2019.10.07 - 08:58

死闘を終えて 大迫傑自身が語るMGCの展開

(写真 古谷勝 / 文 松田正臣)

多くの人々の心をとらえたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)から一日置いて、大迫傑に会うことができた。朝からTVの生放送に出演するなど忙しい一日の合間、わずかだけ言葉を交わす。少し引き摺り気味の脚を見て、痛みますかと尋ねると「今日になって痛みが出てきて。結構疲れましたね」と激闘の後の疲労を隠すこともない。レース直後だからか、7月にポートランドでトレーニングを見たときに比べても、ひとまわり絞られている印象だが、表情はスッキリしている。

ただ、「ラストすごかったですね」と声をかけた時は、「最後は、キツかったですね」と少し悔しそうな表情を見せた。彼の中では、レースを走った充実感と、当然ある悔しさが拮抗しているのだろう。けれども、東京マラソンをリタイアした時とは比べようもない心の落ち着きを感じた。

大迫から見たレース展開
改めて、複数メディアによる取材が行われた。まずは、暑熱対策に関して質問が飛んだ。

「暑くなるのは予想していましたし、できる限りの対策はとっていました。トレーニングに関しては言えませんが、見える範囲ではしっかり氷をとるとかそういう基礎的なところですね。(氷を頭に入れていたのは)氷自体が助けになってくれるので、頻繁に置いてあるものをなるべく摂りながら、というところ。走っている時はみんなそうですけど、一生懸命なので暑くてキツいなというのはないです。結果的に最後、ちょっと疲れが出たりっていう人はいるかと思いますけど。走っている最中に『今日暑いな』とは考えていないですね」

レースはご存知の通り、設楽悠太がスタートから逃げを仕掛け、それを追う集団の中で細かな駆け引きが行われた。レース展開を大迫自身はどう分析しているのだろうか。

「設楽選手かどうかはわからなかったですけど、誰かしら出る可能性もあるなって思っていました。もちろん最後までいききる可能性もありますけど、一人でいくのであれば落ちる可能性の方が高いかなと考えました。それで、(追わずに)ああいう対応をとったって感じです。あとは、良くも悪くも僕を中心にレースが動いていたなっていうのは感じていました。設楽選手がいったときに誰もついていかなかったっていうのは勿論そういうことですし。

集団から二人目が出た時に、本当はもうちょっと様子を見ながら誰かがつくのを待ってと思っていたんですけど、僕が反応しないといかれてしまうというところで、ちょっと焦りがあったのかなって思いますね。普段、そういう場面では一呼吸、二呼吸置いている間にみんながいくんですけど、今回はいかなかった。それで自分が最初に反応したというところです。

仕掛けどころとしては、最後の最後で勝てばいいかなと思っていたので。力を蓄えてっていう風に考えながら走っていましたが」

37km付近で集団がペースダウンしてきた設楽悠太を捉え、40km付近の上り坂で中村匠吾が勝負を仕掛けた。

「あの時は一杯一杯だったので、ついていくしかないっていうところでしか考えていなかったですね。脚が残っているかどうかと考える余裕もなかった。勝負を焦ったかと言われると…。勝負を焦ったっていう言い方って多分すごく余裕があって、この状況で勝てるって思っているときに出てくる。ちょっと違うんですよね、それとは。焦ってはいないです。ただ単にあそこは粘るしかなかった。それ以外の選択肢はない。(2位を狙うという選択肢に関しては)あそこで溜めたところで、服部選手もおそらく最後まで残っていたかと思うんですよね。なので、溜めたから2位になったかというわけでは無くて。

みなさん最後の最後だけ集中して観ますけど、それ以前に勝負は大きく変わっていたなって思います。(集団の中で)誰かが動いたところでいかに冷静に対応していたか、とか。僕も冷静に対応したつもりだったんですけど、それ以上に服部選手などの方がうまく対応していたんじゃないかなって思います」

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勝負の起点は15km付近にあった

勝負はラストの部分でなく、それ以前の動きにあったと考えている大迫。では、それはどこにあったのだろうか。

「15kmのところの判断ミスではないんですが、ちょっとした掛け違いが最後1kmに出たなって。正確には覚えていないんですけど、最初に鈴木選手か山本選手がいった時に一番に対応して。そこだけではないんですけど、悪いサイクルにハマっていったっていうと言い過ぎかもしれないけど、一つ分かれ道だったというところです。

(マラソンの難しさというところは)いかに自分を信じられるかっていうところと、あとは最終的には精神力なんだなって。トラックとか他の競技以上に小さい判断っていうのが後半に出てくるなっていうのはすごく感じました。これがハーフマラソンだったらそんな大きな差にはならないですし、スピードがあれば勝ちきれると思うんですけど。小さなこととは言わないですけど、ひとつひとつは小さな判断だったり、小さな動きとか焦りとか、そういうのが積み重なって大きくなるんだなっていう」

美しいと言われるランニングフォームに関しても思うところがあったようだ。

「今回、学ぶことはたくさんありましたし、終わった後トレーニングに関してもコーチと話をしました。MGCに残った選手を見ても、走りの共通する部分があると思うんですよ。そこから学ぶことはあると感じています。(フォームに関して)ダイナミックな動きのままでいくべきなのかどうなのかっていう疑問としてもちろんありますし。そこに答えは見つかっていないですけど、今後改善する余地はあるなって思いました」

中村や服部の動きの小さい、省エネルギーのフォームは、最後のところに力を蓄えるのに役立った。スピードに強みのあるダイナミックで美しいフォームの大迫だが、次に向けてさらにバージョンアップが行われるのかもしれない。いずれにしても、向上心の塊のようのな彼だから、より高く精度を上げたトレーニングを通して、次の挑戦に向かっていくだろう。

厳しいレースを終えた満足感とライバルとの連帯感

レース展開や順位の問題はあるにせよ、レース後のコメントや表情から、やりきったという感覚を大迫から感じた。練習をこなし、最後まで走りきれた、そうした満足感があったのではないかと尋ねてみた。

「2番に入れなかったっていうのは非常に残念っていうのは大前提で、焦りの中で本当にゴールできるのかなって思った時もありますし、強い気持ちを持ち続けて最後までゴールできたっていうのは、僕にとっては大きい。僕自身はメンタルの部分で強いものを持っているなっていうのはすごく感じました。

あとは走った選手も含めて、すごいプレッシャーの中で戦ってきたと思うんですけど、そういう選手たちに対するリスペクトとか。もちろん敵同士ではあるし、直接話してはいないですけど、終わった後で、そういう部分を共有できたんじゃないかな。本当に悔しくて話せない選手もいるとは思うんですけど、多くの選手がすごくほっとした表情を見て、みんな少なからず同じ部分はあるんだなって。もちろんこれが終わりではないですし、まだレースがあるので狙っていくところではあるんですが、ひとつこのマラソンが終わったので、みんな気持ちを切り替えて頑張っていこう、みたいなところはあるんじゃないですかね」

ライバルを意識しないと公言する大迫だが、レースが終わってみれば一緒に戦った選手に対する連帯感を感じていた。ライバルを認め、自分自身を認めるMGC後の彼に、ランナーとしての成熟を見た。

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ヴェイパーフライは、フォアフットだけのものではない

「〈ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%〉と〈ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%〉で大きく変わったのは、僕の中ではクッション性と、アッパーの部分です。クッション性に関しては、より足を守ってくれる、溜めやすくなったっていうのはありますね。フライニットは好きなんですけど、雨の中でちょっと重くなるというのがあったんです。でもこのアッパーになってからはそれもなく。今回は、雨は降らなかったですけど、暑いとどうしても水をかぶったりとかするのでシューズも重くなる。それもなかったので。常に快適に走れたという部分があります。

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市民ランナーにとっても、履きこなす、こなせないっていう意見もあるんですけど、そんなことはなくて、誰でも履ける。特に今回優勝した中村匠吾選手は、今流行りのフォアフットっていうものではないですけど、しっかり履きこなしていて、どのフォームだから誰だから履けないっていうのは無いと思います。

アドバイスをするのであれば、このシューズってある程度マイレージ(走行耐用距離)が決まっていて無駄遣いできない。毎日練習で履くっていうのは難しいと思うんです。これに似ている〈ナイキ ズーム ペガサス ターボ 2〉とか、〈ナイキ ズームフライ 3〉とか、傾斜(ドロップ)などが似ているので、それで慣れるっていうのが良いんじゃないかなって思います」