MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)に合わせてランニング特集号として発売された『mark』12号。MGC直後の9/17に発売記念イベントとして、代官山蔦屋にて公開座談会を開催した。最新号で尽きぬマラソン愛を語ってくれたフルマラソンサブ3が目前のモデルJenniferさん、箱根6区のスペシャリストで今も現役の桃澤大祐選手(サン工業)、EKIDEN NEWSの西本武司さんのお三方が、誌面を飛び出して再びトークセッション。MGCが激しいレースとなったこともあり、会場は立ち見も出るほどの満席に。さて、どんな話が飛び出すのか……。

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右から、西本さん、ジェニファーさん、桃澤選手、司会進行のmark編集部 小俣雄風太

激闘となったMGCをまずは振り返る

mark── MGC直前座談会では「観る場所が肝心」というお話もありましたが、みなさんどこから観戦されたのでしょう?

西本 外苑前にずっと張り付いていました。二度とあるかわからないレースだから何が起こっているのか、その目撃者になろうと思って。入りから、アップ、スタート、そしてゴールの瞬間。張り切りすぎて、着いたのは朝5時半くらい。日本陸連の人からも「もう来たんですか?」と笑われました(笑)

桃澤 僕も同じくらいに行きましたよ!

mark── 本誌の座談会でも「レースの2時間前にスタート地点にいることがおすすめ」と西本さんからお話がありました。まさにその通りの動きですね。

ジェニファー 私は少し遅くて7時頃にスタート地点に行ったけど、人が多すぎてほとんど何も見えませんでした。友人と「ディズニーのパレードみたいだね」と話していました(笑)

西本 お客さんの雰囲気が東京マラソンや箱根駅伝とも違っていましたね。大会そのものやお祭りムードを楽しんでいるというよりも、「この人を応援したい」という明確な意思を持っている人が多かったんじゃないかな。

桃澤 実際、応援する時に選手の名前を呼ぶ人が多かったですね。自分は上京して、スタートの様子を生で観た後は車に戻ってワンセグで見ていました。現場に行くと井上選手を応援してしまうから。

*編集部注……桃澤選手は山梨学院大学同期の井上選手と直接には話さない仲ながらライバル視している(mark12号参照)

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西本 わざわざ長野県の伊那から東京に来ているのに、ひん曲がってるよね〜(笑)

会場(笑) 

ジェニファー 私はスタートしてからはラジオで聞きました。ラストは場面を想像しながらですけど、すごく盛り上がりましたね。そうそう、同時にツイッターでも追いかけましたよ。女子は後でTVで見ました。

4強の一角、井上大仁の走りについて

mark── 桃澤選手は井上選手と同級生であり、一緒に箱根駅伝を走った仲ですが、今回の井上選手の走りをどう見ましたか?

桃澤 西本さんがSNSで投稿した写真を見て、彼の調子が一番悪かった大学2年生の頃と全く同じフォームだったのでびっくりしました。

西本 会場入りの段階から表情が固くて、いつものような笑顔が見えなかったのが気になりました。これがオリンピックへのプレッシャーか〜と感じましたよ。

MGCを開催する理由

西本 力のあるはずの井上選手が力を発揮できない。これがMGCを開催する本当の目的だったんだなと思いました。日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクターの河野氏も言っていましたが、オリンピックに出るということはとてつもないプレッシャーを受ける。マスコミからも追われるし、自分と向き合って戦わなければならない。そういったあらゆるプレッシャーに打ち勝つのも含めてのMGCなんだ。一番の注目が集まったなか、3位に入った大迫選手は本当に強い。

mark── ファンは2位以上を期待していたと思いますが、3位に入ったということに強さを見たということですね。

西本 みんな念入りな準備をしている中、反対に設楽選手はプレッシャーを逆手にとって、特別なことをせずに、普段通りに走った。中村選手は注目が集まらなかったが故にプレッシャーがない中で準備できたことが大きいでしょうね。

桃澤 いつもの大迫選手らしさは見えなかったが、それでも走りきった姿から「勝ちに行きたい」という強い意志が見えましたね。

西本 僕には最後の最後に弱気になった大迫選手が見えました。ゴール直前に何度も何度も後ろの服部選手を振り返っている。服部選手はそれを見て「これはいける」と思ったの違いありません。そこまでに自分の力を使い切ってしまった。しかし、これも色んな見方ができますね。本番までの練習の持って行き方や、前半に設楽選手にかき乱されたとも言える……

桃澤 設楽選手、めちゃくちゃ動き良かったですね!

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サプライズを起こした絶好調の設楽

mark── 25kmから足が重かったという設楽選手のコメントもありましたが、3分台で走っていた前半はやはり調子が良かったんですね。

西本 3分以上で行くと、むしろ調子が悪くなるほどに調子が良かったと見えます。キロ2分58秒でもグングンいけるくらいの調子の良さだったから、後ろの集団に合わせてしまうと逆に疲れてしまう。

桃澤 3分5秒台をキープしていれば設楽選手が勝っていたんじゃないかな。一発選考というのはみんな初めてというのもあり、前半は自分がどう戦うか迷っている選手が多かった。

ジェニファー みんなが設楽選手を追わないからびっくりしました。

西本 全員が設楽にかき乱された。そして大迫を見た。大迫は結局追わなかった。

mark── スタート前に、ナイキを履く選手はみんなペガサスターボでアップをしているなか、設楽選手だけがフリーを履いていたという情報がありました。

西本 一般的には本番と同じくらいのイメージを持てる底の厚いシューズを履きたいはずなのに、一人だけフリー履いて笑顔でアップしていましたね。一番、その場の空気を楽しんでいるように思えました。だからこそ、一番周りを見れている。だからサッと前に出れる。

mark── あれだけの走りをしてレース後はさらっとしたツイートでした。


西本 でも彼は本当にこんな気持ちだったんだと思うよ。

中村には二段目のギアがある

桃澤 最後の坂で勝負に出ると決めていたから、中村選手は勝てた。彼のスパートを見て、これは大迫選手でも追いつけないと思いました。

西本 箱根駅伝ファンにはおなじみなんですが、中村のロングスパートには二段目のギアがあるんだよね。残り3kmでスパートをかけた時、一般の人はこれは無理だろと思ったかもしれないが、僕ら駅伝ファンとしては「中村の二段ロケットが来た」と。彼は箱根1区のスペシャリストだった。1区というのは、終盤2kmでスパート合戦になるんだけど、それを制し続けた男なんです。だからこそ自信をもってスパートをかけた。

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箱根駅伝に見る中村の強さ

mark── 中村のスパートを見て、服部と大迫に危機感はあったのでしょうか?

西本 大迫選手はどうでしょう?あまり箱根駅伝には興味がなさそうだから(笑)、中村の二段ロケットは頭になかったと思う。でも服部は悟っていたかもしれない。

桃澤 服部選手は箱根2区の人だから、中村選手のスパートを間近で見てきている。知っているはずです(笑)

西本 そこで大八木監督が「ヨッシャ!」ってやるところまでがセットなんだよね〜。(会場 笑)

桃澤 中村選手は設楽選手と1区で一緒に走っているけど、ラストの数キロで30秒以上設楽選手をぶっちぎっているんですよね。それくらい強い。


西本 今回のMGC最後の坂に似た坂が砧公園の近くにある。彼の朝ジョグ12kmのコースですね。駒沢大学では月水金そのコースを走るが、彼はいまだにその朝練コースを走っているんです。ちょうどいい、同じような坂。それは大八木監督が考えた、普段の練習から箱根の5・6区、2・9区を走れる選手を養成するというもの。登って平坦があって登って、という綿密に組み込まれた左回りの信号無しのコースなんです。

MGC選手にみる、それぞれのスタイル

ジェニファー 松田瑞生選手のセパレートウェアがかっこよかった。岩出選手と上原選手もスタイルがありました。

mark── mark12号の座談会の中でも、選手たちのスタイルが話題になりました。MGCを経て、選手たちのスタイルも変わって行くのではないかと。一方の男子選手は穴空きウェアが目立ちました。

西本 富士通のチームウェアはデサントで、レーザーカットによって穴を開けていました。元々は、アメリカのリオ五輪の代表選考レースの際に初めて登場したスタイルです。その時に「やっていいんだ!」と話題になりました。その後、アジア大会で井上大仁が自分で切ったものを着用してからは、いろんなメーカーがやり始めた。

桃澤 中村選手、井上選手はヘソ出しのスタイルで体温が上がりすぎないようにしていましたね。特に夏場は効果的だと思います。

西本 今回のMGCでのトレンドは手のひらを冷やすこと。太い血管の温度を下げられるので、体温が上がりすぎない。アップ時からオレゴンプロジェクトのコーチはアイスボックスを持って、スタート地点でサポートしていたし、大迫はレース中もかち割り袋をつかんでいましたね。

選手の個性を垣間見たMGC

西本 今回は岩出さんが一石を投じたね。最後尾になったけど、ゴールでは観客とハイタッチして。最終ランナーとしてゴールする瞬間も、両手を広げてまるで優勝したかのような雰囲気だった。グッドルーザー。彼女は特に次に繋がっているように感じたよ。

ジェニファー スタート前から岩出選手に注目していたんです。で、レース後にインスタでも「次のレースに臨みます」と力強いコメントがされていて。スポーツマンシップのある人だな、と改めて思いました。

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mark── 自分が期待している、応援している選手が遅れるとき、ファン心理としてはとても辛いと思います。みんなどんな気持ちで今回のMGCを見ていたんでしょうね。

西本 メディアやファンなどは日本記録更新を求めがちだが、僕ら走る人間からすれば自己ベストで十分だと思っている。次の東京マラソンで自己ベストが出ればいい。そしてその次をどうするか。力を発揮できなかったからといって、終わるわけではない。引退したってその先もある。大学の頃の絶不調の中村選手も見てきました。でも今回のような結果が出た。選手も長い人生なのだから、一つのレースでだけで判断しないということがファンにとっても大事なのでは。

ジェニファー 私も今年のボストンで初めて自己ベストが出なかったんですが、レース自体をとても楽しみました。それで十分だって思っています。

西本 走り切ったことをまず褒めてあげたいよね。選手には自分に対する感動も少なからずあるはずなんだ。MGCでも走り終わって涙を流す選手は少なくなかった。

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mark── 多方向に話が広がりましたが、そろそろまとめていきたいと思います。MGCを通じて、「走ること」の意識が高まったかと思いますし、mark12号はMGC特集の他には走り方の徹底ガイドになっています。お三方はみな走られる方ですが、自分にとって走ることとはどんな意味があるのでしょうか?

西本 この歳になると、仕事や家庭のことなどいろいろ相談を受けますが、そんな時には「走ると大体うまくいくから走りなよ」と答えています。走ればいいことあるぞ、と思いながら走ることをオススメしたいですね。

ジェニファー いろんな人に出会える場ですね。そこではランニングに限らず、違う話もできる。隣で走っているとなんでも話せちゃう、そんな魅力があります。

桃澤 中1の頃から15年間走っていますが、走っていて楽しいと感じたことはありません。走っていてよかったことは今までいくつかありますが、その一つが「友達ができた」ということ。メディア受けの悪い答えなのは知っていますけど、本当のことです(笑) 選手としては、井上大仁に勝つために走っていますので、ぜひレースを観にきてください!

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(2019年9月17日 代官山蔦屋書店にて収録)

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