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“ランニングは、9割辛くて、1割気持ちいい”。取材の合間に、ポロっと出たこのひと言を聞いたとき、この連載の3人目がGAKU(-MC)さんで良かったなぁ、と思いました。

たしかにそう表現したくもなる要素をランニングというスポーツは含んでいます。また多くの人がこのことを理解できてもいます。走る気持ち良さに100パーセント酔いしれることができるランナーもいれば、また一方で、走るけれども、やっぱり辛いよ、と思いながら、でもやっぱり走ってるランナーも多いのです。

GAKU-MC。「DA.YO.NE」、「 MAICCA」で一躍脚光を浴びたEAST END×YURI(イーストエンド プラス ユリ)で知られるヒップホップユニットEAST ENDのMCだった彼は、現在ソロのミュージシャン、プロデューサーとして活動中。ap bank Fesではおなじみの、スポークスマンとしての役割も担っています。そんなGAKUさんは、音楽業界きっての熱烈なサッカー、フットサル通でもあります。観戦だけでなく、いまだ現役のプレイヤーとしてフィールドを駆け回る。基本にボールを蹴ることがベースにあって、体力づくりのためのランニング、リフレッシュのためサーフィン、さまざまなスポーツが彼のライフスタイルを彩っているようです。


GAKU-MC(ガクエムシー)
アコースティックギターを弾きながらラップする日本ヒップホップ界のリビングレジェンド。2011年にレーベル、Rap+Entertainmetを立ち上げ独立。“ラップで世界をプラスの方向に!”を合い言葉に精力的に活動中。2012年、キャンドルと音楽で心を繋ぐ音楽イベント“アカリトライブ”を立ち上げ、音楽による日本復興活動を続けている。また同年、世界二大共通言語、音楽とフットボール。それらを融合し、人と人を繋ぐ場所として【MIFA (Music Interact Football for All)】を立ち上げる。最新アルバム ”キュウキョク2”。エッセイ “世界が今夜終わるなら”。http://www.gaku-mc.net

1996年の“マイアミの奇跡”
それまでサッカーが大嫌いだった

僕は高校一年の秋に、小学生から続けていたサッカーを一度やめているんです。当時はサッカー部のレギュラーをとれるか、とれないかという瀬戸際で、もういいか、と。買ったばかりのアディダスのジャージの活かしどころに困ったあげく、ヒップホップと出会うんです。ブレイクダンスをはじめ、でもレギュラー争いから逃げ出すようなへたれでしたから、当然ダンスもうまくならないんです。最終的には、ブレイクダンスの後ろで鳴っている音楽に興味が移って、マイクを握り始めました(笑)。

サッカーをやめ、ダンスもやめ、プロのミュージシャンになってからも、運動はとくにやってきませんでした。それが、1996年の“マイアミの奇跡”(アトランタオリンピックにて、日本代表がブラジル代表を破る快挙を成し遂げた)をきっかけにガラリと変わるんです。実は僕はそれまではサッカーが大嫌いでした。一度挫折したものでしたからね。部活をやめたときは、サッカー部の連中が横で練習なんかしていると下を向いて帰っていました。1993年にはJリーグが開幕して、サッカーが世の中を席巻し始めたときも、すごく斜にかまえていた。絶対サッカーなんて見に行かねぇ、と(笑)。チャラチャラしてんじゃねーよとかって思ってましたからね。

でも、日本がブラジルを破ったときにガーっと泣いた。日本すげえぜーって。そこからはやっぱりサッカーが好きなんだなって思えて。すぐにボールを蹴り始めました。仲のいい友達に声かけて、チームを作って、ユニフォームもつくって、僕の第二のサッカー人生がスタートしたんです。

雨の日や寒い日も走る?
いや、サボってるときもありますよ(笑)

とにかく今、サッカーを通じて知り合った人たちが僕の周りに溢れています。ミュージシャン仲間も、よく食べにいくご飯屋さんも、友達が友達を呼んでいるような状況です。

26歳でサッカーを再開して、当然かつてはできたドリブルができない、トラップもできない、ほんとにしょげまくったわけですけど、一からたたき直すんです。それで、またサッカーをやっていくと、当たり前のようにうまくなりたいという衝動にかられるんですね。うまくなるためにはグラウンドだけの練習だけでは足りない。で、まず大人はどうするかというと、良い道具を買う、そして良い試合を見に行く、でもそれだけではダメだと理解し、自分の体力をあげないといけないという事実に気づく。僕もそれで、走り始めたんです。

だいたい朝起きて、ご飯を食べる前に30分。それがいつものメニューです。近所の河原を走るんです。サッカーのために、試合中、前線でパスをもらった際に前を向けるように、そういう理由ではじめたランニングは、結果的に本業であるステージに活かされることになりました。2時間ぐらいのショーも、ヘロヘロでだらしない感じで終わってた頃もありましたけど、走り始めてからは平気になった。いろんなディレクターの方にも、声の出し方変わったねと言われましたし、それは自分でも自覚できたんです。仕事にもかえってくることが分かると、より楽しく、一生懸命走るようにもなるんです。

でも、今日は雨だからいいや、寒いからいいや、とサボってるときもありますよ(笑)。

僕には走る理由がある。
16歳の頃よりも42歳の今の方がうまくありたい。

一般的な話ですけど、サッカーも、バスケットも、野球も、何かしらのスポーツを学生時代に本気で取り組んできた人には、かならず、“引退”という区切りがあります。天皇杯やJリーグを目指しているような人がいて、自分の目指してきた大会が終わり、プロとしての道が切り開けなければ、一線を退き、あっという間に身体が衰え、観戦専門になってしまうこともあります。もうあの頃のように本気ではできない、と思ってしまう。でも、スポーツを楽しむということにおいては一生現役でいられます。

なにしろ僕は見るよりも、やる方でなんとか食らいついていたいと思っています。まだまだうまくなるんじゃないか、先週までできなかったトラップができるようになるんじゃないか、そう思って毎日を過ごしてるんです。だからサッカー部をやめる前の、16歳の僕よりも、現在の42歳の僕の方がサッカーがうまいと思っていますし、そうありたいと思っているんです。

たしかに体力は落ちてますけど、絶対的に引き出しは増えています。思うんですけど、こんな風にポジティヴに思えているうちは、スポーツはすごく楽しい。結局、すべては準備だと思ってるんですね。今でもときどき、高校生なんかを相手に試合をすることもありますけど、走り負けしてもずる賢いプレイで勝ったり、自分ひとりのパフォーマンスだけでは勝てないけどチームプレイで勝負したり、けっこうやれてるんですよ。もっとうまくなる可能性がある、と思えるから、ランニングだって続けることができるんです。

その気持ちが僕を朝起こしてくれて、走らせてくれているんだと思いますね。

3年ぶりのワンマンライブ決定!!

GAKU-MC ワンマンライブ
「マイクチェックワンツーワンツーワンツー」

開催日:2012年12月12日(水)
会場:渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
開場:18時30分
開演:19時00分
お問合せ:duo MUSIC EXCHANGE TEL:03-5459-8716
チケットぴあ:http://t.pia.jp/ 予約電話番号(0570-02-9999)
ローソンチケット:http://l-tike.com/ Lコード(72520)
イープラス:http://eplus.jp/

【オフビートランナーズ アーカイヴ】
#01 小松俊之(OnEdrop Cafe代表)競うだけがランニングじゃない
#02 GOMA(ディジュリドゥ奏者・画家) 生きるために走る

(スチール撮影 松本昇大/ムービー撮影 室伏努/ 文 村松亮)