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現在開催中の世界最高峰の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」は今まさに佳境。今年も数々のドラマが繰り広げられましたが、パリ・シャンゼリゼのフィニッシュまで引き続き目が離せません。そんなツールに、2022年から女性版レースが加わることが大きな話題になっています。しかもそれが、あのZwift(ズイフト)のサポートにより実現したとのこと。その意義を考えます。

過去にも開催されていた女性版ツール

「女性版ツール・ド・フランス」は、実は過去に開催されていました。ツールがフランスのみならずヨーロッパ社会における一大現象であった80年代に、女性版レース開催の機運が高まり、1984年から2009年まで大会名や主催組織に変更はありつつも、レースが行われてきました。しかし一度中断したレースが再開されることはありませんでした。収益構造・競技倫理的に、女子レースをサステナブルに継続することができなかったのです。

しかしこの10年、女子のサイクルロードレースを取り巻く状況は変わりつつあります。賞金の男女同額化や、トップチームのプロ化(UCI ウィメンズワールドツアー)が進み、レースはライブで放送されるようになりました。2017年には女子プロ選手組合が組織され、日本の與那嶺恵理(えなみね・えり 東京五輪代表)選手がアンバサダーに就任したこともニュースになりました。

一方で女性版ツールに代わり女子ロードレースの最高峰と称されるイタリア一周レース「ジロ・ドンネ」は、今年はレースの生放送時間を担保できないとして、国際自転車競技連合によるレースの格付けではひとつ下のランクとされるなど、トップレースであってもオーガナイズが整わない現状もあります。

女性版ツールに関しては、2014年から「ラ・クルス・バイ・ツール・ド・フランス」というツールの名を冠したレースが男子レースの合間に行われてきましたが、男子レースが3週間規模の大会であるのに対して、「ラ・クルス」は主に1日開催で、レースとしては別物の印象でした。しかし2022年から、真に女性版ツールと呼べるレースが帰ってくることになりました。その立役者は、Zwiftです。


バーチャル世界のZwiftがリアルレースをサポート

Zwiftに関してはもはや説明不要なほどサイクリストに定着したオンライン・サイクリングプラットフォーム。実際のプロ選手も多くトレーニングやソーシャルライドに利用するアプリですが、Zwiftが今回女子レースの最高峰を復活させ、スポンサーする狙いはどこにあるのでしょうか。


まず第一に、Zwiftがリアルレースでの存在感を希求しているということ。すでに2020年に「ヴァーチャル・ツール・ド・フランス」、さらには「eサイクリング世界選手権」のプラットフォームとしてそのポジションを得ているZwiftが、リアルレースでのサポートを打ち出すことにより、レース志向のサイクリストへのアピールをしたいと考えるのは当然のことです。

さらに、女子レースであることも大きなポイントです。Zwiftはホームサイクリングを民主化した立役者の一人でありますが、フィットネス志向の女性をサイクリングに呼び込む需要喚起としても、女子レースをサポートすることの印象は良いはずです。そして何よりも、女子レースは現代サイクリングにおける最も革新的なムーブメント(少なくとも、そうであらねばならない)なのです。アスリートの権利向上やスポーツの平等性に向けて進展する女子サイクリングは、その他のスポーツに対してもその先鞭となる可能性を秘めており、Zwiftのサポートはその可能性をさらに推し進めるものになるかもしれません。

女子プロチームCanyon//Sramの『Zwift Academy』トライアウトの様子 (c)Zwift

Zwiftはこれまでにも、女性サイクリストのために注目すべきコンテンツを発信してきました。Zwiftでトライアウトを行い、優勝者はプロ契約が勝ち取れる「Zwift Academy」は当初女性専用のプログラムであり、過去の勝者は現在の女子プロレースで活躍中です。女性サイクリストのためのヴァーチャルグループライドイベントも定期的に組織されているほか、ワークアウトプログラムには出産前後の女性を助ける「Baby on board workouts」があることもその証左です。

ヴァーチャルからリアルへ。Zwiftのこの女性サイクリングへの情熱と投資が、どのような形で来年のレースに結実するのか。今年の男子ツール・ド・フランスが終幕に近づく中、楽しみでなりません。

女性版ツール・ド・フランスとなるTour de France Femmes avec Zwiftは、2022年7月24日(日)に、男子レースがフィニッシュを迎えたパリ・シャンゼリゼからスタート。8日間、全8ステージでのレースが予定されています。

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