fbpx

ランニング界、特にトップ選手の足元を大きく変えたナイキの〈ヴェイパーフライ〉シリーズ。それは、主にパフォーマンスアップという部分で大きな結果を残した。〈ヴェイパーフライ〉シリーズは、ランナーの疲労を防ぐという部分にフォーカスしたイノベーションだったといえる。

次にナイキが目を向けたのが、多くのランナーにとって切実な問題である“怪我の軽減”だという。そのコンセプトを表現する最初の製品が、発表になったばかりの〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉ということになる。

〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉開発のキーパーソンに聞く

今回、〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉の開発に関わったナイキフットウェアのバレット・ホルツ、フットウェア・リサーチ・ディレクターのジェイ・ウォルベッツ、ナイキ・NXT・スポーツリサーチラボのマシュー・ナースの3名に話を聞くことができた。

まずは製品開発に関わるバレットから、今回のコンセプトが生まれたきっかけが説明された。

「ナイキがシューズに対するアプローチを大きく変えたきっかけは、マラソンで2時間を切ろうというプロジェクト〈BREAKING 2〉が始まりでした。そこから学ぶことは多くありました。それはランナー全てに速く走ってほしいという挑戦であり、先日エウリド・キプチョゲ選手が2時間を切るという結果を残しました。それを経て私たちはもう一つの問題を解決したいと考えるようになりました。それが怪我を減らすという課題です。これはスタートラインに万全な状態で立たなくてはならないエリートランナーにとっても、走ることを楽しみ続けたい初心者ランナーにとっても等しく切実な問題です」

これを踏まえて、科学的なアプローチで課題解決に取り組んだのが、ナイキ・NXT・スポーツリサーチラボのマシューだ。

「1980年に設立された私たちのラボでは、現在65人のメンバーが科学者という立場から客観的にアスリートの課題解決に取り組んでいます。ヴェイパーに関してはランナーの疲労を防ぐことにフォーカスしました。パフォーマンスの問題はある意味、測定できるため立ち向かいやすいものでした。一方、怪我は客観的に捉えにくい。リサーチの方法も考えなくてはなりませんでした」

これに対してジェイは率直にこう語る。

「怪我を減らすということについては、業界を通してわかること、わからないことがありました。どんな怪我があるのかはわかっています。しかしその原因は十分にわかっていません」

プロネーション対策からクッショニングへ

これまでの怪我対策といえば、プロネーションを防ぐというのが定石だった。つまりモーションコントロールのアプローチだ。ただし、当然だがこれで防げるのはプロネーションに起因する怪我に限られた。

「そこから一歩外れて、他の問題を探ろうと思ったんです。その時に立ち返ったのはアスリートの声を聞くということです。彼らが、どういうことを気持ちよく感じているか、正しいと感じているかを聞いてみました。そこから出てきたのが、クッショニングのあるシューズは気持ちよく、正しいものであると感じるというものでした。私たちはそれを信じて開発を進めました」とジェイは続けた。

DSC00560

開発チームが行ったのはミッドソールにリアクトフォームを採用し、これまでより24%フォームを増やすということだった。また、ソール形状をロッキングチェアのような構造にすることにより、かかとにインパクトがかかってもスムーズに重心が爪先に移動するようデザインした。一方、より幅広になったフォームによって、安定感を増し、横振れを防ぐことでモーションコントロールに関わる部分も補っている。

DSC00565

足型に関しても新しいラストを採用することで、アーチ部分のサポートを強化し、三重構造になったフライニットアッパーと相まってサポート性や安定感を担保している。

DSC00557

ランニングの怪我を52%軽減

ナイキは〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉の効果を検証するために、カナダで大規模な実験も行っている。226人の男女に12週間のランニングトレーニングプログラムを実施。

〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉は、〈ナイキ エア ズーム ストラクチャー 22〉(モーションコントロールにフォーカスしたシューズ)と比較して、ランニングの怪我を52%軽減した(「怪我」の定義は、参加者の判断により、ランニング関連の痛みで、3日もしくはそれ以上連続してランニングができなかったことを指す)。

研究結果によると〈ナイキ エア ズーム ストラクチャー 22〉で走ったランナーの30.3%が怪我を経験したが、〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉で走ったランナーは、14.5%のみが怪我を経験したという。

react-infinity-run-6_native_1600

ナイキテクノロジーの次なるターゲットは「怪我の軽減」

開発者たちは〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉が、ナイキの怪我を減らすプロジェクトの始まりに過ぎないと強調する。怪我のメカニズムをさらに知るためにクッショニングの方向性に限らず研究を続けていく。また、怪我への対策はプロダクトだけではないともいう。アプリやNRCを通じたトレーニングプランの提供や、リカバリーのアドバイスなども行なっていきたいと、この分野へ力を入れて行くことをうかがわせた。エリートから市民ランナーまで、すべてのランナーに関係する「怪我」という課題。ナイキがこれにどう取り組んでいくのか注目だ。

来年の発売を前に〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉を体験

〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉の発売は2020年1月30日とまだ先だが、ひと足先に実際に体験する機会を得た。

DSC00561
DSC00567
DSC00568

新国立競技場の周りを4kmほど走ってみると、心地よいクッショニングと同時に、左右にブレることのない安定性を感じた。また、アーチを押し上げる感覚は独特だが、2kmほど走るとその感覚にも慣れてきた。怪我の頻度を左右するとされるスローペースのつなぎランの際にはぜひ使いたいシューズだ。また、そのライド感から、ランナーのレベルに応じてテンポ走などでも十分活用できるだろう。デイリーユースを考慮して耐久性の高いリアクトフォームを採用。400マイル(640キロ)程度は保つという。怪我のない一年を過ごすためにも、年始の発売の際はぜひ試してほしい。

FBB52948-A207-406C-951B-E15EEBC2658B

〈ナイキ リアクト インフィニティ ラン〉は、1月30日からNIKEアプリ、NIKE.COM、及び一部のNIKE販売店で発売予定。価格は税別1万6,000円