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未だ収束の兆しが見えない新型コロナウィルス感染症(COVID-19)。下半期に入ってもマラソン大会開催の報を聞けたのはごく一部のみ。少なからずコンペティティブなハートを持っている人にとっては「走るモチベーションの維持」は今年の大きなテーマだろう。趣向を凝らすイベントが続々と発表されている世界のバーチャルレース。今こその楽しみを活用してみては?

朝夕の気温も下がり始め、本来であればロード、トレイル共に秋のレースシーズンに向けて、追い込みをかけているはずの9月下旬。しかしながら、相次ぐ大会中止の報によって、今もモチベーションのアップダウンを繰り返している人は多いのではないだろうか。「レースがなくて走るモチベーションを失った」「イマイチ“ギア”を上げきれない」とは、今年よく耳にする言葉である。

しかし、周りにはそのフェーズを抜け、来たるべき日のために黙々とトレーニングに励んでいる人がいるのも事実。果たしてどうモチベーションを復活させたのか、維持しているのか。日頃からトレーニングに精を出すランナー陣に話を聞くと、ひとつの答えとしてバーチャルレースの存在が浮かび上がってきた。

バーチャルにいち早く対応したアメリカ

「バーチャルレース」と聞いてもイマイチピンとこない人も多いかもしれない。それもそのはず、国内では最近になりマラソン大会の代替としてバーチャル開催するところが出てきたが、まだまだ活発化しているとは言えない状況だ。

一方アメリカは切り替えが早く、代表的なところでは6月末に開催される予定だった世界最古の100マイルトレイルランニングレース、Western States Endurance Runが中止を決定して間も無く、バーチャルレース『100miles to Aubern』を発表。GPSウォッチやアプリで録ったログを専用ホームページに上げ、1ヶ月間に100マイルを走りきるというルール(回数制限なし)のもとに開催した。

1回で走り切らなくてはいけないリアルなレースと比べると、楽に完走できる設定ではあったものの、完走者にはリアルなレースに負けず劣らずのバックルが贈呈されるとあって、最終的にはアメリカを中心に世界中から1712人のランナーが参加。うち1495人が完走している。

アメリカではその後も続々とバーチャルレースが増加し、フォーマットも浸透。ソロ、チーム(最大8人)などいくつかのカテゴリーを用意し、3ヶ月以内での完走をルールとした『Run the PCT』(アメリカ3大トレイルのひとつ、PACIFIC CREST TRAIL:2653マイル=約4270km完走を目指すレース)のように、壮大でチャレンジングなレースも生まれた。

チーム形式のレースは、期間、距離ともにロングスパンで一筋縄でいかないものが多いが、世界の情勢を鑑みて、モチベーションを維持するための主催者側の計らいと取れる。また、離れた場所にいるランナー仲間と力を合わせてトライできるという部分は、現代的なランニングの楽しみ方ともいえるだろう。

レースと表現してはいるものの、実際に誰かとコンペティティブに競うことはなく、普段のトレーニングのモチベーションキープ、友人とのコミュニケーションツールとしての効果が大きい。

ここからは、すでにバーチャルレースにエントリー経験のある3人のランナーの声をご紹介したい。バーチャルレースにどんな魅力を感じたのか。

参加者が感じたバーチャルレースの魅力

「“走る”ことを続けていた証のようなものをもらった 」岩垂晋(PRプランナー)

1人目はロングトレイルを主に取り組む岩垂晋さん。上述した『100miles to Aubern』にエントリーした。

緊急事態宣言発令後、山へ行けない代わりにランニングを日課とした岩垂さん。以降月間走行距離のボリュームは増したそう。

「自分は100マイルのレースを中心にトレイルランニングを楽しんでいますが、新型コロナウィルス感染拡大により緊急事態宣言が発令され、目標としていたレースは中止になり、行きたいと思う山にも自由にいけない期間が続きましたが、だからこそ“走る”ということだけは止めずに、毎朝少しの距離でも走り続けることにしていました。

その中、Western States Endurance Runのバーチャルレース的な位置づけとして100miles to Aubernが行われることを知りました。運が良ければランナーとして、機会があればペーサーとしていつか一度は走ってみたいと考えていた、長年の憧れのレースですが、チャンスがあるかどうかは運次第。

バーチャルではありますが、同じような思いをもつ世界のランナーと共に走り、100マイルを完走すればバックルがもらえるまたとない機会。即エントリーし、同じように走り続けている仲間のSNSでのポストを見ながら1カ月間、日々のランを楽しみました。周りでは、有名なLucky Chuckyの渡渉に見立てて近所の河を渡るセクションをコースに組み込むなど、1回1回のランにテーマを設けて楽しんでいる仲間もいました(笑)。

バーチャルレースが終わって1カ月後の8月初旬、アメリカからリアルなバックルが手元に届きました。これまで見たことのない金属と木で作られたクオリティの高い本気のバックルで、リアルの100マイルレースと同じ主催者の本気感が伝わってきて、すごく嬉しく、自慢のバックルとして他のバックルと並べて飾っています。今回、100マイルのレースではありませんでしたが、その間も日々“走る”ことを続けていた証のようなものをもらったと感じています。いつの日かWestern Statesへ、憧れが強くなりました」。

リアルなレースさながらのハイクオリティバックル。モチベーションを喚起するに充分な存在だ。

100マイルをメインに取り組んでいる人にとってアメリカのレースへの出走は憧れであり、完走して得られるバックルは特別な価値のあるもの。「バーチャルでもいかに楽しめるか」と、主催者がランナーズファーストの視点でプログラムを作ったことが伝わってくる。

「今年しか味わえないことがあるなら、それを楽しみたい」中島英摩(ライター)

続いては、『本当はかけっこが速いあの子になりたかった』を連載してくれた中島英摩さん。中島さんがエントリーしたのは『GVRAT1000K(The Great Virtual Race Across Tennessee 1000km)』。こちらは『100miles to Aubern』よりも一足先の5月1日にスタートし、8月末まで続いたロングタームのレースだ。

バーチャルレースを楽しんでいる中島さん。現在はバイク&ランのレース、Death Valley to Denali Virtual Endurance Raceに参加中とのこと。

「今年は春からほぼすべてのレースやイベントが中止になって唖然としている時、SNSでにわかに話題になっていたのがバーチャルレース。とにかくアメリカがどこよりも早かった! 彼らの行動力はすごい! まずはGVRAT1000kmというレースにエントリーしました。

4ヶ月間でアメリカのテネシー州を横断する約1000km。超苛酷なバークレイマラソンというレースの主催者であるラズの企画で、本来、彼のレースに出るには相当な実力と覚悟が必要です。とっておきの機会だと思いました。飛行機代もかからないし、仕事を休む口実を考えなくても良い。世界中の“変態レース好き”と同じ目標を目指すことができる。

こんなラッキーなことはこの先、二度とないかもしれません。コツコツ記録を登録するマメさは必要ですが、それも楽しめました。初めて月間500kmも走り、憧れの完走バックルを手にしました。友人を誘ってチームでRun the PCT(チームで2,653マイル!)にも参加したのですが、緊急事態宣言ですっかり走らなくなった友人が誰よりもたくさん走るようになったんです!

バーチャルレースに参加して改めて感じたことは、きっかけや目的はなんだっていいということ。走るのがただ好きで楽しくて、その軌跡が形になれば嬉しい。誰かに認められたらもっと嬉しい。コロナ禍がいつまで続くのかはわかりませんが、「今年しか味わえないこと」があるなら、貪欲にそれを楽しみたい。悲観してばかりでは心の健康が保たれません。走るのが楽しいという純粋な思いを、どんな状況下でもポジティブに活かせることが、わたしが元気で明るく生き抜いていく術です」。

バックルとともに届いたうれしい手書きのメッセージ。アメリカのレースらしいアットホームさはバーチャルでも。

新型コロナウイルスの影響が落ち着き、元の暮らしに戻れたとして、ヴァーチャルレースが継続して開催されるかは不確定。そう考えると、内面に問いかけるヴァーチャルレースには忘れられない思い出としての付加価値があるのかもしれない。

「バーチャルの方が僕の性分に合っている気がする」矢崎智也(焙煎所セールスマネージャー)

最後はアメリカのレースではなく、8月にUTMBが開催していた『UTMB for the PLANET』にエントリーした矢崎智也さん。バーチャルの方が「目的に純粋になれる」と感じたようだ。

Tシャツに穴を開けて本気度と遊び心を示す矢崎さん。自分のさじ加減で楽しみ方を調整できるのはバーチャルの魅力のひとつ。

「レースに出る意味を問い直すと、僕の場合『集中してる状態』を求めているんだと思います。残念ながら集中力がないので、リアルなレースは出る数を極端に絞ることで気持ちを高めてきました。バーチャルのレースでしか味わえないものが何か、そこに緊張状態はあるのか、自分の身体で体験したかったので今回エントリーしました。

本当は過去に出場したことがある大会か、国内のコミュニティが主催しているバーチャルレースに出たかったけれど、海外レースは未経験で国内はどこもやってない。そんな折にUTMBの企画を知って挑戦を決めたのは、2019年の小原選手の快走(関連記事:日本人にとって特別な大会となった UTMB2019)に興奮したことを、今でも記憶しているからです。UTMB2019開催中の同時刻、僕は高尾を走りながら経過を追っていたので、去年の小原選手を想像してヴァーチャルレースに臨めば、いいアクセントになる気がしました。

UTMB for the planetは期間中に「距離170km 、累積獲得標高10,000m」を分割しても構わないので走りきれば完走です。僕はノンサポートなので全て背負って走る事と、夜間の単独行動は避けたいので、今回は85km / 5000mD+を二日に分けて挑戦しました。

今回設定したルートはJR高尾駅からハセツネコースを経由して三頭山までをピストンするルート。これが1回ちょうど85km / 5000mD+なので二日連続で走ればクリアできる計算です。そうとう厳しいけれど、だからこそレースさながらの緊張感が生まれますよね。

結果は60km地点で日没を迎えてDNF。下山してリタイア収容バス(京王バス)に乗ってシャモニー(高尾駅)に戻りました。バーチャルとは言えど、UTMBの壁は高かった……。特にリスク管理をしながら、すべて自分でまかなうのはレースとは違った難しさがあります。

バーチャルレースの魅力は設定されたお題をもとに、各々がコースを考え、場合によっては分割して挑戦するので、結果を人と比べることに意味がないことだと思います。限りなく、自分の目的に純粋になれること。誰とも共感できなくたって”やりたいからやる”、それは本来走ってる理由に近い気がして粋だと感じました。『バーチャルがメインになる』と言うと少しオーバーですが、こっちの方が僕の性分に合っている気がしています」。

UTMB本番さながら、ストックも用意。楽しみ方は意識次第だ。

ホームページのランキングを見てモチベーションをキープするのもいいが、期間を設けたり、主催者が本来開催するリアルなレースに環境を合わせたり、自分なりのルールを設けてプロジェクティブに楽しむのが、バーチャルレースをより楽しむコツといえそうだ。

アメリカのバーチャルレースへの参加登録方法

海外のレースに参加してみたいが英文サイトは気が引けるという人も多いはず。ここで、多数のバーチャルレースを開催しているアメリカにおける参加登録手順を紹介しよう。

アメリカのレース登録はバーチャルに限らず、ほとんどがUltraSingup(ウルトラサインナップ)と呼ばれる総合エントリーサイトから行う。以下の手順と照らし合わせて登録を。

1:ホームページ右上の「Events」をクリック

2:レース開催時期や距離をボックスチェックで絞り込む(右上にFrom JPNのボックスチェックがある場合は解除)

3:下部に大会が表示されるので「City」の項目が「Virtual」となっているものから大会を選び、左側の「register」をクリック。

4:メイン画像右下にある緑色の「Register +」のカーソルをクリック(レースカテゴリーが複数ある場合は、サブウインドウが表示されるので出走するカテゴリーをチョイス)

5:下段へスクロールし、アカウントの確認、「Waiber」を確認、イニシャルを登録(例:YO、ETなどピリオドを入れず)し、「Next→」をクリック

 

6:支払い内容を確認し、「Checkout→」をクリックして完了。

UltraSingupのアカウント作成が別途必要(無料)になるが、いつかはアメリカのレースに出ることを考えているのであれば、この機会に作っておいて損はない。レースによってフィーは異なるが、相場は20~50ドルほど。ドネーションやオリジナルグッズを販売していることが多く、ついつい散財してしまいがちなので注意。

登録が完了するとメイン画面に「Record Results +」のアイコンが現れる。走ったログの登録はこのアイコンをクリック。タイム、距離、走った日などの情報(レースによってはSTRAVAやGPSデバイスのログのURLを登録)を都度入力してゴールを目指すことになる。

バーチャルレースは、リアルなレースでスタートラインへ立った時に体感する心臓が脈打つ緊張感や、エモーショナルな感情は味わえないが、完走後に完走賞やオリジナルグッズが手元に届くまで一呼吸あることで、リアルなレースとは違った、豊かな感情を得ることができる。何より走った成果が形となって返ってくるのは何よりのモチベーションとなるのではないだろうか。ランニングの新たな発見へ、ぜひ一度活用してみてほしい。

執筆者:高橋知彦

執筆者:高橋知彦

宮城県生まれ。東北高校出身。2011年よりファッション誌でエディターとしてのキャリアをスタート。学生時代は陸上部。第二回東京マラソンに当選したのを機にランニングを再開。2012年に『激走モンブラン!』の最放送を見たことがきっかけでトレイルランニングの世界へ。趣味が高じ2019年に(株)アルティコに入社し、onyourmarkの編集者に。その経験を生かし主にランニングにまつわる記事の取材、執筆を行う。