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新しいひとつの格闘技としてワールドワイドで拡大するMMA(Mixed Martial Arts=総合格闘技)。そのルーツは1993年11月にアメリカコロラド州デンバーで開催された最初のUFC(当時はUltimate Fighting Championship)にある。ヴァーリ・トゥード、ポルトガル語で「何でもあり」を意味するそのルールは、あらゆる格闘技で認められる攻撃を最小公倍数的に成立させるためのルール。そんなMMAが、見せる格闘技として産声を上げ、メジャースポーツとして成長しながらも、“Do sports”としても進化を続けている。

高校時代に学んだレスリングをベースに、日本の総合格闘技・修斗でプロデビュー。黎明期から独自のスタンスでMMAと向かい合い、トップファイターのひとりとして活躍してきた宇野薫さん。円熟期を迎えながら、今夏にはインストラクターとしてジムをオープンさせた。新しいステージへと向かう宇野薫というひとりの選手をフィルターに、新しいスポーツとしてのMMAを知る。

観る競技からやる競技、Do sportsへの変遷。

一部のマニアだけが試合会場に足を運んでいた時代に、その様子を一変させたのが宇野さんや、対戦経験もある佐藤ルミナらの世代。そのスタイルはストリートカルチャーやファッションとリンクし、同世代の支持を集めた。一方では、ヒクソン・グレイシーと高田延彦の対戦からスタートした格闘技イベント、PRIDEの誕生のきっかけにテレビで中継されるなど、MMAが広く知られることになる。

――宇野さんが修斗でデビューした頃と、今とではMMAを取り巻くシーンもずいぶん変わったと思います。

「そうですね。最初はPRIDEもヘビー級の選手がほとんどで、自分がプロレスファンだった頃そうだったように、身体の大きいスーパーマンやモンスターたちだけの戦いというイメージで見ていたと思うんです。そこから、桜庭(和志)さんが活躍したり、HERO’Sで軽量級のKID(山本徳郁)くん、(須藤)元気くんらの試合がゴールデンタイムに放送されたことで、より身近なものになってきたんだと思います」。

――そこでMMAの魅力に触れたファンたちが、競技そのものに興味を持ち始めるという流れに繋がってきてるんですね。

「練習する場所としてMMAを教えるジムや道場が増えたということもあります。自分の所属がフリーになり、たくさんの道場に出稽古に行かせていただくようになって、あらためて競技人口が増えているということを実感しました。自分も一緒に練習させていただくことが多いんですが、ハイエンドのプロ志望から、ファンの延長線上で体力作りとして通っている方まで、取り組み方は違ってもたくさんの方がMMAの練習をしています。昔は自分のように他の格闘技を経験している方が多かったんですが、今では格闘技のバックボーンなしに他のスポーツからMMAに転向したり、本格的にスポーツをやっていなくてMMAからスタートする方も多い。女性の方もかなり増えてきています」。

他の格闘技からMMAへ、MMAから始める格闘技。

――レスリングや柔道といった他の競技の経験者がMMAに転向するのと、格闘技経験がない状態でMMAを始めるのと、その違いはありますか?

「もちろんベースができているので、レスリングのタックルだったりボクシングのパンチといった、それまで経験してきた格闘技の技術は最初の武器になりますよね。ただ、それに頼りすぎると全体的なバランスが崩れたり、総合的に伸ばさなくてはならないところで壁になることもあったりします。逆に、経験のない方は、考え方というか姿勢が柔軟なので、偏らずバランスよく吸収して、満遍なくできるようになるのが速い。でも、器用にできるけど深みがないというか……。成長していくうえで、それぞれに長所と短所があるので、打撃、組み、寝技、ひととおりやってみてから、自分の武器を見つけ、手に入れる。そこから自分がどう戦っていくか、スタイルを模索していくのが次のステップだと思います。並行して体力をつけたり、試合をみて技を研究したり、知識を付けることでも伸びていきます」。

MMAの象徴としての「MIX」。

あらゆる格闘技のエッセンスがMIXされるMMA。それは、ただ技術やルールそのものだけではなく、考え方や姿勢までもMIXされていく。ひとつのものを極めていくことを美徳とする時代から、オープンにさまざまな要素を取り入れてMIXする時代へ。そんな新しい時代のスポーツとしてのMMAは、格闘技だけではなく他の競技やスポーツからも、“必要な何か”をMIXしていく。ブラジリアン柔術の代名詞的な存在、ヒクソン・グレイシーはヨガやサーフィン、ビーチサッカーにも積極に取り組んでいたという。

――いわゆるクロストレーニングというか、MMA以外のスポーツや競技、トレーニングが役立つこともありますか?

「ヨガは呼吸法や身体の柔軟性を高めたり、その効果がわかりやすいですよね。サーフィンはまったく違うものに見えるけど、体幹が鍛えられるし、ボードの上の不安定な状態で立つことで、バランス感覚が養える。マウントポジションを取った時に相手をコントロールするのにイメージが近い。元気くんのダンスもそう。リズム感はもちろん、筋肉を思い通りに動かす、自分の身体を制御するという点で、楽しそうで簡単にやっているように見えて、実際にやってみるととても難しいんです。それが上手くできると、関節の稼働域が広がったり、スタンドでのステップや相手との間合いの取り方にプラスになる」。

すべてがMMAのためになるという視点。

――そういった見方というか、考え方は最初からできていたことなんでしょうか? 例えば、何かをきっかけにできるようになったんでしょうか?

「最近になって、そういった視点で他のスポーツを観ることができるようになってきました。今フィジカル面を見てもらっているトレーナーと肉体改造に取り組むようになって、自分に足りない部分、肩甲骨の稼働域、体幹の強さ、それを意識してトレーニングするようになって、身についたんだと思います。若かったころと比較しても、ただ漠然と身体を鍛えていたことに気付き、今やっていることが、身体のどの部分を鍛えていて、それが自分のMMAの練習や試合にどう影響するのか、それぞれ得られる効果を意識するようになりました。そのおかげで、単純にリフティングできる重量が増えるといったことはもちろん、スパーリングのときのちょっとした動きでも、その違いが実感できるんです。そういったことを続けてきて、何かプラスになる要素があるんじゃないかって意識できるようなったんだと思います」。

――宇野さんも実際にそういったことをトレーニングに取り入れてますか?

「以前は、格闘技以外のことをトレーニングに取り入れるのは無駄じゃないか、今は格闘技に専念して他のことは引退してから楽しめばいいと思ってたんです。その考え方は息子たちを見てて、ガラッと変わりました。自分の子どもたちは、キッズレスリングとサッカーの教室に通っていて、その練習している姿を見てるとふたつを並行してやってることのメリットが見えるんですよ。レスリングで鍛えた体幹の強さで当たり負けしなかったり、サッカーのフットワークが効果的だったり。そうなると自分でもフットサルをやってみたいなって。ダッシュ&ストップ、パスを受けた時の判断のスピードや、そういう姿勢でやればプラスになりそうなことが多そうで。ジョゼ・アルド(現UFCフェザー級チャンピオン)もかなりサッカーが上手いそうで、ローキックの踏み込みや、足のさばきを見てると、やっぱりなと思うところもあります。他には、トライアスロンやトレイルラン。ハードだと思うんですけど、挑戦してみたいなと」。

次回、宇野さんの実際のMMAのトレーニング、またMMAファイターとして必要な資質、これからMMAにチャレンジしてみたい方へのメッセージなど、より魅力的なDo sportsとしてのMMAにクローズアップしていきます。

宇野薫(うの かおる)
総合格闘家(UNO DOJO所属)。プロレスへの憧れから、高校時代はレスリング部に所属。修斗でプロデビュー。第4代修斗ウェルーター級王者についたあと、総合格闘技のメジャー、UFCに参戦。惜しくもベルトには届かなかったが、トップ戦線で活躍。
宇野薫公式ブログ:http://ameblo.jp/caoluno/
Twitter:@caoluno
宇野薫が主宰する総合格闘技道場「UNO DOJO」公式ホームページ:www.unodojo.com

(文・聞き手 浅野じたろう(ATAQUE) / イラスト ナカオ☆テッペイ)