さんとトレイルランニングを楽しもう

パワースポーツが主催し、パタゴニアがサポートしているトレイルランイベント『パタゴニア・ハッピートレイル』。パタゴニア トレイルランニング・アンバサダーの石川弘樹さんをナビゲーターに、日本各地の厳選したトレイルを楽しむことができるイベントです。

今年もまだあと2回、参加のチャンスが残っています。

11月20日(日)Happy Trail in 伊豆
募集開始:10月6日(木)

12月23日(金・祝)~24日(土)クリスマス/ハッピートレイル&パーティー in 湯河原&熱海
募集開始:11月1日(火)

『パタゴニア・ハッピートレイル』は初心者からご参加OKのトレイルランニングイベント。トレイルランに興味があるけど一人では・・・、なんて迷っている人にもぴったりです。
ジェンさんの記事を読んで興味を持った方は是非ご参加を!

お問い合わせ
(有)パワースポーツ
〒248-0007 神奈川県鎌倉市大町4-1-7
TEL:0467-84-8639 / FAX:0467-84-8640 / Eメール:info@powersports.co.jp

ジェン・シェルトン
パタゴニア トレイルランニング・アンバサダー。アメリカ生まれ。18歳でトレイルランニングを始め、数々のレースの記録を塗り替える。書籍『BORN TO RUN』では、著者のクリストラー・マクドゥーガルやスコット・ジュレッグとともにメキシコを旅し、世界最速の走る民族“タラウマラ”と出会って走る様子がドキュメントされた。ウルトラ・トレイルランニングのレースに出場を続けながら、近年では積極的にマラソンに参加し、スピードを高める挑戦にも意欲を見せている。