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キャンプと釣り。いま人気急上昇中のアウトドアアクティビティを一緒に楽しもう! と提案してきた連載も最終回。最後に登場するのは、カジュアルフィッシングの代表格バス釣りと、秋の夜長に楽しみたい焚き火キャンプのペアリング。贅沢な大人のキャンプ遊びのスタイルが、ここにあった。

「焚き火マイスター」として、焚き火の楽しみ方を数々のメディアで伝える猪野正哉さんがやってきたのは、山梨県にある西湖。富士五湖のひとつとして、湖畔沿いには数々のキャンプ場を有する、関東圏のキャンパーにはお馴染みの場所だ。でも今日の猪野さんは、いつものキャンプ&焚き火道具のほかに、もうひとつ携えているギアがある。そう、釣り竿だ。

「バス釣りをするのは20年ぶりくらいです。あのときは一日中やっても釣れなかったなぁ」

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猪野正哉(いの・まさや)アウトドアプランナー/焚き火マイスター。男性ファッション誌のモデルからライターとしてアウトドア業界へ。千葉県千葉市のアウトドアスペース「たき火ヴィレッジ〈いの〉」を主宰し、焚き火のワークショップなど焚き火の魅力を精力的に発信している。2020年、自身初の著書「焚き火の本」を上梓。Instagram:@inomushi75

猪野さんにとって、バス釣りはちょっぴりほろ苦い思い出のよう。ここ西湖は、バス釣りのメッカ河口湖と隣接し、実績も十分。なんといっても、富士山を臨む山上湖のロケーションがたまらない。なるほど、ここでキャンプをするだけでも充実した時間が過ごせそうだが、今回はさらに欲張ってバス釣りまで楽しもうという魂胆。

湖畔のキャンプ場に着いたら、はやる気持ちを抑えてまずはテント設営。そして夜の焚き火に向けて下準備を行う。細かい作業を明るい時間帯に完了しておくことが、キャンプにおける焚き火の成功のポイントなのだとか。焚き火を快適に楽しむための下準備を、猪野さんに教えてもらった。

明るいうちの、薪の準備

「たまに早朝から薪を割っている人がいますが、まだ寝ている周囲の人を起こしちゃいますから、明るいうちに必要な量の薪を準備しておきたいですね」

明るいうちにテントを張り、焚き火台の位置を決めたら、薪の準備を始める。焚き火台の大きさに合うように斧で薪を割っていくが、できることなら細く割るように心がけたい。「薪が太くても細くても、炎の大きさはそんなに変わりません」

そして割った薪は、よく燃えるように太陽の下に晒すのがポイント。

「天気が良かったら、日の光に当てて割った薪を乾かしておきましょう。地面に直に置くのではなく、シートなどを下に敷いて水分を拾わないように気をつけて。最近のアウトドア人気で薪も不足気味ですから、無駄なく有効に使えるように下準備をしておきたいですね」

薪割りの時に作っておきたいフェザースティック。火付けがぐっと楽になる

焚き火において、着火のプロセスで苦労したことのある人も多いだろう。着火剤を使うのも手だが、薪割りの最中にも、着火をぐっと楽にする工夫はできる。猪野さんがフェザースティックづくりのポイントを教えてくれた。

フェザースティックがあると、着火剤がなくても火がつきやすくなりますし、あれば確実に火がつきます。ソロキャンプの時なんかはこれを作る時間も楽しいんですよ。5〜6本あるといいでしょう」

一般的には片手で鉛筆を削るように作るのが基本とされるが、猪野さん流はひと味異なる(下写真参照)
両手でナイフをしっかりと持ち、体重をかけて削っていくのがコツ。この時、薪の端をしっかりと膝で地面に押さえつけて動かないようにする
両手だと力加減がスムーズにでき、フェザー部分が長く火の灯りのよいスティックとなる

試しにできたフェザースティックに火を灯してみると、みるみる燃え上がった! 驚いていると、もうひとつ、着火のためのTIPSを教えてくれた。麻ひもを使った原始的な火起こしだ。ナイフで丁寧にしごいていって、ふわふわになるように手でほどいていく。「最近は予めほどいたものも売っている時代になりました」と苦笑いする猪野さん。しかし、ファイヤースターターを擦ると、こちらもたちまちに着火! 確かに、静かな自然の中ではじっくりとこうした作業に没頭するぐらいの余裕は欲しい。

麻紐をナイフでしごいていく
紐の原型を留めないほどまでほぐす
メタルマッチを擦ると一瞬で点火。まさにファイアスターターの名に恥じない燃えよう

いよいよバス釣り開始!

焚き火の準備も整ったところで、いざ20年ぶりのバス釣り! といきたいところだけれど、目の前に広がる西湖、どこをどんな風に釣ったらいいか、初めてでは難しいもの。今回は自身もアウトドアが大好きだというプロアングラーの茂手木祥吾さんが指南役としてバス釣りをレクチャーしてくれることに。

茂手木祥吾(もてぎ・しょうご)日本のトップ選手のみが所属するJB NBC TOP50バスプロとして活躍し、現在は釣りのガイドの他、コーディネート、動画のクリエイティブなど釣りを軸に活動の幅を大きく広げている。Instagram:@motegishogo

ブラックバスはルアーという疑似餌で釣るのが一般的。魚のいそうなポイントにルアーを通すためには、まずキャスティングという投げる動作を覚える必要がある。遠くにルアーを投げられたり、狙ったポイントの近くに投げられることが、釣果につながるのだとか。

「右利きの人だったら、リールのハンドルは左巻きに変更しておきましょう。利き腕で投げられるようにすると、手首もうまく使えて投げやすいですし、魚がかかったときにも竿を握る力を込めやすいんです」と茂手木さん。

猪野さん、キャスティングのコツを早くも掴んだようでルアーが気持ちよく飛ぶようになった。茂手木さんによるとキャスティングは誰もが習得に少し苦労するらしいが、その飲み込みの早さに驚いていた。

選んだのはシャッドと呼ばれる、小魚を模したルアーだ。投げてリールを巻くと、まるで生きている魚のようにきらきらと光りながら泳ぐ。ルアーを泳がせているだけでも、ちょっと楽しい。

「ルアーは種類がたくさんあって選ぶのが難しいですが、そのフィールドのバスが食べているエサに合わせるのが基本です。西湖ならワカサギなので、ワカサギのようなルアーを使います。基本はゆっくり巻いていればOKですが、時々バスに気づいてもらえるように竿をあおって、動きに変化をつけてあげてください。ここに餌があるよって魚に教えてあげるんです」

一通りの釣り方を習った猪野さんは、集中した表情でルアーを投げ続ける。どんどん歩きながら、ポイントを探っていく。座ってできる餌釣りと違って、バス釣りはかなりアクティブな釣りだ。ずっと投げて巻いて、歩いて。ほとんど動きっぱなしといってもいい。

残暑きびしい西湖からは、なかなか魚の反応がない。それでも鏡のような湖面、雄大な富士山、鳥の鳴き声……大自然に包まれている感覚は、釣りに集中しているからこそ肌に感じられる。

「釣れない時間も贅沢でいいですね」

そんな言葉が自然に出るくらい、充実した時間が流れている。暮れなずむ湖面の美しさに、釣れない悔しさよりも満ち足りた本音がこぼれる。

まもなく日没というタイミングで待望の魚信が! ルアーとそう大きさが変わらないけれど、喰いついてきたのは紛うことなきブラックバス。一日の終りに飛び出した嬉しい一匹は、実は取材スタッフの釣り竿にかかったもの。隣で猪野さんは、初めて見るブラックバスに目を丸くしていた。「ホントに釣れるんですね」とは、猪野さんの弁。 

バスは口を掴むようにして持つと暴れない。今日の猪野さんは「バス持ち」の体験を果たした

残念ながら初めての一匹とはならなかったけれど、ルアーで釣れることを知って、猪野さんには俄然興味と、釣欲が湧いてきたようだった。しかし、日没を迎えたのでこの日はこれで納竿。湖畔のキャンプ場だから、日が沈むその瞬間まで釣り竿を振っていたのだった。

焚き火の時間の始まり

薄暗くなってきたキャンプサイトが、たちまちのうちに暖色に包まれた。明るいうちに支度を整えた薪がよく燃えている。日の沈んだこれからは、焚き火の時間だ。日中は残暑厳しいとはいえ、標高の高い山上湖。日が沈んでからは気温もぐっと下がっていたから、焚き火の温かさにほっとする。

焚き火を囲みながら、今日の釣りを振り返る。これはCAMP PLUS “FISHING”だからこその醍醐味だ。しばし歓談したあと、猪野さんと茂手木さんの会話は夜と共に深まっていく。

猪野「環境問題の話になると、釣りはよく話題に上りますよね」

茂手木「環境を考えて、西湖や河口湖ではワームというゴム製のルアーの使用が禁止されているんです。根がかりをするとゴミを湖に沈めることになりますから。同じ問題として釣り糸もありますね。残された糸が鳥とか、漁師さんに絡んでしまったり。環境のことを考えると、釣りをしないほうがいいという話になりかねないですが、清掃や環境活動に取り組む個人や団体、業界も増えています。環境問題とアウトドアって難しいですよね」

猪野「焚き火でもつけ始めに着火剤や牛乳パック、新聞紙を使うことがありますが、あれも見方によってはゴミを燃やしているわけです。暗黙の了解になってしまっているけれど、見直すべきことはたくさんありますよ」

心に触れる、焚き火の魅力

「いま、焚き火は非日常のものになってしまっている。俺達の世代は、火がもっと身近にあったからそうした風潮に違和感を覚えています。焚き火は特別なものじゃないんだよってことを伝えたいんです」

焚き火マイスターとして、安全に楽しめる焚き火を伝える猪野さんだが、忘れられない焚き火体験があるという。

「人生の大変な時期に、親に呼び出されたんです。親としても息子がどんな状況下を確かめたかったのでしょう。真剣な話をするときって、人の目を見ないといけないじゃないですか。それがしんどいくらいの状況だったんですが、実家がキャンプ場をやっていたので、焚き火を囲みながら話をしたんです。火があることで、目を見なくても話しづらいことを話せたし、それが伝わる。焚き火の力を感じました」

釣りと焚き火を楽しむ、贅沢な時間

焚き火を囲みながら、話が尽きない猪野さんに今日の釣りを振り返ってもらった。ひさしぶりのバス釣り、いかがでしたか?

「最初に話したように、若い頃にやったバス釣りは辛い思い出でした。20年ぶりにちゃんとやってみて、自分自身がちょっと変わったんだなと感じました。元々登山からアウトドアに入ったのですが、今は山頂を目指さない登山も楽しんでいますし、自然の中にいることが一番大切で一番気持ちいいと感じるようになったようです。釣れた釣れないはその後だなと」

釣りをしている時間そのものを楽しむ姿勢は、焚き火の火を見つめる時間を楽しむことに近いのかもしれない。猪野さんを見ていてそう思った。暖をとる、何かを焼くといった目的がなくても、ただ揺れる炎を眺めているだけで焚き火の時間は贅沢にゆったりと流れていく。揺れる湖面と木々のざわめきに耳を済ましながら糸を巻く釣りの時間も、やっぱりすごく贅沢だと思える。

焚き火と釣りで、豊かな秋の夜長を味わってみたい。CAMP PLUS “FISHING”の最高の季節は、まさに今だ。

Daiwa #go_fishing SS -STARTING SET-
バスのルアーフィッシングから、海での堤防のチョイ投げまで、あらゆる釣りに対応する釣り竿とリールのセット。全3回にわたってお届けしてきたCAMP PLUS “FISHING”でも、様々な種類の釣りで魚を連れてきてくれた。釣り竿の長さや硬さ別に3種類をラインナップ。価格:¥12,900(TYPE-1)/¥13,900(TYPE-2)/¥14,900(TYPE-3)

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「水辺を、遊び場に。」をキーワードに、初めての釣りからキャンプなど他アクティビティと組み合わせた釣りの楽しみを提案するウェブサイト。女子二人弾丸対馬釣行記や、onyourmarkでもお馴染みのフォトグラファー藤巻翔さんのインタビューなど、バリエーション豊かなコンテンツで釣りの世界との出合いを広げてくれる。
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